第22章 破壊
部屋に充満した煙が晴れたとき、
決着はついていた。
周囲にはぼろぼろになり、未だ火花をあげている壁。部屋の隅には、壁にその身をめり込ませた老人の姿。そして部屋の中央には・・・・・・
呆けたように立ちつくす、少年の姿があった。
「あれ・・・・・・」
どうしたんだろう。
なんだか記憶が飛んでいる。今の今まで何をしていたのかが分からない。
確か、僕はグレイと名乗る老人と戦っていたような気がする。なぜ、目の前にその老人が倒れているのだろうか。いったい・・・・・・誰が・・・・・・?
「君が、倒したの?」
「いや、違うが・・・・・・お前、覚えてないのか?」
「覚えている?何を?」
「いや、もういい。」
彼も分からないのだろうか。じゃあ、いったいこれは何が?
「これで、終わりだ。」
「フ、誰がおわったと言った?誰がもう戦えないと言ったのだ?」
後ろで彼と老人とが話している。
「誰も言わなくたって分かる。お前は今まで見たことがないくらいにぼろぼろだ。それで戦う力が残っていたらもう人間じゃあない。」
「言っただろう?私は人間じゃない。」
「いや、お前は人間だ。良い意味でも、悪い意味でもな。」
「まあいいだろう。だが戦いは本当にこれで終わったわけじゃない。」
「分かってるさ。俺たちはこれからお前の信仰の対象を・・・・・・」
「破壊するだけの時間がなかったとしたら、どうだ。」
「時間がない?もう他に邪魔をするものはいない。いくらでも時間をかけられるはずだが。」
「爆発まで、あと三〇〇秒。信じる信じないは、お前の勝手だ。今から脱出すれば余裕を持って出られる。」
「そんなこと信じてはいられない。一刻も早く破壊してやる。いくぞ。」
彼が急かしてくる。頭の中が混乱していて正直それどころじゃないけど。
「え、でも、脱出しなくちゃ・・・・・・」
「あんなやつの言うこと信じるな。今を逃したら次はない。それに急いでいけば問題はない。」
彼が走っていってしまった。あわてて後に続く。
「・・・・・・我が・・・・・・絶対に破壊されるものじゃない・・・・・・あれは・・・・・・」
老人が何かをつぶやいたが、よく聞き取ることはできなかった。
最奥部へと続く通路。まだこんなものがあった。しかもこれが結構長い。どれだけの広さがあるんだろう。この建物。
そして・・・・・・
明らかにそれと分かる巨大な扉が、その通路の奥にはあった。
組織の中心部、それを守る扉だ。どんな鍵がかかっているかと思いきや、あったのは妙に大きなシリンダー錠が一つだけだった。
「八列のシリンダー。一つ一つにアルファベット二六文字か。無駄にでかくなるわけだ。」
「普通に文字をあわせれば開くのかな。」
「形からしては、そういうことだろうな。」
意外と単純な鍵ということだ。とはいえ、アルファベットが八列、パターン数はかなり多い。二六の八乗、二〇八八二七〇六四五七六通りものパターン数だ。全て試すことは不可能ではないが、時間がかかりすぎる。老人の残した謎の言葉もある。あまり時間を使ってはいられない。
「何も・・・・・・ってことか・・・・・・じゃあ・・・・・・いや・・・・・・してる場合じゃ・・・・・・」
「え?」
「あ?ああ。何でもない。」
今この状況で、何でもないことを彼がつぶやくものだろうか?そう思ったが、僕は心を読めるわけじゃない。とりあえず今の言葉は忘れることにしよう。
「そんなことより、覚えてるだろ?扉を開けるパスワードのヒント。」
「・・・・・・」
確かに彼は出発前に、ある紙を見せてきた。その紙にはパスワードではなく、パスワードのヒントが書かれていた。八つの数字。アルファベットでもなかった。たしか“17 61 2 97 71 11 2 41”だったはずだ。
「あれを解けばパスワードが分かるはずだ。と言っても、俺はさっぱり分からないがな。」
「わざわざ解かなくても、無理矢理鍵を壊すことはできないの?」
「無理そうだ。どれだけ力を込めても何ともない。」
「じゃあ本格的にヒントを解いていくしかないのか・・・・・・」
「そういうことだ。」
「・・・・・・」
手がかりは八つの数字“17 61 2 97 71 11 2 41”。そして、シリンダーが八列あり、一列一列にアルファベットが書かれている、ということ。
数字とシリンダーは共に八つ。この数字がアルファベットと連動しているということだろうか?ならばそこには法則性があるはず。
その時、
「な、何だ!この音は!」
床が震えた。いや、床だけでなく、あちこちが震えた。悲鳴を上げた。恐らくは、建物全体がそうなのだろう。
「何?何が・・・・・・」
「確か、前にもこんなことが・・・・・・いや、まさか。」
「何!?何なの!?」
「この振動は、前に黒閃光の大爆発が起こった時の前兆と同じだ。」
「そうなの!?じゃあ早く脱出・・・・・・」
「もうそんな時間はない。脱出するまでに爆発するだろう。それに建物からだけじゃない。黒色の核の爆発の範囲が広いことは言っただろう。」
「でも・・・・・・そうだ。この壁!この壁は確か黒閃光の大爆発の爆発でも大丈夫なようにって。」
「目指すだけで実現するなら話は簡単だ。誰も実験していないから真相は謎のままさ。逃げられるだけ逃げたとしても、この建物は厄介な構造してるからなあまり距離は稼げない。戻って無駄なら進もうぜ。それに、前の黒閃光の大爆発では死者が出ていない。運がよければ助かる。」
「・・・・・・分かった。」
急がなくちゃ。もう時間がない。
法則性。そうだ、法則性。この数字の並びと、アルファベットの間の法則性。普通にアルファベットの順番だろうか?違う。アルファベットは二六文字、二六を軽く超える数字が出ていては並べない。
まず並んでいる数字の方に共通点があるはずだ。“17 61 2 97 71 11 2 41”あれ、これってもしかして・・・・・・。
いや、間違いない。これは全部素数で並んでいる。ならば、素数の順番と言うことだろうか?一から順番に・・・・・・H、S、B、Z、U、F、B、N・・・・・・
だめだ、開かない。なぜ?なぜだ?
焦って焦って、ふと、HSBZUFBNの隣を見た。片方にはITCAVGCO、そして反対側には・・・・・・。
GRAYTEAM、灰色の組織。
間違いなくこれだと思い、シリンダーを回転させる。案の定、鍵ははずれた。
「やった・・・・・・?」
「開いた!」
わざと違う数字を書いたのだろうか?いや、誰が書いたのかも分からないものについて、深く考えてる時間じゃない。
「やるじゃないか!」
扉が開いた。そこにあったのは・・・・・・
巨大な・・・・・・巨大な灰色の塔。
そしてその瞬間、
視界が白い閃光に埋め尽くされた。