源氏物語について語る紫式部の手紙 ②
茨城県守谷市。
源氏物語とは縁もゆかりもなさそうなこの地方都市に「古書店街の魔女」こと天野川夜見子配下のベテラン蒐書官藤見坂と彼とペアを組むアプレンティスと呼ばれる訓練生から蒐書官に昇格して半年となる鷲江が姿を現したのは夏の暑さをようやく感じなくなった頃だった。
「藤見坂さん」
チェーン店が幅を利かせる当地では珍しい個人営業の喫茶店で後輩蒐書官である鷲江がコーヒーカップから立ち上る湯気越しに先輩の顔を眺めながら声をかける。
「闇オークション。その質は問わなければ世界どころか日本でも各地で行われているのでそれ自体驚くほどことはありませんが、我々に招待状が届くというのはどうなのでしょうね」
「……つまり、君はこの誘いは胡散臭いと言いたいのかね」
「まあ、簡単に言ってしまえばそうなります」
あっという間に戻ってきた先輩からの核心を突く言葉に鷲江は鼻白む。
その表情を一瞬だけ楽しんだ先輩蒐書官は畳みかけるように言葉を重ねる。
「たとえば、それが鷲江君宛てに届いたのであれば、たしかにそれはこのうえもなく胡散臭いと断言できるし、そんなものに誘われて出かけるなどどれだけ金を積まれようが断固お断りだ。だが、幸いなことに招待状の宛先は夜見子様だ。そして、招待状を受け取った夜見子様から我々にオークションに出向くように指示が下ったわけだが、それでも君は我々が出かけることに異議を唱えるというのかな」
「いいえ。そのようなことなど全く考えておりません」
蒐書官にとってこれ以上はないといえる理由を最後に口にして後輩を黙らせた先輩蒐書官の言葉はさらに続く。
「ついでにいえば、これはオークション主催者の飼い主ともいえる者からの紹介によるものだ。出された商品の真贋はともかくオークション自体については心配あるまい」
「……桐花武臣ですか」
先輩が根拠として挙げた紹介状を書いた人物の名を後輩蒐書官が口にする。
「ですが、その男は……」
「橘花の敵だから信用できんと言いたいのか?」
「当然でしょう」




