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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第一章◆キスから始まる大冒険!?
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[4]色彩 〈R&P〉

 ニコニコ顔から放たれた直球を『なかったこと』にするかのように無視して、あたしは「いただきます」と両手を合わせ、手元のパスタを早速口に入れた──瞬間。


「「お、美味しいっ!」」


 え??


 自分の叫びに重なった同じ言葉に驚いて、刹那目線を真ん前に上げる。此処にはこいつしかいないのだし、ピータンがそんな男の声を上げる訳もないので、それは明らかにラヴェルだった。


「いやぁ、このスープ美味しいね。空の旅が続くと野菜が不足気味だから、恋しかったのもあるだろうけれど。味わいがとても深くていい」


 と、ラヴェルは感慨深い息を吐き出して、再びスープに手を付けた。


「そ、そりゃどうも。あんたのパスタもめちゃ美味しいわよ」

「これだけのスープを作る君に、褒められるなんて光栄だね」


 もう一度上げられたお互いの視線がかち合う。微笑みと戸惑い。あたしはラヴェルの嬉しそうな表情が面映(おもは)ゆくて、咄嗟に俯き無言で食事に集中した。


 こいつの言っていることは本当なんだろうか?


 一体こんな男勝りでガサツな女を、何処の誰が好きになるというのだろう……。


 つい自分の仕草と言葉遣いに、そんなことを思ってしまう。格好さえもシンプルなシャツとパンツに、工具をいつでも手元に置けるようにと、長細いポケットの並んだショートエプロンといったいでたちなのだ。それでも唯一髪だけは伸ばして、頭上から結わえた後ろ姿は女性らしいのかも知れない。けれど長髪の理由はそうありたい為なんかじゃない。小さい頃に母さんにせがまれて伸ばしていた髪。あの時は結ばず流していたけれど……それでもそれが『あの人』と、再会する為の目印になると思うから。


 そして『あの人』の美しい艶やかな、長い黒髪への憧れもあった。その髪の隙間から見詰めてくれた宝石みたいな瞳。あの漆黒の髪と薄紫色の瞳だけが『あの人』を探せる唯一の手掛かり……漆黒……薄紫?


 そう言えばこいつの瞳は漆黒で──


「あんたって、随分変わった髪色してるけど、まさかそれ、地色じゃないわよね?」


 ラヴェルの髪は『あの人』の瞳を思い起こさせる薄紫色をしていた。でもどうしてなのか毛先三センチ程だけが黒い。黒く染めていた薄紫色の髪から、染め色が抜けてしまったように。でも薄紫の髪なんて、この世の中に実在しない筈──。


「……ああ、これ……元は黒髪だよ。ちょっとアレンジして、ツートンにしているだけ」

「変わった趣味ね」


 すぐさま返したあたしの答えに、ラヴェルは初めて苦笑いらしき表情を見せた。その時、あのキスされた後のやり取りで感じた変な違和感が……不自然な……何だっけ、これ?


「自分の街では流行ってるんだよ。君だって淡いピンク・グレーだなんて、珍しい」


 そこで掛けられた言葉に、少し前の過去と今の不思議な感覚は、遠くへ追いやられてしまった。


「これはね~夏休みに入ってすぐ、クラスメイトに無理矢理染められちゃったのよ。あたしにはこの色が似合うとかって。休みが明ける前に戻さなかったら、先生から大目玉だけどね。本当の色はかなり白に近いホワイト・ゴールドだから、ブリーチしなくても簡単に染まっちゃう。だからみんな面白がってさ~」


 フォークを置き離した掌に頬を乗せ、瞳を天井へやった。多分あれは唯一の家族を亡くしたあたしへの、友人達の思いやりだったのだろう。元気づけと気を紛らわせる為の……ピンクなんて明るく可愛い色を持ってきたのは、前向きに進ませようとの励ましだったに違いない。


「いや、でも君の碧い瞳には、とても似合っていると思う」


 同じように頬杖突いたラヴェルが、目の前で温かみのある笑顔を向けていた。


 あたしは一瞬鼻の頭に熱を感じたけれど、どちらも否定するかのように首をプルプル振るわせる。スープボウルを抱え、赤面した顔を隠すように口を付けて飲み出した。──まったく……こいつと二人きりなんて、どうにもやりづらいわ。


 この髪色は正直嫌いじゃない。でもこのままじゃ、きっと『あの人』はあたしに気付いてくれない。


「別に……あんたの髪もあたしのも、その内伸びれば落ちちゃうでしょ」


 漆黒と薄紫なんて『あの人』の色に出逢った所為か、やたらと思い出してしまうことを少し気まずく感じながら、あたしは投げやりな返事をした。


「名前……呼んでくれないんだね」

「え?」


 幽かに寂しさを感じる台詞に驚いて、慌ててボウルをテーブルに戻した。


「だ、だって、別に此処にはあたし達しか居ないのだし? 呼ばなくたって分かるでしょ」


 “まあね” ──そんな応えが聞こえてきそうな伏せられた瞼を見詰めて、ふと疑問が湧き上がる。


「そう言えば、ずっと独りで旅してるの?」


 それから、おもむろに瞼は開かれた。


「いいえ。もう一人居ますよ」

「え? もしかして、モモンガの数え方も知らないの? 一人じゃなくて一匹でしょ」


 ラヴェルから寂しい雰囲気は消え去って、再び今までのにこやかな笑顔が戻ってきた。あたしは何となくその続きを訊けないまま、いそいそと残りの食事をたいらげた──。




挿絵(By みてみん)




 ■もちろん彼の髪色がこんな状態なのには他に理由がございます。どうぞお楽しみにしてください。


 (本来のラヴェルはこちら↓)


挿絵(By みてみん)

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