第19章 堕落
変化についてこられる人だけどうぞ。
全く何の前触れもなかった。いきなりの爆発だった。
「え・・・・・・」
「ボーッとしてるんじゃない!」
彼の言葉でようやく我に返った。グレイと名乗る老人は、今度はこちらに手を向けている。
あわてて僕も動いた。一瞬遅れてさっきまでいた場所に爆発が起こる。
「何・・・・・・」
「これこそが真の力!この力の前には何人も屈するのだ!」
グレイは叫ぶ。
「組織のトップは伊達じゃないってことだぜ。気を引き締めろ!」
彼はグレイに向かって駆け、ほとんど音速に近いスピードのけりを見舞う。
グレイはそのけりに向けてまた手を突き出す。
「はっ!!」
ズガッ!
彼の足とグレイの手の間で力がぶつかり合った。
「甘いわっ!」
彼が押し戻されてしまった。
僕はその間に、反対側から突進し、その勢いのまま突きを繰り出すが、
「その程度かっ!」
一声とともに発せられたエネルギーに簡単に勢いを殺されてしまった。
「何・・・・・・こいつ・・・・・・」
今度は両側から同時に迫る。
グレイは両側に手を突き出し、気合いを込めた。
バシッ
カシンッ
片手で一人を押さえている。すさまじいパワーだ。
「うっ・・・・・・」
「くっ・・・・・・」
二人とも吹き飛ばされてしまった。
「フフハハハハハハハ!誰もわたしをはばめぬ。誰も止められぬのだ!誰も持ち得ぬ、これこそが真の力だ!」
「・・・・・・こいつは・・・・・・予想以上だな・・・・・・」
「何なの・・・・・・これは・・・・・・」
「これは・・・・・・やつの言うところの真の力・・・・・・ここら一帯のエネルギーを・・・・・・自由に使役できるという・・・・・・力だ・・・・・・」
「じゃあ・・・・・・さっきの爆発は・・・・・・」
「単純に・・・・・・熱エネルギーの塊を・・・・・・ぶつけただけだ・・・・・・」
「それだけで・・・・・・じゃあ・・・・・・何だってできるじゃないか・・・・・・!!」
いきなりグレイが会話に入ってきた。
「そのとおりだ!!わたしはすべてを支配できるのだ!!」
「神にでもなったつもりかよ・・・・・・!ちくしょうめ・・・・・・!」
「なったつもり、などではない。わたしは神になったのだ!」
「ふざけるな・・・・・・それは人間に扱える力じゃねえ・・・・・・!」
「わたしは既に人間ではない!」
だめだ・・・・・・この人は完全に・・・・・・狂っている!!
今更になって気づいたことだが、グレイは自分から攻撃を仕掛けてくるようなことはしていない。わざわざ倒すまでもないと思っているのだろうか・・・・・・。
その事に気づいたとたん、気力がわいてきた。
何とか僕は立ち上がる。彼も立ち上がった。
倒さねばならない、という使命感よりも、単純な怒りによる行動だ。
何度でも、立ち上がってみせる・・・・・・!!!
