源氏物語について語る紫式部の手紙 ⑤
それが何を意味するか理解した後輩蒐書官は、心の中でもう一度反省してから、話を進める。
「藤見坂さんには相手に心当たりは……」
「当然ある」
「それはどこに?」
後輩蒐書官の言うとおり、資料には出品者についての言及はないどころか、それを匂わすものさえ記されていない。
……今度こそ何もない。それをどこから読み取ったというのでしょうか?
藤見坂が口を開くと、後輩蒐書官が心の声として放った疑問がまるで聞こえたかのように答える。
その問いに。
「これだけのものを抱えて名が出てこないコレクターなど日の当たる世界の住人であるわけがないのは当然であるが、そうであっても、それを抱えていられるとなればその対象人数は極端に狭まる。そこに加えて、鷲江君の指摘どおりそれに誰にも気づかれず年代調査ができる組織の一員。さらに今度の裏オークションに商品を出させることから実質的なオーナーである桐花家の信用がある者」
……なるほど。そういうことですか。
……さすがです。
むろん、これだけの根拠を挙げられれば、経験が少ない者でも凡その推測をして、該当する組織を導くことはそう難しいことではない。
……ということは……。
「つまり、桐花家に関係する者ということですか?」
鷲江が口にしたのは最も可能性がある者であり、この場合の正解にあたるものに思えるものでもあった。
だが、鷲江が眺める先輩蒐書官の顔はあきらかに不満を表情として表している。
その表情を変えぬままの先輩蒐書官の口が開く。
「その可能性は十分にある。だが、そこに日本国内の書だけを蒐集する特別な趣味を持つという一項目をつけ加えると別の人物の名が浮かび上がる」
「誰ですか?」
「冬桜クスミ。言うまでも四季家の一員で有名な書のコレクターでもある。私としては最後の一項目は君自身に気づいてもらいたかったものだな」