源氏物語について語る紫式部の手紙 ⑬
……たしかに。
「……一方、私たちは彼女実筆の書を多数所持しているため、真贋を見極めるなど容易いこととなります。これもすべて立花家の二代様のおかげです」
「そうとおりです。ということで、すべて終了です」
「いいえ」
「なにか問題でも?」
男の問いに、その女性天野川夜見子が表現に困る表情をして口を開く。
「いうまでもなく、その問題とは桐花武臣は本当にあれで満足していたのかということです。鮎原。あなたの提案であれをお礼の品としましたが、どう考えても今回の大掛かりの仕掛けに協力させた。それどころかほぼ共犯とのいえる役割を演じさせたものとしてあれはさすがにささやかすぎたのでないでしょうか。私はオークションに出品した聖徳太子直筆の書と同等のものを要求されても文句は言えないと思いますが」
「それについてはまったく問題ありません」
それが夜見子の、実にもっともな疑念に対する男の言葉だった。
「夜見子様の手作りパイ。彼にとってはどんな国宝を手に入れるより貴重なものだったと思います。それに、これについては事前に成功報酬を示したうえでのまっとうな交渉をおこなっていますので騙し討ちというわけではありません」
「桐花武臣は納得していると?」
「そのとおりです。あれは彼にとって十分にペイするに値するものだということです」
「……そんなものなのですか?」
「そんなものです。男とはそれくらい単純な生き物なのです。いや、ここは敬意を表して純粋な生き物といっておきましょう。とにかく、この程度の品で仕事を引き受けたなどと我々に恩を売った気でいるのは部下たちだけで、桐花家当主は微塵にもそのようには考えていないでしょう」
「……わかりました。そういうことなら、機会を見て、またつくることにしましょうか。さすがにあれひとつでは相手が桐花武臣でも申しわけなさすぎます」
今回でこのエピソードは終了です。
読んでいただきありがとうございました。
「古書店街の魔女」の新作エピソードとして書いたものを「秋の歴史2022」用に転用しています。
限定期間が過ぎたら当初の予定通り「古書店街の魔女」の最新エピソードとして加える予定です。
そちらも読んでいただければ幸いです。




