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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第九章◆キスから始まる大冒険、再び!?
74/86

[74]献身

 同じく失神させられていたアイガーが意識を取り戻し、苦しそうなツパイの許へ歩み寄った。ピータンも慌てたように飛んできて、ラヴェルの頬にしがみついた。


「ツパイ! ごめん……ごめんね、あたし──」


 目を離さないでって言われたのに……結局あたしは何も出来なかった──。


「いいえ、ユスリハ。ジュエルの戻ったラヴェルでは、誰も止められないことは分かっていました。どうか気にしないでください」


 普段の呼吸を取り戻したツパイが、そう微笑んであたしの隣へ腰を降ろした。


「ラヴェル……貴方が王家の図書室で、古い文献を調べていたのは知っていました。貴方は……鍵の付いた祈りをジュエルに願ったのでしょう?」

「鍵の……付いた?」


 ──祈り?


 ツパイの問い掛けとあたしの呟きに、ラヴェルは顔を歪ませ小さく(わら)った。


「相変わらず……ツパは、何でもお見通しで……困るよ」


 タラとあたしの疑問を乗せた視線が、再びツパイへ移る。


「ジュエルの継承者には唯一無二の願いが認められているのです。通常の祈りはジュエルによって精査されています。ラヴェルがユスリハに口づけて、却下されたのがそれに当たりますね。心から祈られた願いの内、叶えるべきとジュエルが認めた物は、魔法となって発動されますが、それ以外はジュエルも動きません。まぁウェスティに限っては、『宿した』のではなく『捕らえた』為に、八割方ジュエルを掌握していたようですが」


 そう一息に告げ、ツパイの口元も歪んだ哂いを寄せた。


「ですがたった一つだけ、鍵の付いた祈りのみ、ジュエルは拒絶が出来ないのです。その願いがどんな内容であれ、宿主の大いなる覚悟が込められている故」

「大いなる覚悟?」


 再び呟かれたあたしの声に、ツパイは一つ大きく頷いた。


「その願いを叶える代償……それが『自分の命』だからです」

「えっ!?」


 そしてあたしの驚きの(まなこ)は、もう一度ラヴェルに戻された。やっぱり……ラヴェルは消えようとしてるんだ……ジュエルと共に。


「ラヴェル……貴方はジュエルに対し、ジュエル自身の消滅を願ったのでしょう? ヴェルの全ての民の為に」

「……」


 返事のないことが、ツパイの問い掛けの答えを肯定していた。


 でも……どういう意味? ヴェルの全ての民の為って?


「ツパイ……どういうことヨ? 説明してちょうだい」


 困惑してラヴェルとツパイを見回すあたしの首が、タラの質問で止められた。


「ラヴェルは以前から、ヴェルの在り方に懸念を(いだ)いてきました。ジュエルに守られた平和な世界──その在り(よう)が継続して良いのかと」


 其処で一旦口を閉ざし、ラヴェルへ顔を向けるツパイ。その意を汲んだように、ラヴェルは荒く息を吐き続ける唇を動かした。


「いつまでも……守られてるだけじゃ、ダメなんだ……守られていたら、本当には分からない……悲しみも苦しみも……そこから生まれる、生きる喜びも……それを……ユーシィ、君が証明してくれた……」

「──え?」


 潤んで揺れる漆黒と薄紫の瞳が、あたしを捉えて放さなかった。ラヴェルは──ちゃんと分かっていたんだ。どんなに辛くても、人は真実を受け留めて、自分で立ち上がらなければいけないのだと──!


「ジュエルは何物にも屈しない……砕くことも出来ないし……地中に埋めても自力で戻ってきてしまう。だから消し去るしか、ないんだ……」

「だ、だからって! あなたが犠牲になることないじゃない!! ジュエルは意思を持つんでしょ? 時間が掛かっても何とか説得すれば──」

「無理、だよ……継承して三年、ずっとジュエルに、訴えてきたんだ……でも、ジュエルは……受け入れなかった……」

「ラヴェル……」


 あたしは一言彼の名を呼び沈黙した。目の前の淡い微笑が、本当に哀しそうだったから。寂しそうだったから──彼は……ずっと『独り』だったんだ──。


「お願い、ラヴェル。もう一度考え直して? ジュエルに一緒に願お? みんなで、ヴェルの人達全員で! そしたらきっとジュエルも分かってくれる!! だから、ね! お願いだから……祈りを止めてっ!!」


 いつの間にかあたしの手は震えていた。その手でそっと彼の頬に触れる。温かい柔らかい頬。この感触が消えるなんて……信じられない、信じたくない!


「ありがと……ユー、シィ。でも、この祈りは、止められない……それに、もう、そろそろ、だよ……ジュエルも随分、抵抗したけど……あと数分で、消えると思う……そ、すれば……君の、この、哀しみは……終わるから──」

「嫌よっ、嫌だ……お願いだから、死なないで!!」

「死ぬ、んじゃない……元から『なかったこと』に、なるんだ……」


 そうしてついに、ラヴェルは瞳を閉じた!


「ユスリハ、彼の名前を片っ端から呼んでください」

「え!?」


 いきなり変なお願いをするツパイの言葉に、再び見開かれるジュエルの瞳。




「貴女が、祈りの『鍵』を開けるのです──」




 揺らいだ前髪から、ツパイの初めて見えた紅い瞳が……僅かに光り輝いた──。




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