[53]依頼 *
※以降は2015~16年に連載していた際の前書きです。
いつもお付き合いを誠に有難うございます!
前話、ユスリハ達が乗りました「ゴンドラ」につきまして、「ゴンドラ」という言葉の登場時、「イタリア・ベニスの船などを想像してしまった」という有難きご指摘をいただきましたので、補足と説明に参上致しました*
実際五十一話の文末と、五十二話の初めに出て参ります「ゴンドラ」の時点では、特に描写を入れておりませんので、船のゴンドラと混同されてしまっても致し方ないと思います。彼女達が乗る段階になって「四角い箱」という外見が現れますので、読者様の脳内映像にて、これがロープウェーやケーブルカーの様な乗り物であることは、その時点で確定されるのだろうなぁと考えております。
実は作者自身も、執筆時に「ゴンドラ」で何処までご想像いただけるのか懸念があり、事前にWikipediaにて検索をしておりました。そちらには以下の様に示されております。
●ヴェネツィアの運河で使われている幅の狭い小船。
●熱気球の下にある人が乗り込む籠、観覧車で人が乗り込む箱状のもの(キャビン・乗りカゴ)。またはそれを模した遊具。
●ロープウェイ・リフト(索道)やエレベーター等の輸送機械の別称、またそれらの旅客や貨物を乗せる箱状・籠状のもの(搬器・キャビン・乗りカゴ)。
皆様にはお手数ですが三番目の乗り物をご想像いただけましたらと切に願います。ちなみに飛行船の乗り込む空間もゴンドラと言いまして、拙作でも第三話にて使用しております。今回は「ゴンドラ」登場時から明確に出来ずにおりまして、大変失礼をしております(汗)。
実際クロアチアのドゥブロヴニクにございますのも「ロープウェー」なのですが、どうもこの作品には近代的過ぎる用語の気持ちがしまして「ゴンドラ」を用いております。
ご指摘をいただいた事で、更にロープウェーである事が分かり易いようにと、前話に追記を入れました。
>~、昇ってくるゴンドラがすれ違ったが、
↓
>~、そんな視界から斜めに昇ってくるゴンドラがすれ違ったが、
今更で申し訳ございませんが、何卒ご了解の旨、どうぞ宜しくお願い申し上げます!
また今回ご指摘くださいました貴重な読者様! 誠に有難うございました!!
■実際にドゥブロヴニクで運行しているロープウェーです。
朧 月夜 拝
此処での生活を始める準備を終えた三人は、ピータンとアイガーに食事を提供し、「ツパイをお願いね」と留守番を頼んで街を目指した。もう夕方なのにまだまだ日は高い。日没は二十時なのだと聞かされて、あたしは目を丸くしながらリーチの長い二人を追い掛けた。
「まだ夕食には早いから、城壁を一周しない?」
ラヴェルはそう誘いを掛けたけれど、タラは「先に一杯やってるわ~」と指差したカフェテラスに向かってしまった。相変わらずだなぁと困ったように笑うあいつに連れられて、城壁一周ツアーのチケット売り場に並ぶ。この街では何でもお金儲けになるのだと感心させられた。
「わぁ~綺麗!」
入口は街の北西にあり、細い石段を登った上には人がやっとすれ違える程の小道が真っ直ぐ伸びていた。其処から反時計回りで徒歩約一時間、随分上がってきたので殆どの建物は目線の下だ。白っぽい煉瓦の外壁にオレンジや赤茶色の瓦屋根が映える。街の中はそんな雰囲気のある家屋や店や教会がひしめき、自分の立つ城壁の外を望めば、木立の繁る公園や土産店、その左手に砂浜の海岸が見えて、其処からずっと藍色の海が広がっていた。
「もういい時間なのに人が減らないわね」
ビーチでもまだ子供達が泳いでいる。自分の周りにも同じように景色を堪能する家族連れが散策しているし、噴水横のアイスクリーム屋は依然長蛇の列だ。
