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死に戻り聖女は、魔王への愛を叫ぶ  作者: 三歩ミチ
5章 婚礼の儀へ
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幕間2 王の苛立ち

「割り振られる魔石がこんなにも少ないようでは、研究局では何の開発も進みませぬぞ! どうなっておるのですじゃ!」

「マデル研究局長は、割り振られるべき魔石を先に持ち帰ったと報告が来ておる」

「なぬっ? 違いますじゃ、あれは騎士団長がわしに融通してくれたもの! 国から割り振られる魔石が無くては研究が止まりますぞ!」


 小太りの男が子供じみた地団駄を踏むのを、ネフィリア国王は些かうんざりした気持ちで眺めた。

 マデル研究局長がこうして乗り込んできたのは、一度や二度ではない。魔石の量が少しでも減ると「研究に障る」と騒ぎ喚くのだ。

 これでも魔導具のことになれば酷く有能で、彼が開発管理する魔導具が騎士団の戦力向上に大いに関わっているため、無闇に外すこともできない。潤沢な魔石があって欲しがるだけ融通してやれた頃は良かったが、魔石の回収量が減ったこの頃、遠慮を知らぬマデル及び研究局の連中は国王の悩みの種だった。


「どうやら魔獣の量が減って、回収できる魔石にも限りがあるようなのだ。研究局なら、魔獣を増やす算段を立てられるか?」

「ほう、そのようなことが? ふむ……魔獣の生態について書かれた書物があったはずですじゃ。見て参ります」

「うむ、頼んだぞ」


 聖女を失った今、魔獣を増やしたところで必要なだけの魔石を回収できないことは国王にはわかっている。これは単に、研究局に新たな探求目標を与えることで体よく追い払っただけだ。

 研究局には、聖女の不在は伝えていない。だからこのようなややこしい事態になっているのだが、聖女の不在が世間に知れれば余計にややこしい事態になる。マデルの機嫌取りは必要経費だ。


(……それも、そろそろ限界が来るだろう)


 魔石の回収量が低いまま留まっていることで、流通量も減少した。備蓄の魔石も減りつつある。それがなくなり、生活のための魔石が充分に得られなくなった時には、もう聖女の不在は隠せない。


(リナルドには悪いが、これ以上待てぬ)


 思いを寄せる相手を呼び戻そうと頑張っているらしい息子に対して、悪いと感じる親心くらいは国王にも備わっている。しかし、王が重んじるのは何よりも国の安寧。

 玉座の肘掛けを決まったリズムで叩く。どこからともなく、音も立てずに現れる人影。黒き装束に身を包んだ「王の影」が、静かに跪く。


「報告を」

「瘴気の壁を突破する方法は見つかりませんでした。今回の施行で、2人が命を落とし、3人が再起不能となっております」

「……ふむ。暗殺は不可能だと言うのか?」

「聖女が魔王城にいる限りは、現時点の情報では不可能と判断せざるを得ません」

「聖女を呼び出すしかないのだな。リナルドは失敗し続けているようだが」


 暗殺の命を受けた王の影が聖女の命を奪えていないということは、そういうことだ。例えリナルドが見ていようと、確実に命を奪うだけの技術と冷酷さが彼らにはある。


「……僭越ながら申し上げます」

「何だ」

「第二王子殿下の送っておられる文には、改善の余地があるかと存じます」

「……改善すれば、聖女を呼び出せるのか?」

「可能性はあるかと」

「ならば一筆書いてやろう。詳しく話せ」


 一通りの見立てを影から聞いた国王による「用件を端的に書け」との助言が戦線のリナルドに届くまで、そう長い時間はかからないのだった。

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