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ラヴェンダー・ジュエルの瞳  作者: 朧 月夜
◆第三章◆ウシ、ウマ、ヒツジ・・・ヤギにイヌ!?
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[26]光明 〈Y♡R〉

 この夜はさすがになかなか眠れなかった。それでもいつの間にかうとうとはしたが、訪れてくれるのはどうにも浅い眠りだった。屋根裏部屋の小窓から差し込む月光に、何度瞳を向けただろう。六回目の目覚めの頃には淡い朝が近付き始めて、家畜の世話へと出掛けるのか、ロガールさんがリビングを経由し外へ出る音が小さく響いた。


 ラヴェル……まだ目覚めないだろうか。


 だるそうに起き上がり梯子を降りる。静かに寝室の扉を開いて、何も動く物のない薄暗がりを奥へと進んだ。まるで精巧な蝋人形のように、天井へ顔を向け横たわった肩の傍には、毛玉みたいに身体を丸め込んで眠るピータンが居た。


 次第に朝陽を包み込んだカーテンが、彼の枕元を薄っすらと照らし出す。意外に(まつげ)長いのね。ロガールさんの語ったラヴェルの髪の地色(うすむらさき)は、今でも洗い立てのようにサラサラと美しかった。


 でも……。


 その毛先に、あたしは愕然とする。三センチ程だった筈の黒い色が、倍はあろうかと浸蝕していた。こんなに……こんなに自分を犠牲にしてまで、こいつには負わなければならない責任があるの?


 昇る陽の光が眩しく思えてきたのか、ラヴェルがあたしの腰掛けるベッドサイドの方向へ寝返りを打った。良かった……意識はあるんだ。サイドの髪が覆うように頬に被さったので、あたしはつい無意識に手を伸ばしていた──が、


「ダメだよ、ユーシィ……君の手が(けが)れる」

「えっ!」


 サッとあたしの手首を掴んだラヴェルが、右眼だけを開いて微笑んでいた。


「な、何よ! あんたは散々あたしを触ってきたくせに! どうしてあたしが触っちゃいけないのよっ」


 ラヴェルの背後でピータンが目を覚ましたので、あたしは本能的にその手を振り払った。


「家畜小屋で倒れてたんだ……そのまま寝かされたなら、自分の髪はきっと汚れてる」


 ピータンが肩に乗り、あいつの(おとがい)に頬ずりをする。ラヴェルはそれをくすぐったそうに瞳を細め、手持ち無沙汰になった手でピータンをそっと撫ぜた。


 嘘……こいつは嘘だらけだ。


 本当は苦しみが詰まった髪の先を、穢らわしいのだと言ったくせに。そんなに自分を(おとしい)れて、あんたは一体何をしようって言うのよ!


「……ロガールやツパから聞いちゃったみたいだね」

「……え?」


 再び天井を真正面に捉え、ラヴェルは深い溜息を吐いた。


「ユーシィはすぐ顔に出ちゃうから。自分がどうしてこうなったのか……聞いたんでしょ?」

「……」


 その図星に反論出来る何物もなく。あたしは口元を歪ませて黙りこくってしまった。それでも……やがて何とか二の句を継いだ。


「もう……やめて。お願い──」

「え……?」


 今度はラヴェルが問い掛ける番。


「あんた、あたしを守るって言ったじゃない。そんなんであたしをどう守れるって言えるの? 本気で守るつもりがあるなら──ちゃんとしててよ! あ、あたしはお礼にご飯作ることくらいしか出来ないけど!!」

「ユーシィ……」


 向けられた嬉しそうな表情に思わず顔をそむけてしまう。あたしったら……まったく何を口走ってるんだか!


「『あれ』は今後やってもあと一回だから、もう心配しなくて大丈夫だよ。それから、リクエスト。──してもいい?」

「リクエスト?」


 声色の明るくなったそのお願いに、あたしは首を戻して目を丸くした。


「そう……あの初日の、ユーシィ特製スープが飲みたい。具材は有り合わせで構わないから」

「う、うん」


 それくらいだったらお安い御用だ。ロガールさんの許しは後回しにさせてもらって、早速野菜を集めて作ろう、と腰を上げかけたところ、


「あと、もう一つ」

「えっ??」


 ふいに両手首が掴まれて、ぐいっと強い力で引き寄せられた。下半身が追いつけず、前のめりの上半身は横たわるあいつの十センチ上に平行に倒された。


「お姫様、どうか自分に目覚めのキスを」

「ああ~!?」


 体重の掛けられたラヴェルの両手は徐々に下げられ寄せられたが、あたしは重力に逆らうように、その手を軸に腕立て伏せをする! どうにかこうにか体勢を整え一言!!


「誰がするかー!!」


 怒りの形相は変わらぬまま、自力で立ち上がったあたしはその場から駆け出した。後ろからクックと押し殺す笑いが聞こえる。けれど元に戻ったラヴェルの様子に、あたしは心から安堵していた──。




挿絵(By みてみん)




 此処までお付き合いを誠に有難うございます。

 ※以降は2015~16年に連載していた際の後書きです。


 前章最後の回の文末にてご紹介させていただきました味醂味林檎様が、再び~それもラヴェルまで! イラストを手掛けてくださいましたので、こちらにてお披露目させていただきました☆

 ユスリハの服装は女の子らしい物かボーイッシュか迷われたそうですが、先日なつのあゆみ様からチャーミングなスイスの民族衣装ユスリハを頂きましたので、両方を手に入れた私は本当に幸せ者でございます~(涙)!

 ラヴェルの髪色も忠実に再現くださり、特に彼の特徴である口元の淡い微笑みは、まさしく完璧です*

 味醂味林檎様! この度も誠に有難うございました!!

 ユスリハの女の子らしい衣装は、これから私も描く予定ですので、ど、どうぞお楽しみに!?

 (でももう今後は絵描きをお二人に任せて、私は隠居しても良いかも(笑)?)


   朧 月夜 拝




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