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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第六章◆頼ってばかりはいられない!?
46/86

[46]空気 〈Y&R〉

 此処は……何処?


 瞳には何も映らなかった。でも、そうだ……多分脱出用シューターを兼ねる寝台カプセル。その中で赤ん坊のように丸くなっているみたい。


 全ては夢だったの?


 何ておぞましい悪夢だったのだろう……ウエストは本当はウェスティで、本当は悪者で、本当は……あたしの両親を殺した人で……本当に……夢、だよね?


 あの化け物の名前と姿を鮮明に思い出し、あたしは更に身を丸め、枕に顔を(うず)めようとした。途端切り揃えたサイドの髪がサラサラと落ちてきて、その髪色にドキリと一つ心臓が飛び跳ねた。


 地色のホワイト・ゴールド。ピンク・グレーだった手掛かりは、もう何処にもない。


 一束毛先を取った手を辿れば、白い袖口が見えた。ドレスだ……ドレスのままだ……やっぱり、夢じゃないんだ──。


 覚えているのは、ラヴェルに抱きついて号泣したところまでだった。あれから泣き疲れて眠ってしまったのだろうか? 立ったままで!? あいつは柔らかく抱き留めて、何も言葉にはしなかった。それから眠ったあたしを、以前のように此処へ運んだのだろうか? また……顔も洗えず、着替えもせずに寝ちゃったのか……。


 ──ゴトン。


 その時、天井に向いているあたしの左耳に物音が降りてきた。そうだ……あの時もこんな音だった。ツパイと初めて遭遇した時! ツパイ、起きたんだ!!


「ツ、ツパイ!!」


 あたしはスカートがめくれるのもいとわずに、慌ててカプセルから身体を押し出した。一度ペタンと床に着き、すっくと直立してツパイのカプセルへ振り向く。


「おはようございます、ユスリハ」


 カプセルの(きわ)に腰掛けた、ツパイの弧を描く口元は変わりなかった。


「おはよう、おはよう、ツパイ!」


 思わずその小さな身体に抱きついてしまう。さすがに驚いたのか「おぉ」と小さく声を上げたツパイは、あたしの後ろ髪を撫でてくれた。


「無事でなかったのは、この髪色くらいだったようですね……安心しました」

「うん……でも髪はまた染めればいいし。あの……ツパイ、本当にありがとう。それから……ごめんね、あの時信じてあげられなくて」


 ツパイの肩に突っ伏していた顔をゆっくりと戻し俯いた。あの時信じられていれば……あんな恐怖も、皆に迷惑掛けることもなかったのに。


「いいえ。あの場で信じられる程、僕達には十分な信頼関係が出来ていませんでした。ですが、これからは……きっと──でしょう?」

「うんっ!」


 首を(かし)げたツパイの質問に、あたしはいつになくニッコリと、元気の良い返事が出来ていた。そんなあたしにあの時と同じ会話の返しが。


「救出された後、疲れて眠ってしまいましたか? さて……食事の前にシャワーでも浴びましょうか。ユスリハ、お先にどうぞ?」

「毎度すみません……」


 こめかみを掻きながら苦笑いで応える。急いで準備をし、シャワールームに駆け出すあたしへ、キッチンで背を向けたままのラヴェルは振り向いたのか……少し気まずさを残して挨拶出来なかったあたしには、それを確認出来なかった──。




挿絵(By みてみん)




 ★ ★ ★




「おはようございます、タラさん。あの、昨夜は本当にありがとうございました!」


 あたしの後にツパイが入浴を終えた頃、ラヴェルの美味しい朝食が出来上がり、その匂いに誘われたのか、タラさんが自分のカプセルから這い出してきた。って、やっぱりあの透け透けネグリジェ着てるんだ! けれど胸元はチューブトップで隠されていて、下も柔らかそうなショートパンツを履いていた。その姿を一瞥し、あたしはついホッと息を吐いた。


「ヤァだ、「さん」なんて付けないでー! タラで十分ヨ」

「は、はいっ」


 タラさん……じゃなくて、タラは昨夜あたしが泣いている間、こちらに移ってワインを呑みながら時間を潰していたらしい。二本目のボトルが空になる手前で、あたしを抱えたラヴェルが戻ってきたそうで……。


「もうっあんまり長いから、二人でイイコトでもしてるんじゃないかって~覗きに行こうかと思ったところだったのヨネー」


 焼き立てのベーグルを頬張りながら、ニヤニヤした視線と笑みを向けられた。一瞬理解出来なかったあたしは、それでもさすがに言葉の意を汲み、


「ち、違いますしっ! そ、そうだとしても、覗きになんて来ないでください!!」

「ふうん~?」


 こんなシチュエーションに慣れないあたしの言い訳は、益々疑惑を深めた気がした……。


 タラが戻ってきてから初めてツパイが目を覚ましたので、こんな賑やかな食卓は初めてだ。なのにラヴェルは相変わらず、にこやかな笑みを顔の表面に乗せ、あたし達のたわいもないやり取りを楽しそうに聞いているだけだった。


 飛行船は東南へ向かっていた。今日一日はツパイの貴重な時間を分けてもらい、自動操縦の全てを伝授いただいた。実際この技術はあたしの国にはなくて、ヴェルで独自に発展したのだそうだ。試験に出ないのは助かるけれど、こんな素晴らしい設備が広められないことに、少し残念な気持ちもした。


 その間にタラは、リビングの床に積み重ねて置いた衣服や化粧道具を、空けてもらったチェストに収納し直していた。そしてラヴェルは……何処に居たんだろう? お昼と夕食の前後にはキッチンで見かけたけれど、それ以外は姿を現さなかった。操船室はあたし達が占拠していたし、一体何をしていたんだか?


 ちなみにラヴェルとツパイのカプセルは落下した物を回収し、あたしのカプセルは探す間がなかったそうで、格納庫から予備のカプセルと新品のブランケットを(しつら)えてくれたそうだ。そんな新しい匂いのするお布団に、この夜もくるまってはみたものの、どうしても気持ちが落ち着かなかった。仕方なく暗闇の中リビングに戻り、隣の扉をノックしてみる。すぐにそれは開かれ、寝着を(まと)ったラヴェルが押し出されるように現れた。


「ね……ちょっと付き合ってよ」


 あたしはそんな言葉を掛けて、あいつをチェストに(いざな)った──。




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