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3.

藤吉に連れてこられたのは、古い佇まいだがモダンでお洒落な喫茶店だった。

今日は貸し切り、という札がかけられている。

藤吉に誘われて喫茶店に入ると、カウンターには白髪をオールバックに撫で上げ、ダンディに髭を蓄えた、いかにも店長といった様子の壮年の男性と、その人に目元のよく似た若いお姉さんがいた。亜麻色の長髪を頭の後ろで結んだ、なみだ黒子の美人だ。

エプロンがあってもわかる胸のふくらみと物静かな態度から、大学生か、俺や藤吉より少し上の年頃の大人の女性だろうか。。

俺たちが店に入ると、いらっしゃい、と2人が声をかけてきた。

「おじさん・・・じゃなかった、店長!今日はありがとう」

そういってカウンターの男性に声をかける藤吉に、

「構わないとも。2人とも、コーヒーでいいかい?」

そういってくる店長に、お願いします、と頷く。

席に腰かけ、おしぼりで手を洗ってお姉さんに出されたお冷を一口飲む。

レモンの入った冷水で美味しかった。

そのタイミングで、意を決したように、藤吉が口を開く。

「あのさ・・・仁田さん、テニスの先輩・・部長に手を出されたみたいなんだ」

藤吉の言葉と、昨日のめぐみの様子がフラッシュバックする。

あぁ・・・やはり・・・

ずっとすれ違っていたこと、昨日のめぐみの態度、そして、藤吉の言葉。

きっと、めぐみも寂しい気持ちを我慢して、部活動を頑張っているのだと、そう思っていた。思おうとしていた。

「・・・やっぱり、か」

再びレモン水を口に含む。

水を含んだばかりなのに、すぐに口の中がカラカラになったような、そんな感じがする。

「気づいてたのか」

俺の言葉に、驚いたような顔をする藤吉。

「・・・つい、昨日な。めぐみと付き合って一周年の記念日でさ。初めてのデートの場所で、付き合って一年の記念のデートとプレゼントを用意してたんだけど、ドタキャンされちまった」

俺の言葉に、藤吉はギリ、と歯噛みをする。

「で、昨日たまたま夜道を歩いていたら、いかにもデート帰りって恰好のめぐみと出会ってな。・・・だから、まぁ。そういう事なんだろうな」

言葉をひねり出し、ため息をついたところでぼろぼろと涙が零れてきた。

「・・・巧・・・巧ィ!つらかったなぁ!」

わし、と俺の頭を抱きしめてわんわんと泣く藤吉。

「辞めろよバカ、男同士だぞ。逆にこっちが恥ずかしい」

そんな俺と藤吉の様子を何故か恍惚の表情でみるお姉さんの様子に何か危険なものを感じるが、藤吉がひとしきり泣き終わると店長と呼ばれた人がとコーヒーを差し出してきた。

「・・・若い時は色々あるものだ。だが大人になればそれらもいつか思い出として振り返ることが出来るようになる」

そのコーヒーはサービスだよ、と付け加え、ごゆっくりと店長はカウンターの奥へと姿を消した。

そこからは藤吉がつらつらと話してくれた。

交友関係の広い藤吉は、テニス部の男子から、女子に色目を使ういけすかない部長が新入生の一年生女子に手を出している、という噂話を聞かされた。

女癖が悪く、一見するとさわやかなスポーツマンだが可愛い女子には手当たり次第に声をかけ、運よく騙されてひっかかれば美味しくいただいては飽きたら捨てるゲス野郎だと上級生から聞かされていた。

なので3年、2年の女子からは嫌われているが、入学間もない女子はそれを知らず、めぐみがそれに引っかかった、との事だ。

まさか、とは思ったが俺とめぐみがすれ違っている様子から疑問を抱いた藤吉は、そのテニス部の男子から部活のスケジュールを教えてもらったが、テニス部はそんなに熱心に活動をしていなかった。

俺にはテニスの部活と偽って、めぐみは部長とデートを、逢瀬を重ねていたのだ。

藤吉の様子に事情を察したテニス部の男子が、そういった証拠を集めてくれていた。

鍵のかかった部室からあられもない声が聞こえるといういう話もある。

「あんまり褒められたことじゃないけどさ、4月当初は人目を憚ってって様子だったみたいだけど、今じゃ練習の合間にキスしたりしてるって、その様子の写真、撮ってくれたんだ。他にも部活のスケジュールとかももらってきたけど、・・・証拠だけど、写真は見ない方がいいよな」

