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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第九章◆キスから始まる大冒険、再び!?
75/86

[75]解錠

「ど……いう、こと……?」


 『鍵の付いた祈り』──その鍵を、あたしが開ける──?


「ラヴェルが止められないと言ったのは本当なのです。この鍵付きの祈りは自身では解除出来ません。ですが……ジュエル継承者が愛し、そしてジュエル継承者を愛する者であれば……その鍵を開くことが出来ます」


 それって──!!


「つまりラウルの好きなユスリハちゃんが、ラウルのことを好きな今なら……この祈りを止められるってことネ?」

「はい」


 絶句したあたしの目の前の、タラの質問にツパイが即答した。


 だから……だからラヴェルは、あたしが彼を好きにならないよう祈ったの!?


「鍵は通常ジュエル継承者の名前です。ですから──お願いします、ユスリハ」

「う、うん」


 とにかくもう時間がない。彼の名前──どっちだろう?


「ラウル=ヴェル=デリテリート!」


 ジュエルは反応しない。


「じゃ、じゃあ、ラウル=ヴェル=アイフェンマイア!?」


 やはり何も変わらなかった。


「ツ、ツパイ~!!」

「ふ……む。どうもひねりが加えられているようですね……」


 ツパイの焦燥の横顔が、ゆっくり首を(かし)げた。


 どうしよう……ラヴェルの呼吸が益々浅く小刻みになっていく──ラヴェル──ラヴェル!?


「ラヴェル……デリテリート?」


 恐る恐るの呼び掛けに、その途端ジュエルが僅かに反応を示した!


 彼が選んだ『パスワード』の前半は、『ラウル=ヴェル』じゃなくて『ラヴェル』なんだ!!


「ラヴェル=アイフェンマイア!」


 再び同じ僅かな反応──ラストネームはともかく、ファーストネームはラヴェルなのだと、あたし達は確信し頷いた。


「ジュエ、ル……よせ……」


 (かす)れた声が苦悶の彼から途切れ()でる。ジュエルはもちろん祈りの解除を願うだろう。誰も好き好んで消されたいなどと思う筈もない……そう……そうよ、ラヴェルだって──。


「ラヴェル、お願いよ……鍵の名前を教えて! ラストネームは何にしたの!?」


 彼の定まらない焦点が、ふとあたしの必死な眼差しに()まった。苦しいのに辛いのに、やっぱり描かれる微笑み──どうして!?


「ユ……シィ。も……いい、んだ……君が……好きに、なって、くれた……こと、君が……自分の名を……呼んでくれた、こと……とっても嬉し……かった。君と……居られた、この、二週間……ほんと、に……楽し、かった、よ……この、想い出……あれ、ば……僕は……幸せ、に……消え、られる……」

「ラヴェル……?」


 ラヴェルが初めて……自分を『僕』って言った──?


 やっぱり彼だって消えたくないんだ! だからこそ……彼はついに自我を見せた!!


「ま、待って! この二週間を楽しいって思えたのなら、もっと続けよう! もっと……一緒に居てよ!!」

「ごめん……どうか、忘れて……『今』を忘れて……君は『明日』を、生きて……。僕は──もう……眠り、たいんだ……やっと……楽に、なれる……んだ、よ……。だから……笑って?」


 あたしに笑ってほしくて──あなたはいつも笑っていたの?


 ううん、きっとあたしだけにじゃない。辛くても哀しくても……あなたは皆に笑顔を見せてきたんだ。


 皆と仲良くなりたかったから……自分を受け入れてほしかったから。


 あたしはもう一度、彼の頬に触れた。先刻よりも熱のない皮膚。


「嫌よっ! 笑わない!! 消えないって言わなくちゃ、笑ってなんてあげない!! 消えないでっ、消えないで!! 早く教えて、ラヴェル!!」

「ユー……シィ──」


 困ったように、微笑むラヴェル。


 嫌だ……嫌だ……あたしを置いていかないで!!


 誰か助けて、誰でもいい……おじいちゃん、父さん、母さん!! ──母さん!?


「あ……」


 もしかして──!?


「みん、な……さ……よな……ら──」


 ラヴェルが最後の力を振り絞って、ニッと笑ってみせた。あたしはその両頬を包み込んだまま、ジュエルに向けて叫んでいた。




「ラ、ラヴェル=ミュールレイン!!」




 閉じられた左の瞼が、光のエネルギーに耐えきれず開き放つ!


 あたしの唇は、気付けばラヴェルのそれに触れていた。まるで宝石のような、血の気のない冷やかな感触。


 お願いっ──どうか間に合って!!


 あなたのことが大好きなの……




 あなたのことが……──ラヴェル──。




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