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源氏物語について語る紫式部の手紙 ⑪

 その翌々日の東京都千代田区神田神保町。

 その一角に聳える書籍の大敵紫外線を防ぐため極端に窓が少なくされた建物の一室でその建物の主は届いたばかりのそれを眺めていた。

「いかがでした?夜見子様」

 その建物の主天野川夜見子に声をかけたのは彼女よりふた回りほど年長の男だった。

 満面の笑みの彼女がそれに応える。

「なかなか興味深いですね」

「と言いますと?」

「まず、『源氏物語』は彼女が生きていた時代に大幅な校正がオリジナルに対しておこなわれた。さらに、ここから読み取れるのはどうやらそれを彼女自身がおこなった。そしてもうひとつ。彼女の言葉からその理由は彼女自身のなかにあったわけではないということ」

「なるほど」

「わかることはまだあります。そのおこなわれた校正の内容とはあきらかにオリジナルからある部分をそっくり削り落としたというものです」

「ということは……」

 男が言外に示したのは空白期間にあたるあの部分についてである。

 もちろんそれがどの部分を示しているのかを誰よりも知る男の主は頷く。

「まあ、常識的にいってそういうことなのでしょうね。そして、彼女自身はそれを残すべきだとはっきりと述べています。さらに、この手紙では彼女自身が自らの手元用として写本をつくっていたことにも言及しています。もちろんそれは削ることになった部分を含めて自身がふさわしいと思っているほぼオリジナルの形で。どうやら、これはそのための紙を用意してくれた者への礼状のようですね」

「それは例のパトロンへのということですか?」

「そういうことになります」

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