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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第四章◆誰が嘘をついてるの!?
28/86

[28]推理

 ロガールさんに別れを告げ、たどたどしい歩みをいささか心配しつつも付いていった操船室にて、ラヴェルは「代わりにやってみる?」と、あたしを操縦席に座らせた。


「大丈夫だよ。ちゃんとサポートするから」

「う、うんっ」


 傍らにしゃがみ込んだラヴェルの笑顔が緊張バクバクのあたしを見上げる。操縦桿を握り締める手はいやに力が入ってしまい、ギリギリと音を立てそうだった。


「覚えてる? スイッチの上げる順序は全部右から左。最後に操縦桿だよ」


 と、あたしの拳を包み込み、レバーから優しく手を放させた。そ、そうだった! 初めての経験とは云えこんなに頭が真っ白になるなんて……。


 手の甲に感じるラヴェルの掌の冷たさが、あたしを次第に冷静にさせた。まだ……きっと本当は随分調子が悪いんだ。それなのにどうしてそうやって、あんたは柔らかい表情を変えないのよ。


「全部電源入ったね? じゃあエンジン回して……うん、音も問題ない。それじゃ浮上するよ? もう計器はいいから正面を見て。ゆっくりレバーを倒して……」


 言われた通りに真ん前の外を見詰める。導かれるようにあたしの手首は彼の込める力に促されて、滑らかに操縦桿を傾斜させ、同時に船はふわりと浮かび上がった。


「いい調子だね! これならきっと一発合格間違いなしだ」

「そ、そうかな~」


 自動操縦に切り替えた後、ニコりと破顔し立ち上がるラヴェルに吊られて、あたしも席を立った。目の前に両掌を向けられたので、たまにはやってやるかとハイタッチに応えようとしたところ、


「ご……めん……」


 まるで貧血を催したように、ラヴェルは左手をこめかみにやり、右手は膝に突いてしまった。


「いいよぉ、謝んなくて! それより休も! 二階まで歩ける?」


 あたしは家畜小屋から助け出した時のように、まだフラフラと眩暈(めまい)の止まらないラヴェルに肩を貸した。頬には脂汗が一筋流れている。そんなに我慢することないのに。ツパイが「根っからの頑固者」と言ったのにも今更ながら納得がいった。


 それから何とか上の階まで移動し、ラヴェルは倒れるようにカプセルに潜り込んだ。しばらく食事は必要ないと言うので、軽食を作り空を見下ろして、独り遅い昼食を済ませる。

 ツパイのカプセルの真下──あたしの寝台の前にはアイガー、ピータンもラヴェルに添い寝しているので、何となく淋しく思いながらも、先程体験出来た離陸操作の手順を復習した。


 これから……一体どうなるのだろう?


 ラヴェルが元気になって、ツパイが目を覚まして……それよりタラさんと合流する方が先かな? あいつは苦しみを奪う行為を、やってもあと一度と言った。それが終わったら又あんな調子になるのかも知れないけれど、きっとちゃんと元気に戻る。──で? 終われば……終わりなんだろうか? 盗まれた或る物とは、もう取り返す必要もなくなるのだろうか?




 『脅威』って何なのだろう?


 不思議とあの化け物のことではない気持ちがした。でもやはり化け物も関連はしていると思う。……あーもうっ! 今のラヴェルは訊ける状態ではないし、ツパイはこれから三日起きないしぃ~! 頼みの綱はタラさんか……早く合流出来るといいな。早く……この疑問グルグル状態をどうにかしてほしい!!


「あ~あ……」


 溜息をつきながらチェストに横になり、うつ伏せで頬杖を突く。目の前に置き離したノートへ、分かったようなそうでないようなことを書き連ねてみた。



 ラヴェル・デリテリート? 代々義眼師の家系。


 ツパイ・ユングフラウ? 代々薬剤師の家系。


 タラ・ハイデンベルグ? 表向きはカラーセラピスト。彩りの民? カラー=彩り!!


 ユスリハ・ミュールレイン。薫りの調合師=香水を作っていた母さん。デリテリートの家系はミュールレインの香りを『血』で感じる? ロガールさんもデリテリート?


 アイフェンマイア? ラヴェルが継承すべき物??



「うーん……」


 タラさんの家系も代々カラーセラピストなんだろうか? そしてうちの家系ももしかしてずっと薫りの調合師? この四つの家系は何か関係があるのだろうか……いや、その前にあんた達は何処から来たのよ!?




 ──「まぁ……うちは王家直属の義眼師だから」




「王家……?」


 あいつとの会話を思い出し、つい言葉を零していた。あたしの国は王制じゃない。それじゃあ彼らの国は何処なのだろう? 近隣に幾つか王制の国はあるけれど……?


「そんな外国人とうちの家系に何か関係が??」


 書き出したノートを凝視して、喉の奥から唸り声を上げた。やがてあたしも昨夜の寝不足から、うつらうつらと船を漕ぎ出し……そんなうたた寝の背中に『脅威』が迫っているとも気付かないままで──。




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