「この辺りは日中結構暑いみたいだからね。これくらいの時間の方が活動しやすいんだよ」
確かに。あのまま物件巡りが続いたら、あたしは暑さで倒れるかと思ったわ。
ラヴェルは自分のペースにならないようにと気を遣ったのか、あたしを先に歩かせて、その後を楽しそうについて来た。街の南面に到達し、突き出た広場でふと足を止めた。見えるのはただひたすら海と空。風が少しずつ冷ややかになり、夜が近付いているのが感じられる。ラヴェルはあたしの後ろを追い越して、左隣で同じ方を望んだ。
「ね……やっぱり、義眼だから左眼は見えないのよね?」
彼がわざわざ左に並んだのは、そういう意味なのかと問い掛けた。
「うん、そうだよ」
訊かれたくないことではなかっただろうか? それでもラヴェルのあたしを見下ろす微笑みは変わらなかった。
「ラヴェンダー・ジュエルだったら……見えるの?」
遠慮がちな質問は、あたしの声を微かに嗄らせた。
「視えるよ。──必要以上に」
そうなんだ……ウェスティは魔法も使える上に両目が見える。そしてもう微力の魔法しか残っていない片目のラヴェル。どう考えてもハンデが大きい。
「ごめん、心配掛けて。どうもタラは言わなかったみたいだね?」
「え?」
知らずうな垂れていくあたしの横顔に、明るい声が返された。
「大丈夫だよ、タラが自分の左眼になるから。前に言ったの覚えてる? 「表向きはカラーセラピスト、裏では何しているのか知らないけれど」って言ったこと」
「あ、うん」
ラヴェルの……左眼?
「本当は裏の顔も知ってるんだ。タラは剣士、だよ。と言うか……自分の師匠なんだ」
「え……えー!?」
思わず叫んだ声が周りの観光客の足を止めさせていた。タラが剣士で、ラヴェルの師匠!?
「でも……そしたら……」
それはタラもウェスティと闘うってことだ。
そんな心配に気付いたラヴェルが、軽くあたしの肩に手を置いた。
「スティにとどめを刺すのは自分だ。タラには絶対させないよ。だからユーシィは心配しなくていい」
「う……うん──」
何とか頷いてはみせたけれど、それも受け入れ難い未来だった。これ以上タラにもラヴェルにも哀しみを背負ってほしくない。なのに昔一番身近な場所に居た『彼』を倒さなければならないなんて──。
「さ、そろそろ進もう? 暗くなる前に戻らないとタラが愚痴を言いそうだし、その前に君に見せたい場所があるんだ」
ラヴェルの手が促すように力を込め、そして肩から離れた。見せたい場所? いやその前に、どうしてラヴェルはこんなにこの街に詳しいんだろう?
「ねぇ、此処には前にも来たことあるの?」
「ん? いや、初めてだよ」
先を歩き出したその背は、前を向いたまま意外な返事をした。初めてって……ガイドブックでも熟読したのだろうか?
「テイルも、アイガーも……その居場所や状況は、ラヴェンダー・ジュエルが教えてきたんだ。そして此処が最後の場所。ジュエルが自分に、遺された人達を救えと訴えてくる……まったく律儀な宝石だよね」
「ジュエルが……?」
終わりの台詞は呆れたような哂いが込められていたけれど、それでも彼が自身の意志で、その願いを叶えているような気持ちがした。頼まれたからこなしている──そんな安易な覚悟で出来る事柄ではないからだ。それに目の前を歩む足取りは、沢山の想いを宿したように凛として、スッと伸ばされた背筋にも、深い哀しみを抱き締めた大いなる決意が満ち満ちていた──。
■タラが向かったカフェテラス?(右側)
■細い城壁小道
■城壁小道からの風景
■噴水(その向こうにアイスクリーム屋)
■南に広がる海