ズガン
ドカン
ドゴッ
何度吹き飛ばされただろう。既に部屋の中はへこみだらけになっている。
痛みは感じない。ただ漠然とした疲労感があるのみ。
疲労感を断ち切って、また立ち上がる。また向かい、また吹き飛ばされる。
延々とこの繰り返しだ。
グレイの方には疲労感は見られない。当然だ。ダメージを全く与えられていないのだから。
疲労感が積み重なる。いつ立てなくなるか、分かったもんじゃない。
と、グレイがつぶやいた。
「やはり、この力はすばらしい。苦労して手に入れるだけの価値があった。」
これに、彼が反応する。
「苦労した、だ・・・・・・お前の苦労じゃ・・・・・・ないだろうが・・・・・・!!」
「何のことを言っているのかね?」
「とぼけるんじゃない・・・・・・あんたは何にもしていないんだ・・・・・・人を利用できるだけしておいて・・・・・・!!」
「なにもしていないということはなかろう。研究、研究、また研究。それに儀式。儀式に要する生け贄の準備まで・・・・・・」
「生け贄・・・・・・!!」
思わず叫んでしまった。
グレイは不思議そうに僕を見たが、すぐに笑い出して言った。
「知らない者がいるというのはいいことだ!!説明をする楽しみが生まれる!!」
そして語り出した。
少しだけ昔のことだ。
グレイは灰色をした石を拾った。
ぱっと見、それは普通の石に見えた。しかし、その時グレイは、何か不思議なものを感じた。
なにがどう不思議だったのかは、今でも詳しくは分からないらしい。
好奇心に駆られたグレイは、早速その石を分析した。
するとどうだろう。地球上のあらゆる物質を分類できるはずのコンピューターが、全く反応しなかったのだ。
こうなってくると、もう好奇心を止められるものはない。グレイはすぐに大量の研究者を雇った。当時から研究者として優秀だった彼が声をかければ、大量の研究者を雇うことは簡単だった。
そうして・・・・・・組織は立ち上がった。この組織は研究者の集まりだったのだ。
組織は毎日毎日研究をした。もう休むときなどなかったという。それでも組織の人数が減ることはなかった。それは人間の好奇心のなせる業だった。
そうした日々が何年も続いた・・・・・・
そんなある日のことだった。
いつものように研究をしていたグレイは、ふと、その石をつかんでみた。
ただ何となくつかんでみたのだ。
その時だ。
突然、グレイの脳裏に声が響いた。男とも女ともつかない、中性的な声。
―――力が欲しくないか?―――
当然、グレイは驚く。
―――ははははは、いきなり話しかけてごめんよ。僕は君が今持っている石さ―――
彼は理解ができなかったという。
当然だ。あまりにも突飛な出来事だ。
―――この際信じられるかどうかはどうでもいい。もう一度聞くよ。力が欲しくないか?―――
力だと?どんな力だ?
声に出したわけではない。思っただけだ。
―――世界を支配する力さ―――
心が読めるとでも言うのか。
グレイは心底驚いた。
―――そうだよ。でもそろそろ答えを聞きたいね―――
世界を支配する力、と言ったな。
―――信じられないかい?―――
当たり前だ。それにそんな力があったら、誰でも欲しがる。
―――じゃあイエスという答えでいいね―――
まあいいだろう。
―――よかった。じゃあとりあえず、信じてもらわないとね―――
信じられない話を信じさせる、か。どうするつもりだ?
―――まあ、とりあえず、その力の一部を見せてあげよう―――
楽しみにしておいてやろう。
―――今すぐだよ―――
石が輝きだした。白でもなく、黒でもない、灰色の輝きだった。
石の輝きが収まったとき、周囲から音がしなくなった。
だが、そんなはずはない。研究所の中には何人もの人がいて会話が絶えることもなく、たとえ会話がなくなったとしても、常に起動しているコンピューターの音が聞こえるはずだ。
グレイは不安になって周囲を見渡す。
―――大丈夫だよ。私がしたことだ―――
何をした!!
―――ちょっと時間を止めただけさ―――
時間を、止めただと!
―――そう、時間を止めたんだ。今この世界で動いているのは君だけさ―――
なるほど、時間が止まっている間なら何でも好きなことができる。世界を支配できる、というわけか。
―――まあそう思ってくれて構わないよ―――
その力、欲しい。
―――ふふふ、まあ焦らないで。この力を渡すのに、条件があるんだ―――
条件?どんな条件だ?
―――たいしたことじゃないよ。ただ、人間の命を、そう、千人分ほどいただこうか―――
ふざけるな!!そんなことができるか!!
―――可能なはずだよ。ほら、今は時間が止まっているじゃないか―――
何!!
―――今なら、何をしても、誰も君の仕業だとは思わないよ―――
グレイは、その言葉の魅力に負け、その後は“声”の言うとおりにした。
そ・・・・・・そんな・・・・・・
僕は何も言うことができない。
「“声”の言うことは正しかった。私は力を手に入れたのだ!世界を支配する力だ!!」
足が震える。
「この話は興味を持ったものには話している。話すたびに、力を手に入れたときの興奮がよみがえる!!」
僕の中で、何かのスイッチが入った。
グレイは本名じゃない設定です(どうでもいい)。