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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第五章◆選ぶべきは・・・どっち!?
39/86

[39]時間

 呆然自失したあたしへ、ツパイは「戻ってきて」と云わんばかりに畳み掛けた。


『良いですか、ユスリハ。『花嫁』になるには、お互いへの愛情が必要です。相手の全てを愛することが出来なければ、ジュエルの継承者を生み出すことは出来ません。仲良く一生を添い遂げる為、ヴェルでは年齢が近いことこそ重要とする伝承が生きています。ですから花嫁は必然的に継承者と近い年齢で生まれることを求められるのです。花嫁を提供出来た家系は、他の二家よりも繁栄を極めることが出来ましたので、この三家は常に()り合ってきた歴史を持ちます。今回も王妃がいつ王子を授かるのか、それが毎日の話題でした。ウェスティが王妃のお腹に宿った時、期間を置かずして女児を設けられたのはハイデンベルグ──つまりタラでした。彼女はウェスティの八ヶ月歳下です。ミュールレインも出産出来る世代の男女がおりましたが、その頃に子を得る家庭はありませんでした。そして僕の家……ユングフラウはその反対に、三年も先に女児を出産しておりました』

「う、うん」


 ツパイの声は自分の家の話になった途端、(しぼ)んだようにくぐもり小さくなった。あたしは耳を澄ましながら相槌を打ち、ちゃんと理解して聞いていることを主張した。


『女児は三歳になるまでは普通に育ちました。が、王妃の懐妊と共に、王より魔法を掛けられました。その魔法とは……時間を……止めるものでした』


 ──時間を、止める?


 その言葉に何かが引っ掛かった。何処かで聞いた言葉……それって……あの……ロガールさんとツパイの再会の時だ!!


『ジュエルの花嫁候補は多ければ多い程、選択範囲が広げられる訳ですから、王家としては好都合なのです。ですからそれも候補を増やす為の強硬手段だったという訳です。王子とジュエルに気に入られる花嫁となれるよう、女児は王子の年齢に近付くまで、魔法で時間を止められることになりました……それが──』

「それって、ツパイなのっ!?」


 ツパイが答えを口にする前に、あたしは目を大きく見開いて、驚愕の気持ちを抑え切れずに叫んでいた!


『……薄々感づいていましたが、やはり僕を男性だと思っていましたね?』

「ご、ごめん……ツパイ……」


 あたしの決まりの悪そうな謝罪を聞いて、喉の奥から発せられる、吹き出すような笑いが聞こえてきた。


『いいえ……気にしていませんよ。僕も性別不詳にしたいからこそ、こんな外見でこんな口調なのです』


 長い前髪で顔半分を見せないのもそういうことなんだろうか?


『ウェスティがジュエルの継承者でないことが発覚した時点で、僕の魔法は解かれました。ですが王に再び子を得る気持ちがないことを悟り、先を危惧した僕は、もはや候補に選ばれぬよう自ら時間を止めたのです。まぁ……四日中の三日を止めるのが限界のようですし、その間は肉体を動かせない身体になってしまいましたが』

「ツパイは魔法が使えるの? それにだからと言って、どうして止める必要があるの??」


 新たな謎が脳内を巡り出した。ウェスティの花嫁探しはその時点で止まったのだから、もうツパイは自由な筈なのに。


『ラヴェンダー・ジュエルの魔法を掛けられた生ける者は、多かれ少なかれその影響を受けるのです。僕には自ら時間を止められる能力が備わりました。ピータンもアイガーも今回の旅で、ラヴェルよりジュエルの力を与えられています。ですから彼らは僕達と、意思の疎通を可能とする能力を持ち得たのです。おそらくテイルにも、なんらかの影響は出ているでしょう』

「う~ん、そ、そうなんだ……」


 納得がいかないこともないけれど、余りに突拍子もない話ばかりで、さすがにあたしの持つピースは、数が増えても在るべき場所に納まらなくなってきた。少し時間を掛けて整えなければ、上手くその絵を導き出せなそうだ。その戸惑いが表情に出なかったのか気付かないのか、ツパイは話の続きを止めてくれはしなかった。


『ユスリハの先程の最後の質問──どうして時間を止める必要があるか、ということですが、此処からが貴女にとっての酷なお話になってきます。それは僕にとっても、タラやラヴェルにとっても心の張り裂けるようなお話です。どうか心穏やかに聞いてください。そして……それを信じるか否かは、貴女自身で決めるのですよ、ユスリハ』


 ツパイの声は其処から仄かにゆっくりになった気がした。とても大切なことなのだと言うように。とても辛いことなのだと言うように。出来れば聞きたくないと思っていた。きっとそれを聞いた(のち)、信じたくないと思うのだろうと感じてしまったから。それでも──


「わ、分かった。ツパイ……話して」


 あたしは一息を吸い一息を吐き……心の準備を示す真剣な瞳をピータンへ向けた──。




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