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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第四章◆誰が嘘をついてるの!?
35/86

[35]髪色

「こ、これって……お屋敷じゃなくて……お城、ですよね??」

「え? あぁ世の中ではそう言うのかい? 何しろ国から余り出たことがないので世間知らずでね……」


 待機していた馬に乗せられ、十五分ほど走っただろうか。上り坂を見上げた先には如何(いか)にもな白亜の宮殿が(そび)え立っていた。


「まぁ気楽にして。食事の支度が整う間に湯浴みを済ませておいで。それで……良かったらこれを着てほしい。君の為に仕立ててみたんだ」


 馬を下りて城門をくぐる。豪華なエントランスを進み、開かれた荘厳な空間が現れたが、それはまだ謁見の間の前の待合室だと聞かされて、あたしは思わず絶句した。


「あの……荷物は飛行船の中なので助かります。そ、それと……十年前ちゃんとお礼を言えなくて……あの時は本当にありがとうございました!」


 戸惑いながらも差し出された包みを受け取り、勢い良く頭を下げた。特に返事がないので恐る恐る姿勢を戻したが、身体が直立した途端、あの温かな掌があの時と同じようにあたしの頬を撫でた。


「ユーシィ……美しくなったね」

「……え?」


 そんな言われたこともない褒め言葉に、触れられた部分が熱を発した。


「外見だけでなく内面も綺麗に成長したのだね。そんな君に再会出来て、本当に嬉しいよ」


 こんなに柔らかな表情をして、こんなに素敵な言葉を奏でる人が、本当にラヴェルと敵対する相手なのだろうか? 飛行船でのやり取りも昨夜の事件も、全て夢ではないの?


「ああ、立ち話もなんだね。とにかく浴室と君の部屋を案内しよう。支度が出来たらまた此処へおいで。眼下に広がる森の景色がとても美しいので、テラスに食事を用意させるから」

「は、はい」


 このまま相対していたら、顔が熟れた林檎みたいになってしまいそうだ。あたしは相槌を打ちながら視線を逸らせて、浴室への道順と内部を説明してくれた彼にしばし別れを告げた。まずは与えられた煌びやかな部屋の、大きく豪奢(ごうしゃ)なベッドの上で緊張を解く深い息を吐いた。


「ピ、ピータン、大丈夫?」


 その声にピョンとポケットから飛び出してくる元気なピータン。とにかくバレなくて良かった! そして無事で良かった~!


「ね、ピータン。これからのこと、ちゃんと理解してね? まずあたしは湯浴みをしてくるから、それまでは絶対此処に居て! 終えたらすぐ戻ってくるわ。それから食事に出掛けるけど、その間も此処に居てちょうだい。ピータンの好きな果物沢山もらってくるから、どうかお願い、分かったわね!?」


 あたしの言葉など聞いてもらえるのか……真剣な面持ちで話すあたしを、それでもピータンは終始その愛らしい瞳で見詰めていた。「絶対お願いよ」と再び懇願して部屋を出る。出来るだけ早く戻る為に、あたしは包みを抱えて回廊を走り抜けた。




 ★ ★ ★




 約束通りピータンは部屋で待っていてくれた。と言うよりフカフカのベッドの枕元で、我が物顔で眠っていた。支度を済ませ、一言声を掛けて待合室へ急ぐ。扉を開いた途端に何処からか涼やかな鈴の音がして、一分もしない内に正装したウェスティが現れた。その音色で入室の有無に気付けるようになっているらしい。


 美しい黒髪を映えさせる質感の違う黒衣は、繊細な刺繍が施され、まるで何処かの王子様のようだった。あ……本当に王子様なのかしら? 彼はヴェルの王家の出身だと言った。そして……それはラヴェルもなのだろうか? “今からでもアイフェンマイアを継承する道はある” ──ロガールさんはラヴェルにそう言った。


「益々美しくなったね、ユーシィ。きっと君には純白のドレスが似合うと思った。でも……髪は降ろしてもらっても良いかな? あの初めて逢った時のように。そして髪色もね」


 再びドギマギする台詞を投げ掛けながら、ウェスティはあたしに近寄った。細身のAライン・ドレス──湯浴み前に布包みをほどいて驚いたけれど、着替える物がこれしかないので彼の意向に従わざるを得なかった。でも……こんな女の子らしい衣装、あたしに似合っているのだろうか? 飛行船修理のし易いよう、常に軽装ながらも全身を覆う服装を心掛けてきた所為か、長めのスカートとは云え、こんなにデコルテや背中の露出が多いデザインは何だか落ち着かない。


 そんなことを思いながらモジモジと俯いているあたしの前に佇んだウェスティは、おもむろに頭上へ手を伸ばし髪留めを外してしまった。


「あっ!」


 肩に流れる長い髪。それを大きな掌が毛先へと緩やかに滑り、ピンク・グレーに染められている筈の髪が……地色のホワイト・ゴールドに戻ってしまった!?


「……やっぱり、こちらの方が良い」

「ど、どうやって……!?」


 慌てて顔を上げウェスティを見詰める。ニッコリと細めるその右眼を指差し、


「この『ラヴェンダー・ジュエル』の力だよ」


 その瞳がほんの一瞬、強い輝きを放った──!




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