終章 終わりに音は要らない
すさまじい衝撃。そして爆音。意識が飛びそうになった。ただ、そんな中にありながら、両足はしっかりと地面に着いていた。
塔が割れていた。爆発の中でただ一つその場に残っていた塔が、何の前触れもなくまっぷたつに割れた。
いや、塔が割れたことなどどうでも良い。問題は、なぜ塔の中に黒く輝く人影が見えるのかと言うことだ。
「何だよ・・・・・・一体・・・・・・」
彼がつぶやいている。誰に向けたわけでもない、質問。その質問に答えられるものはいないだろう。恐らく、人類の中には。
塔からかなり離れているはずのここから見ても、その人影は巨大に見える。一体どれだけの大きさがあるのだろう。
人影はこちらを向いた。体の巨大さと相まって、動きがとてもゆっくりのように見える。
こちらを向いた?なぜ今こちらを向いたと思ったのだろう。その体にはほとんど凹凸がなく、さらに遠目で見ているのだから、どちらを向いているのなんか分からないはずなのに。ましてや初めて見た巨大なものだというのに。
唐突に、その巨大な人影は一際黒く発光した。黒い輝きが塔を中心に広がる。
反応などできなかった。ただただその現象をボーッと眺めていた。
そして、黒い輝きが僕らを包もうとしたとき。
僕もまた、白く発光した。僕の意識はどこか遠くへと飛んでいった。
何だって言うんだよ。
青年は心の中で悪態をついた。
騒ぎの元凶は息絶え、全ては丸く収まると思っていた。だがしかしまだまだ終わってはいないようだ。終わる気配は全くない。
何よりも、自分にできることが何一つない。
青年にできるのは、状況を見つめることと、絶える事なき疑問を抱えることのみ。
なぜいきなり塔が割れたのか。なぜ塔の中に人影が見えるのか。なぜ黒い閃光が襲ってくるのか。その後気絶したと言うことも含め、なぜ傍らの少年が自分たちをかばうかのように白く発光したのか。なぜ・・・・・・なぜ塔の中に見える人影と同じような形をした、ただし白く輝く人型が自分たちの前に立っているのか。
「ようやく姿を現したな。」
人型が言った。とても低い声。音を発したのではなく、頭に直接響くような声。どうやら向こうの人影に語りかけているようだ。
青年はこの不思議な現象に疑問を増やしながら、しかしこの人型がその巨体に見合う声を発したら恐らく鼓膜が破れるではすまないだろうとどこか安心する。
「君が近くにいることが分かったからね。」
黒い人型が答えた。こちらは若い青年の少し高めの声だ。どこか人を馬鹿にしたかのような話し方。
「できればずっと憑んでいたかったんだけどね。ちょっと力の解放が遅くなったらやられちゃいそうだし。」
「人間にとりつきその感情によるエネルギーを吸い取る。全く趣味の悪いことだ。」
「君もやってみたら?やみつきになるよ。」
「遠慮しておこう。」
「でも君もさっきまで人間に取り憑いていたじゃない。」
「お前に気付かれないようにするためだ。現にお前はかなり近くに行くまで私の存在に気付かなかった。」
二人で訳の分からない会話を続けている。彼らの足下になんか気にかけていないだろう。
青年は思った。一刻も早くこの場を離れた方が良い。彼は気絶した少年を何とか背負い、少しずつ移動を始めた。
「それじゃあ人間の方には興味がなかったってことだね。かわいそうに。取り憑かれた人間にかかる負担はとても大きいっていうのに。」
「それこそお前と同じことだろう。」
「実は僕は直接憑いていたんじゃないんだ。そのための“塔”なんだよ。」
「・・・・・・無駄な話はこれで終わりだ。どうせ私が力を全て解放すれば、おまえは太刀打ちできないのだからな。」
「まあ、その通りなんだけどね。僕も始めから戦うつもりはないよ。まあ、軽く力は使ったけどね。それも簡単に対処されちゃったみたいだし。この会話だってただの時間稼ぎさ。」
「そんなところだろうと思ったがな。」
白い人型が、黒き人型に向けて力を放とうとする。
「おや?そんな事したらそこにいる人間さん、死んじゃうんじゃないかな。」
「構わない。地球全体を生かすために人間の命の一つや二つ消えても仕方がない。」
「僕は逃げるから関係ないけど。そこの人間さんかわいそうだね。」
白い人型から白い光が放射されたのと、黒い人型が黒い光を放ったのは、ほぼ同時だった。
世界は白く染まった。
「逃げられたか・・・・・・」
―――またどこかで会おうよ―――
「まだ奴の意志がここらあたりに残っているな。これだけでも回収しよう。」
白い人型が手を空に向けると、空から光が降り注いだ。それだけ見ればとても幻想的な光景だった。
周囲から黒い光が集まり、白い人型の手の中に消えた。
「これで終わりだ。」
「待てよ。」
人型の足下から声がした。全身ぼろぼろの青年が立っていた。
「なんだ、人間。まだ生きていたのか。力の回収をしたその体ではもう長くは持つまい。お前が望むのならば、すぐに楽にしてやろう。」
「お前が自分でやっておいて今更何をいいやがる。俺の事なんてどうでもいい。ただ、お前が破壊したものを、元に戻せ!」
「私が破壊したのではない。奴が破壊したのだ。」
「同じ事だ!」
「・・・・・・」
「俺はお前がなんなのか知らない。さっきの黒く光る奴のことだって知らない。それでも見れば分かる。お前とさっきの奴は同じ何かだ!お前達の訳の分からない争いに、俺たちはただ巻き込まれただけだって言うのか!」
「説明しても無駄なことだ。人間には理解できまい。それにお前に教えたところで、どうせすぐに燃え尽きる身。誰にも得になることはない。」
白い人型はいつの間にやら少年を抱えていた。
「まて!そいつをどうするつもりだ!」
「ただ元の時代に連れ帰るだけのこと。無論ここでの記憶を消してな。」
「そこまですることがあるのか!」
「当然だ。この世界での記憶が残っていれば、確実にこの人間は狂ってしまう。それに感情の操作も行った。これは記憶しているだけで精神に異常が出る。」
「感情の操作、だと!」
「何でも訊く。そんなに質問があるのならば、お前が燃え尽きるまでの間、答えだけでも言ってやろう。そうだ。感情の操作だ。もともとただの人間だ。ただの人間にいきなり戦えといっても無理な話。ストレスばかりがかかるだけだ。それにストレッサーは戦うことだけではない。いきなり見知らぬものに拉致される恐怖、見知らぬ場所へと連れられる恐怖、そして死への恐怖。感情の操作は必須だ。」
「じゃあ、そいつも、お前が変な奴と戦うってためだけに、ここに連れてきたってうのか!」
「正確には連れてきたのは私ではないがな。」
「そんなことどうでも良いんだ!全部お前の都合だったのか!こいつがここに来たのも!俺と共に戦うと言ったのも!途中でこいつがおかしくなったのも!全部!」
「その通りだ。」
「ふざけてんじゃねぇ!」
「もうお前に話すこともないだろう。」
そう言うと、白い人型はどこかへと飛び去ってしまった。
「待て・・・・・・待ちやがれ・・・・・・この野郎・・・・・・」
そう言って、青年は息絶えた。
生物がいなくなり、音という音がいっさいしなくなった平原に、時は動きだし、しばらくぶりの太陽が顔を出した。
とてもめちゃくちゃです。
おまけに小説内のいろいろが適当に終わっています。




