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ダメ女のエール ~笑顔のキセキ~  作者: F'sy
第二章・恋愛
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告白

 夕飯が済んでからの私は、ずっとそわそわしていた。何をしていても携帯ばかりが気になる。

(そんなにすぐかかってくるわけない。今日来るかどうか……。もしかしたら、ずっと来ないかもしれないのに。焦るな、焦るな)

 頭ではそう思っていても、私の右手は落ち着きなく携帯をもてあそんでいた。


 しばらくそうしていると、着信音が鳴った。開いてままの携帯の画面には、知らない番号が表示されている。一気に速まる心臓の鼓動。少し間をとって気持ちを落ち着かせてから、意を決して通話ボタンを押し携帯を耳に当てた。

「──もしもし?」

「あ、もしもし? 教習所の葉山です」

 ひと呼吸置いた甲斐もなく、頭の中が真っ白になった。自分で『連絡下さい』なんて書いたくせに、いざかかってくるとやはり動揺する。変な間が空いたのだろう、先生が「もしもし?」と私の返事を促す。

「……あっ! 先生、びっくりです〜」

「いやいや、こっちのがびっくりですよ」

 笑って言う先生の笑顔が想像できるほど、声だけでも優しい雰囲気は変わらない。それだけに、耳元で声を聞いていると急に親密になったような気がして、話すうちにだんだん気恥ずかしくなってきた。私は耐えられなくなって、自分勝手だとは思いつつも言った。

「すいません……。なんだか電話、恥ずかしくなってきちゃったんで、メールにしてもらってもいいですか……?」

「ええ、いいですよ」

 先生は気を悪くした様子もなく、電話を切ったあとすぐにメールをくれた。その後メールのやりとりが何度か続いたが、気が付くともう日付が変わろうとしていた。先生は明日も仕事のようだし、主婦の朝も早い。お互いに『おやすみなさい』と送り合って、この日はメールを終えた。


 本当はもっと続けたかった……でも、嬉しかった。気分が高揚してなかなか寝付けず、いつの間にか窓の外では朝日が昇り始めていた。


 それからというもの、私たちは毎日メールのやりとりをし、時には電話もした。その日ごとの他愛もない出来事の話ばかりだったが、先生と言葉を交わしているだけで楽しかった。


 教習所内では秘密にしている。『教官と生徒が必要以上の交流を持つのは、所内の心証がよくないから……』と先生に言われたからだ。先生に迷惑が掛かってはいけないので、私は素直に聞き入れた。

 教習所で先生を見つけても声を掛けたりせず、たまに目が合うとお互いにぎこちなく笑顔を作る──。少し恥ずかしくもあり、けれど秘密を共有しているという小さな優越感を感じられる、その瞬間が嬉しくもあった。


 最初の電話から数日後、私は今回の恋で二度目の決心をする。──告白。

 今まで想いを言葉にしなかったのは、まだひと目惚れという感覚に充分な自信を持てていなかったから。しかし、この数日で自分の直感は正しかったと思えるようになり、教習所を卒業する前に想いを伝えようと決心したのだ。


 メールを送る時間は、いつも大体同じ時間帯だ。先生は『今日も来た』程度に思うだろう。本当は電話で言いたいのだが、きっとまともに伝えられないし、雰囲気が重くなってしまうのも避けたかった。

 断られることが前提なら、受けるショックはなるべく少ないほうがいい。……要するに、それが怖かっただけ。

(ダメダメ、言う前からそんなんじゃ……。でも軽めに言えば、先生も困らないよね)

 一度大きく深呼吸してから、『今日もお疲れ様です!』とメールを送る。そしていつもと変わらないやりとりが始まり、何度目かの返事で私はこう打った。

『私、先生のことすきですよ! 今も会いたいです♪』

 かなりの不意打ちだったと思う。送ったあとにそれまでのメールを見返してみると、驚かせようとしているみたいで少しおかしかった。だがそれも一瞬だけで、あとは来たるべき返事に対しての心の準備をしていた。──もちろん、否定的な返事に対しての。


 ……やはり、なかなか返事が来ない。考えさせてしまうのはわかっていたが、それでも返事を待っている時間はつらかった。答えは出ているようなものだから……。

 今まで先生と交わしたメールを見返していたが、三十分ほど経ったところで諦めて携帯をベッドに置く。それとほぼ同時にメールが届いたが、携帯を開いて『葉山先生』という表示を見てもまったくテンションが上がらなかった。

(きっと、なんて断ろうか考えてて時間かかったんだろうな……)

 そんなふうにしか思えず、先生がこれ以上困らないような返事を考えながら返信メールを読み始めた。


『お互いのこと、まだ何も知らないし……。

 でも、人を好きになるタイミングは人それぞれ違うと思うので、

 気持ちはとても嬉しいです。

 よければ、教習所を卒業したらどこか遊びに行きましょう。』


(──えっ? これって……)

 すぐに内容が理解できなかった。必要以上に時間をかけてようやくメールの意味が頭全体に浸透すると、体からふつふつと喜びが沸き上がってくる。

 否定的じゃない、むしろ肯定的といえるその内容に、私は目を潤ませた。嬉しくてたまらなかった。その喜びをメールに打って返す。さっきまでの無感情な自分はどこかに消え、別人のように浮ついた気持ちの私がいた。

(早く卒業したい! 免許も絶対、一回で取ってやる!)

 俄然やる気になった私はその夜、いつもよりぐっすりと眠りについた。

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