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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第六章◆頼ってばかりはいられない!?
49/86

[49]決心

 ドヨーン……。


 そんな擬音が似合いそうな顔をして、あたしはテーブルに左頬を押し付けていた。


 見える景色は遠くに船首の空──の手前ずっと近くに食べかけの朝食。進まないフォークに何の疑問をぶつけることもなく、ラヴェルはいつもの淡い微笑で「ちょっと用があるから、後で片付けてもらえる?」そう言って階下へ降りていってしまった。


 別に普通にしていればいいのに……あたしのバカ。


 起き抜けあいつは普段の調子で「おはよう、ユーシィ」って言ったんだ。あたしもそれにちゃんと「おはよう」って返せた。ツパイはいつも通り今日から三日は起きないし、タラは何故だか寝過ごしたので、あたし達はピータンとアイガーに食事を差し出し、二人きりの朝食を始めた。そうよ……今までと特に変わらない朝。なのにあたしの後頭部には、徐々に昨夜の一件が重く()し掛かってきて……。


 あ~あ、助けてもらったお礼を言う筈だったのに、何で責めたり叩いたりしたのよ!?


 今までのあいつに戻ってほしかっただけなのに。もちろん、キスのおねだりはされなくていいのだけど。


「アラ~ユスリハちゃん、どうしたの? 朝から夫婦喧嘩でもした?」


 背後からそんなとぼけた質問が投げ掛けられて、あたしはだるそうに首を反転させた。が、ふと言葉の意味を理解し、慌てて上半身を直立させた。


「お、おはようございますっ。って、誰が夫婦ですか! それに喧嘩なんてしてません!!」


 眠気眼(ねむけまなこ)(こす)りながら隣の席に着いたのは、今朝も透け透けネグリジェ下のセクシーなスタイルが眩しいタラだった。


「んじゃ、どうしちゃった? 昨夜あの子を叩いたことでも反省してた?」

「えっ!!」


 ど、ど、ど、どうして知ってるの!?


 驚き固まったあたしに、タラは頬杖を突いてニヤリと(わら)った。


「ふっふん~タラねえに秘密なんて通用しないのヨ? でも反省なんてしなくてOK! むしろ良くやってくれたわっ、ユスリハちゃん」

「え……?」


 タラは一度席を立ち、ラヴェルの荷物の入ったチェストを開いてみせた。


「ほら、今日は練習用のレイピア・フルーレじゃなくて、サーベル系のロングソード持っていってる。やっとあの子も本気になったのヨ。その重い腰を上げてくれたのは、きっと昨夜のアナタネ」 


 レイピア? サーベル?? ロング……ソード!?


「な、なんか物騒な単語が聞こえたんですが、それって!?」

「もちろん、ウェスティとの闘いに備えてに決まってるじゃない」


 まるで当たり前と言うように、タラはあたしにウィンクを投げた。

 今一度呆けたままのあたしの許へ戻り、見つけたミニトマトを口へ放り込んで頬杖を突く。


「ジュエルを持たないラウルが魔法で勝てる訳ないでショ? もうワタシ達には武力行使しか残ってないのヨ。まぁ心配しないで~あの子まだまだだけど、強くなる素質は持ってるから」

「はぁ……」


 言われてみれば確かにそうなのかも知れない。それでもあたしは何処かで『魔法vs魔法』みたいなお伽話の対決をぼんやりと思っていた。そして其処でやっと気付いた。昨日も今日もあいつの姿が見えなかったのは──!


「あのっ……彼、もしかして昨日から……」

「ん? あ、そうそう。格納庫で剣術の練習中。グライダー傷つけたらタダじゃおかないんだからっ」


 タラはふざけて拳を握ってみせたけれど、あたしは更に意気消沈してしまった。またあいつは独りで抱え込もうとしてるのだろうか? あたしは何も役に立てないのだろうか?


「アナタは気にしなくてイイのヨー、これはこっちの問題なんだから。それより、ネ? 朝食の続きしまショ? ワタシお腹空いちゃった~」

「タラはどうして寝坊したんです? 一緒に食事したかったのに」


 ごめんなさい。一緒が良かったのは、二人きりが気まずかっただけだ。


「ん~昨日の二人の会話、盗み聞きしてたら何となく眠れなかっただけ」


 キッチンからケトルを持って戻ってきたタラは、そう言ってポットに湯を注いだ。それって、あのやり取りがタラまで悩ませてしまったのだろうか?


「ワタシにもあんな初々しい時期があったのかしら~なんて思ったら楽しくなっちゃって!」

「……へ?」


 ちょっと方向が違うのではないですか? タラお姉様??


「うっふ……実はツパイから聞いちゃったのヨネェ~」

「なっ、何を……?」


 何だか嫌な予感がする。


 タラは益々いやらしい視線を寄せて、あたしの耳元へ囁いた。


「ラウル、アナタと出逢ってすぐ、唇奪ったんでショ? 意外だわ~でもさすがワタシの可愛い弟ちゃん!」

「タ、タラ、それは……!」


 あたしは弁解の言葉を返す前に、独り興奮して盛り上がるタラの、豊満な谷間に息の根を止められていた──!!




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