第一話 再カイ
深夜の都会。
一人の少年が建物の上から、夜遊びを満喫する若者達を眺めていた。この国が滅びるか、年末年始を迎えるまでは町の明かりが消える事はない。極寒だろうが猛暑だろうが町を行き交う人々は一向に減らない。
〔この季節でもああして毎晩パチンコばっかやっとるんか。それ以外にやること無いんか?〕
そんな事を考えていると、スマホが振動した。メールだ。内容は•••
<ごめん、今から行く。>
少年ーーハクは舌打ちをしながら、屋上に設置されているベンチにドッカと座った。大して重くもない自分の体重で、ベンチがミシミシと呻き声を上げた。
そのベンチでイライラしながら貧乏ゆすりをしていると、やっと背後の扉が高音を発して待ち人が現れた。
「シフォルン、お前何様やねん。呼び出した方が遅刻するって。」
ハクは後ろを振り返って、ようやく現れた待ち人に文句を言った。
「ごめん、寝てたわ。」
シフォルンは苦笑いしながら、またいつも通りの言い訳を使った。
「連絡も無しで、こっちからメールしてからじゃないと来ないとかふざけとるやろ。」
ハクはベンチから立ち上がってシフォルンに詰めよった。
「本当に悪かったって、これで許してくれや。」
そう言って、シフォルンはハクの大好物であるエナジードリンクを渡した。
「これ•••。」
期間限定verのものだった。
本来は許すべきではないが、自分がさんざん欲しがっていたものを貰って、そうもいかなくなってしまった。
「フゥ、それで本題って何なん?」
ため息をつきながら、イラつきを何とか抑え込んでハクは質問した。
「例の軍事転用されるテロリストの事は聞いとるやろ?」
「知っとるよ。『ガク』。政府の重要人物の暗殺未遂、政府の関係器物の大量破壊、国家機密の奪取及び公開未遂、その他諸々の罪で投獄されてるテロリスト。そいつによる被害総額は1億$超だって聞いとるけど。」
ハクがそう言うと、シフォルンは
「実はそいつを輸送する役を俺達が任されて、今から行かなあかんねん。」
っと言った。
ハクはそれを聞いて、混乱した。
「は?何で俺ら?そんな奴、上層部がやりくりするんちゃうん?何で俺らみたいな、ちょっとした中隊率いるレベルが駆り出されるんや?」
ハクの疑問にシフォルンは難しい顔をした。
「そこが問題やねん。何でも『ガク』を制するには俺らが適任らしくて、実際に会えば理由も分かるって言われたで」
「•••???」
ますますハクは混乱した。
「まあ、とにかく行こうや。ここに呼んだのも、そいつがいる目的地に一番近くて、待ち合わせをしやすい場所だったからやし。」
シフォルンは、首を傾げているハクを引っ張って目的地へ向かった。
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「ああ、ちゃうちゃう。玄関じゃなくてコッチ。」
シフォルンに言われて、ハクは某家の扉から手を放した。
「あーね。『ガク』を閉じ込めるには随分とボロい家宅やから不思議に思ってたけど、"内"じゃなくて"下"なんか。」
そう言うと、ハクはシフォルンが指差すマンホールを見た。
「しっかし、コレ上手いこと偽装しとるな。どう見てもマンホールやで。」
「そりゃ、マジでマンホールやからな。」
ハクがマジレスする。
「そうゆうことちょうんやけどな•••」
ハクのマジレスを受けて、シフォルンは頭を掻きながら、マンホールの蓋を合鍵で外して、"下"に潜っていった。
「にしても、マンホールを、地下施設の入口に改造するなんて、よう思い付いたもんや。」
そう言って、ハクもシフォルンの後を追って"下"に潜っていった。
ハクがマンホールの蓋を閉めると、梯子の通路に電気が灯り、底の部分が開いて、2mくらいの円柱通路が7mくらいの深さになった。どうやら蓋を開けているときはただのマンホールに見せかけ、蓋を閉めると地下施設に繋がる通路へと変身するようだ。実際は水など通らないのだろう。
梯子を降りきると、何やら怪しげな物体が入った、大きな水槽の数々が、ブクブクと音を立てる部屋に着いた。
「お待ちしておりました。テンポー様とフォスター様ですね?私はナーズ•スワンと申します。」
管理者らしき白衣の女性が出迎えた。
「苗字でなくても良いですよ。ハク、シフォルンとお呼びください。」
ハクが応じた。
「へえ。なあお姉さん、この後俺t•••モギュウムムム!!」
