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死に戻り聖女は、魔王への愛を叫ぶ  作者: 三歩ミチ
4章 気付いたフィリス
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幕間2 望まれぬ襲撃者 in サディロ街

 幸いだったのは、その男がナイフを持っていたことである。さらに幸運なことに、男はサディロ街に来たばかりで、瘴気の影響をまださほど受けていなかった。


「なっ……なんだこいつは……! 速え!」


 全速力で森の中を駆ける男を追うのは黒い狼。鋭い牙を剥き出しにして殺意を露わにする。

 共に全力で森を駆けた場合、狼に軍配が上がるのは当然のことだった。男のすぐ後ろで荒い息遣いが聞こえる。


「何だ、何なんだよ……うおおっ!」


 男が転んだのもまた、幸運のひとつである。

 体勢を崩した男を目掛け、狼は飛び上がって襲いかかる。上方から襲ってくるおおかみに向け、男は咄嗟にナイフを手に取り狼に向かって突き出す。

 最大の幸運は、それが偶然にも狼の胸に刺さったこと。互いの勢いがナイフの鋭い切先にかかり、皮膚を貫き、その奥へ到達する。

 男は何か、カチン、という硬い感触を覚えた。途端にぶわっと狼の輪郭が崩れる。


「え? …………消えた……?」


 死んだのではなく、消えた。自分に襲い掛かろうとしていた狼が黒い霧のようになって消えたのを、男は確かにこの目で見た。

 とにかく命は助かった。男はその場から逃げ出す。

 必死だった男は気が付かなかったが、狼が消えた後の地面には、黒く小さな石のようなものが転がっていた。ネフィリア王国で「魔石」と呼ばれるそれは、この国ではまだ誰も知らない。


 サディロ街では「決して入ってはならない」と伝えられる死の森。迷い込んだものが二度と出てこないことからそう名付けられた森は、不思議な呪いをかけられているのではなく、何か獣が巣食っているだけらしい。森に立ち入った無謀な新参者によって上げられた報告は、なかなかに有意義なものだった。

 森に立ち入れるようになれば、その恵みを受けることによってサディロ街の暮らしぶりも多少は楽になるかもしれない。そんな領主の判断で、サディロ街の森へと調査隊が派遣されるのはもう少し先のことだった。

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