沈痛な面持ちで言う藤吉だが、俺はかまわない、見せてくれ、と手を伸ばす。

俺の真剣な表情に、「これから何があっても俺はお前の味方だからな」と前置きして写真を渡してくれた

そこには仲睦まじく、腰に手をまわされながら練習するめぐみや、部室で舌を絡ませる2人の写真もあった。それと、俺とめぐみが行く予定だったショッピングモールの隣のラブホテルから出てくる2人の写真もあった。これは藤吉が昨日張り込んでとってきたそうだ。

めぐみは俺との一周年記念日のデートをドタキャンして、部長とヤッてたのだ。

もしかしたら昨日が一周年の日だなんてことも頭になかったのかもしれない。

「は・・・ははは・・・」

思わず涙が出てくる。

「俺さ、まだめぐみとキスもしたことなくてさ。だからこそ昨日、付き合って一年だなって、それでプレゼント渡してさ、それで・・・」

言葉の途中で涙が止まらなくなり、俺は泣いた。

藤吉は黙って俺の背中をさすってくれていた。

「・・・ありがとな、藤吉」

落ち着いた俺は、藤吉にお礼を言う。

「俺だけじゃ、ウジウジ悩んだり、迷ったままだったかもしれない。確証がもてないままずるずると、ただ時間をすごしただけかもしれない。-----------俺、めぐみと別れるよ」

そんな俺の言葉に、そうか、と言い目をとじ頷く藤吉。

「でも勘違いしないでくれよ、それは、お前の責任じゃない。これは昨日めぐみをみたときから、そうしようと思っていたことだ。決断が出来なかっただけだ。この答えは、俺が、俺の意志で決めたことだからお前が何か思う必要ないからな」

うなだれた様子の藤吉を見ながら言うと、「くそっ、やっぱかっけーなお前」と嗤う藤吉。

頭をポリポリかきながら、どこか照れたような様子でぽつぽつと語りだす藤吉。

「俺さ、お前には感謝してんだわ。俺バカだから高校だって公立高校いけるかわかんねーって教師にも言われて、でもバカだから勉強なんて全然できなくてよ。お前、そんな俺に勉強教えてくれたじゃん。仁田さんとのデートもあるのに、合間を縫って俺を見捨てず面倒見てくれてさ。おかげで俺、お前や仁田さんと同じ学校に行けて。親父もトンビがタカをうんだなんて言うけど、お前のおかげなんだわ」

「何だよ今更畏まって。長い付き合いの腐れ縁ってやつだろ俺たち」

改まって礼を言われると思っていなかったのと、悲しい気持ちからどう対応すればいいのか困るのでいつものような軽口を返す。

「だから俺、マジでお前と仁田さんの事は応援してたんだよ!でもこんな事になっちまって、俺、俺・・・。俺がもっと早くに気づいてたら、お前にもっと早くに言えてたらって、そう考えちまって、申し訳なくってよ」

「うぬぼれんなバーカ。これはお前が悪いわけじゃねーよ。俺がめぐみの心をつなぎ留めれなかったのと、あとはポッと出の男に簡単に靡いためぐみの問題だ。だからお前が気にすることじゃねーよ」

そういって天井を見上げながら、フーとため息をつく。

ところで天井をみあげようとしたときに視界の隅でお姉さんが妙にハァハァと興奮した様子でこちらを見ているのは気のせいだろうか。

「お前はいい男だよ!っていうかお前、気づかなかっただろうけど小学校でも中学校でも、結構モテてたんだぞ!そこそこかっこいいし、面倒みよくて女子にも優しいし!あくまでそこそこだけど!」

「そうなのか?っていうかなんだよそこそこって」

自分では気づかなかったがそうなんだろうか?でも藤吉がこの場で嘘をいう訳がないから本当なんだろうなぁ、とぼんやり聞いていた。

「お前の隣には仁田さんがいたから女子たちが遠慮してただけで、小学校の時に俺が片思いしていた井上さんとか、中学校の時に俺が片思いしていた新藤さんとかからお前の事すっげえ聞かれたし!!」

「お前の片思いの相手ばっかりじゃねーか」

「つまりはそんだけお前がいいやつでモテるってことだよ!」

「そうか・・・そうだといいなぁ」

めぐみの浮気と寝取られを聞かされたときは、泣いたし、落ち込んだ。

でも今こうしていつものように話せるのは、やっぱりコイツがいるからなんだろうな。

「ありがとな、親友」

天井を見上げながら、感謝の気持ちを呟いた。

「しんゆ・・・え?何?もっかい言って!」

「急に難聴になるんじゃない!」

ごちそうさまですううううというお姉さんの声が聞こえたが、気のせいだろう。

8/23 誤字修正しました!ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] この彼女も何やってんだか、部室でとか。
[気になる点] (周りのお姉さま方が)腐ってやがる…。 [一言] 主人公に対して親身になってくれる親友って良いですよね。それとマスターの対応も渋くてカッコイイ、「・・・若い時は色々あるものだ。だが大人…
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