「すみません、この男はキレイな女性を見るといつもこうなんです。」
一歩前へ出たシフォルンをハクはうなじを掴んで引き戻した。
「いえいえ、むしろ嬉しいです。もう40代なのにそう言って貰えるなんて。」
ナーズは照れくさそうに笑って答えた。
「え、40代?こ~れ~は~中々にそそr」
「ちょっ~と黙れ、お前。」
ハクは再び一歩前へ出たシフォルンを引き戻した。
「ところでお聞きしますが、何故僕たちが『ガク』の輸送をまかされたのですか?上層部は、ここに来れば分かるとおっしゃっていましたが。」
ハクはさっきからずっと疑問に思っていた事を言った。
「実際に見た方が速いですね。コチラヘどうぞ。」
ナーズに案内され、ハクとシフォルンは奥に進んだ。途中にはいくつもの大小様々な水槽があり、ひとつひとつに何やら怪しげな物体や動物らしき物が入っていた。ここは危険物保管所なのだろうか。
稀に目に入る、醜い外見と不気味な呻き声をあげる動物に、シフォルンとハクは若干恐怖を覚えた。
「怖いですか?」
ハクとシフォルンの異変に気付いたのか、ナーズが口を開いた。
「はい、少し•••。でも今までにこういうものは何回も見ているので問題ありません。お気になさらず。」
ハクは見栄を張らず、正直に答えた。
「そうでしたか。でも気分が悪くなったらすぐにお知らせくださいね。」
ナーズはまるで、自分の子供を見るかのように二人を心配した。
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「••••••••。」
「••••••••。」
二人は『ガク』が入った水槽の前に連れてこられた瞬間、全てを悟った。その縦4m横2mほどの容器にはハクやシフォルンと同じくらいの年格好の酸素マスクを付けられた少年が入っていた。
「あ~。そういうことかあ。」
シフォルンが言った。
「これは納得やな。どうりで俺たちが連れてこられる訳や。」ハクが言った。
「いやー、こんな形で再カイするなんて、俺も思わなかったよ。」
水槽の少年がマスクのマイクを通じて答えた。
「まあ、昔から何かやらかしそうな奴やったけど、まさかここまでとは思わんかったわ。」
ハクが言った。
「それな。」
ハクの発言にシフォルンも同意した。
「えぇ•••。俺ってそういうふうに見られてたの•••?」
ガクが少し傷ついた様子で言った。
「だってダントお前、学校に中身が牛乳の水筒持って来とったやん。」
シフォルンが、さらっとガクこと本名ダント(以後ダントと表記)の過去を掘り返した。
「え、それは関係ないやろ?」
シフォルンの発言にハクがツッコミを入れた。
「あ、じゃあ中学校で校則の一覧を先生の前でビリビリ破ったこととかどうや?」
「そうそう、そんな感じの•••って、ダントお前ってそんなことしてたんか?初耳やぞ!?」
ハクが驚いて目を見開いた。
「あ、そうか。ダントから聞いたんやけどハクには言ってなかったな。」
シフォルンは頭を掻いた。
「てっきり、卒業式の暴走事件とか、薬物講演や情報モラルの爆弾発言のことかと思ったわ。」
ハクは中学時代の大事件の話題を出した。
「あったあった、あれは傑作やったな。あの事件のせいで学校に警察が来たぐらいやもんな。」
「待て待て、警察が来たのはお前が起こした脱走事件の時やろ?」
ハクが再びシフォルンにツッコミを入れた。
その様子を見て、ナーズがクスクスと笑った。
「皆さんは仲が良いのですね。」
「「はい!?何でこんな奴t•••って、被せてくんな!!」」
ナーズへの返答に二人のセリフが完全一致した。
「「ナーズさん、コイツとはあくまでも腐れ縁d•••って、だから被せてくんな!!」」
その様子を見て、ナーズはプッーと吹き出した。
「よ~し!そんなにおちょくりたいんやったら、徹底的にやり合おうや。」
普段真面目なハクが珍しく好戦的になった。
「ええで、ええで。それでこそハクや。」
調子に乗ってシフォルンも構えをとった。
「やっぱり、仲がよろしいのですね。」
その様子を見て、ナーズは笑いを堪えながら言った。
「「だから、それはこの野郎g•••って、だから何で被せてくんねん!」」
とうとう笑い転げるナーズ。良く分からないところが原因となって、良く分からないことを始めようとしている、ハクとシフォルン。それらを見て、ダントは。呟いた。
「えっと•••俺はいつになったら出して貰えるの•••?」




