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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第八章◆とどめを刺すのは、だあれ!?
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[67]祝宴

 が──。


 コテージのエントランス手前であたしの手足は機能を止めた。満面の笑みも何処かへ忘れてきたように、すっかり消え去り口角が下がってしまう。


「ユスリハ」


 斜め後ろからツパイが呼び掛けたけれど、あたしは振り向いたものの返事が出来なかった。


「もう一度笑ってください。これから始まる闘いは、未来への第一歩なのです」

「ツパイ……」


 湧き上がる不安が、つい涙を溢れさせる。それを何とか収め、あたしは「うん」と一つ、頷き一度夜空を見上げた。


 そうだよ……あたしが怖がってちゃダメなんだ。二人を励ませなくちゃ、あたしの居る意味なんてちっとも無い。


 大きく息を吸ってツパイに笑顔を見せる。返ってきた微笑みは、あたしがちゃんと笑えていることを教えてくれた。


「たっだいまー!」


 勢い良く扉を開き、大声をリビングへと向けた。途端大きな破裂音と、小さな色紙やリボンがあたしの頭に……山盛りになった!?


「……へ?」

「タラ、これって人に向けちゃダメなんじゃないの?」


 唖然としたあたしの声と、ラヴェルの呆れたような問い掛け。


「あらん……そうなのぉ?」


 二人の手には淡い煙の立ち昇るクラッカーの空筒があった。


「まぁ大丈夫だったみたいだからイイじゃない! 何はともあれ~」


 振り向きラヴェルを適当にあしらったタラが、再びこちらに笑顔を戻し、それから先刻のあたしみたいに大きく息を吸った。その唇と──




「「ミルモの復活成功、おめでとー!!」」




「あっ──」


 ──ラヴェルの唇が、同時にあたしに祝福を刻んだ。


「ど、どうして!?」


 何故あたし達が成功したことを知ってるの??


「アイガーがピータンに知らせたんだ。それを聞いてね。今夜は自分がごちそう作ったから、みんなでお祝いしよう!」

「う、うん。ありがとう」


 とても嬉しいという気持ちを、微笑みとお礼の言葉に乗せたつもりだった。けれど僅かばかりの不安が、結局ラヴェルに次の言葉を紡がせていた。


「まだスティから打診はない。だから『今』を楽しもう? ユーシィ」

「……うん。──うん!」


 ごめん、ラヴェル。そして、ありがとう。


 タラとピータン、更にツパイとアイガーにもお礼を言い、あたしはみんなに続いてリビングへ足を進めた。きっと大丈夫。きっときっと大丈夫。だから出ていけっ、あたしの不安! そして出てこいっ、あたしの笑顔!!


 既にダイニングテーブルの上には色とりどりの料理が並び、あたし達の鼻腔と胃を刺激した。手洗いとうがいを済ませ席に着く。メインディッシュは良く煮込まれたブイヤベース。魚介の深い味わいが、食欲を永遠に失わせないかと思わせた。


 あたしは沢山沢山お喋りをした。ミルモのこと、彼女の家族のこと、ラヴェンダーの島のこと、その畑のおじさんのこと……アイガーの活躍に、ツパイのさすがな助言、花摘みの唄に……そしてあたしの母さんのこと。その度にラヴェルがニコニコと頷く。タラが突っ込む。ツパイはそれに上手く返して、ピータンが飛び跳ね、アイガーは元気良く一吠えした。


 みんなの笑顔は明日を忘れさせてくれた。忘れられた明日は、そのまた次の明日という未来を楽しい時だと信じさせてくれた。


 明日──きっと良い結果が待っている!


「ふわぁ~美味しかったー! お腹いっぱい~ごちそうさま!!」


 四人で分担し、キッチンはあっと言う間に片付いた。


「おやすみ、ユーシィ」


 入浴を先にと勧め、申し訳なさそうにそれを受け入れ済ませたラヴェルは、リビングで(くつろ)ぐあたしに声を掛けた。


「おやすみなさい。良く休んでね」


 タオルを肩に掛けた濡れ髪の紫色が、コクりと振られ消えていった。


 絶対みんなで笑顔を掴もう。

 例えそれが辛い経緯であろうとも──!




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