5.
それからの日々は慌ただしかった。俺とめぐみが別れたことについては、藤吉がクラスにうまく言い含めていたらしい。
2人は別れたからそっとしておけ、と触れ回ったらしいが、その理由について藤吉は言わなかった。ただ、めぐみがテニス部の部長と浮気したというのは察している人もいたようだが。
そしてめぐみとの失恋の後、俺は勉強に精を出して良い大学を出て公務員を目指すべく塾通いの鬼になる・・・つもりだったがそうはさせてくれなかった。
「ナンパしようぜ!ナンパァ!!」
「「「「ウォオオオオオ!」」」
失恋の傷冷めやらぬうちから、
藤吉は俺を伴いGWはテーマパークに繰り出し、夏休みには海に繰り出した。
目的は当然ナンパだ。
なんやかんやで面白くて賑やかな藤吉は男友達に恵まれている。
藤吉の繋がりで男友達も増え、藤吉を筆頭にした俺たち彼女いない軍団は西へ東へ彼女を求めて出かけては、世間様に迷惑をかけないように一般常識と良識を守りつつバカみたいに騒いでは力尽きて帰ってくるというそれはそれで楽しい青春を送ることになった。
当然誰も彼女なんてできなかった。
そんな折、ちょっとお小遣いが心もとないからバイトを探しだしたところで、藤吉の紹介でいつぞやの喫茶店でアルバイトをすることになった。
店長・・・マスターは厳しいが親切丁寧に教えてくれてやりがいがあり、近所の常連さん達にも顔を覚えられ可愛がってもらうようになった。あと年上のお姉さんだと思っていたあの女の人は俺より一つ下で店長の娘であり、中学生だった。
ついでに藤吉の従姉妹だった。
あの色気で中学生とか嘘だろ・・・。
そうしてアルバイトを続け秋になったころ、俺の誕生日を喫茶店を貸し切って祝ってくれたその子と2人で誕生日を過ごした。そうして2人きりの誕生パーティの終わり、耳打ちをするようにひそひそと、とろけるような甘い声でささやかれた。
「私と、付き合ってくれませんか?」
とはいえ相手は中学生、俺は健全なお付き合いをすることに定評がある・・・童貞だ。
何も間違いなど起きるはずがなかった。
そこからクリスマスがきて、お正月がきて、バレンタインがきて、ホワイトデーがきて、桜の季節が過ぎても、俺たちは清い交際を続けた。
あれから一年がたち、めぐみとのことも、あぁ、そんな事あったなぁと思えるようになってきた。大人になればそれらもいつか思い出として振り返ることが出来るようになる、と店長・・・最近はお義父さんと呼べと言われる・・・が言っていた言葉を思い出す。
そんな折、私服で校舎から出てくるめぐみと鉢合わせた。
こちらをみつけためぐみは、困ったように眉尻を下げ、色々と表情を変えた後、力が抜けたように笑った。それはかつて俺が大好きだった笑顔ではない、疲れ切ったようなどうしようもない笑い方だった。
「たっくん・・・」
「仁田さん」
あの時と同じ少しばかりの距離を置いて、俺たちは向かい合う。
「学校・・・辞めてきちゃった」
知ってる。卒業直前の先輩との不純異性交遊が学校にばれて問題になっていたんだよな。
「・・・どうしてこんな事になっちゃんだろう。戻れるなら、間違えないのに。もどりたいのに、どうして」
そういいつつ下腹部を抑え、涙ぐむめぐみ。どうして下腹部を抑えるのか、その理由も、知ってる。
「過ぎたことはどうにもならない。振り返ってないで前を歩いていくしかないだろ」
そう、淡々と告げる。
「・・・ねぇ、たっくん。もう一度、私とやりな--------------」
「せ~~~~~~~~~~~~~~んぱいっ!」
そういって、駆け寄ってきたままの衝撃で後ろから襲い来るずっしりとした感触。一部柔らかくたわわなボリュームを感じるそれは、今年から俺の後輩になった、俺の愛しい彼女だ。
「GW、どこにいきます?ネズミーパーク?ユナイテッドランド??あ、プールでもいいですよ。-----の・う・さ・つ、してあげます」
最後の一言は、耳に息を吹きかけながらのウィスパーボイス。
一つ年下だというのに、相変わらず色気と(色々な)圧が凄い子だ。
この子と将来結婚したら藤吉とも親戚になるんだよなー、なんて考えたりもする。
そうなるといよいよ、アイツとはきってもきれない仲になるなぁ。
俺たちのそんな様子を見ていためぐみは、ふるえながら俺の彼女を指さす。
「たっくん、えっと、その子は・・・」
「ああ、俺の彼女だ。俺はもう、あの時の事は気にしてないから。仁田さんも、いい人が見つかるといいね」
俺の答えに、そう、おめでとう、よかったね、と口元を抑え、足早に歩き去っていくめぐみ。
すれ違いざま、その瞳は涙をこぼしていた。
「本当に。いい人が見つかると、いいな」
めぐみが立ち去ってからも、俺はその場にぼうっと立っていた。
めぐみが最後に何を言おうとしたか、聞こえていた。
だが今の俺には心から愛する彼女がいるし、こたえることはできない。そのつもりも気持ちもない。
ただ、男女の愛情こそもうないが、それでも長く関わった友人だ。
少なくとも友人と思えるほどには、俺はめぐみを許せるようになったのだろう。
俺が、めぐみにも幸せになってほしいと思うのは傲慢だろうか。
それとも、俺にそう思われることが、アイツへの罰なのだろうか。
もしかしたら今のめぐみは、俺にそう思われていることがわかって、自分のみじめさに心がおし潰されたのかもしれない。それでも、いつか・・・と思わずにはいられない。
誰かがいつか、あの子を救ってくれたらいいな、と。
そんな俺の頭が、後ろから伸びた手で撫でられる。
「せんぱいは優しいですね」
「・・・ありがとう」
背中に感じる優しさに、心からのありがとうを伝える。
「今年こそ!彼女!作るぞーーーーーーー!!」
「「「ウォオオオオオオオー!」」」
「彼女が!欲しいかーーーーーーー!!」
「「「ウォオオオオオオオー!」」」
遠くから聞こえるのは、腐れ縁の親友と愉快な仲間たちの声だ。
背負ったものの温かさと重みに口元をほころばせながら、今年のGWはきっと楽しいものになるという確信に胸を躍らせるのだった。
俺の幼馴染が先輩に。は以上になります、
お付き合いいただきありがとうございました。
8/23 誤字修正しました!ありがとうございます!