2.
『え・・・?行けない?』
日曜日の朝、めぐみからの突然のメッセージは、今日は体調が悪くてデートに行けないというものだった。
『大丈夫か?何か必要なものがあるなら差し入れてお見舞いするぞ』
デートにいけないのは・・・それは寂しいが、あくまで俺の気持ちだ。
体調が悪いのならそれは仕方がない。
あと俺に出来る事は・・・、と考え、
何かいるものがあれば持っていこうかと伝えたが、ただの風邪だと思うから大丈夫、うつすといけないからいいよ、との事だった。
そう言われれば、俺に出来る事は何もなかった。
『お大事に、デートはまたいつでもできるから、無理せず休んで元気になれよ!』
そうやってメッセージを返した。
メッセージに既読はつかず、ドタキャンになってしまった日曜日を、俺は無為に過ごすことになった。
用意したプレゼントが机の上にポツンとおいてある。
「・・・すれ違ってるよなぁ、最近・・・」
誰にでもなしに呟くと、俺はベッドに倒れこみ、そのまま眠気に任せるままに寝てしまった。
ピロリン、というメッセージの音に目が覚めた。あたりはもうすっかり陽が落ちて、時計は8時の針を過ぎていた。
スマホを手に取ってみてみると、藤吉からだった。
『明日の放課後に話がある、寄り道しないか?』
との事だった。
『おぉ?なんだかわからないがいいぞ。どこにする?』
そう返すと、
『俺の親戚がやってる喫茶店があるから、そこで』
と帰ってきたので二つ返事で了承した。
あいつの親戚が喫茶店やってるなんてはじめて聞いたなぁと思いつつ、目が覚めてしまったので散歩でもするか、と着替えて外を歩くことにした。暑いし散歩ついでにコンビニで飲み物を買ってくる、と家族に告げて、コンビニへの道を歩いていく、
一年目の記念日だったのになぁ、と、そんなことを考えていると、めぐみの家のそばに通りがかった。コンビニにいくにはめぐみの家が見えるこの道をどうやっても通るのだ。
すると、人影が向こうから歩いてくるのが見えた。
「ん・・・めぐみか?」
そうやって声をかけると、その人影はびくり、とした後で顔を上げた。やはり、めぐみだった。
「た、たっくん?!」
めぐみは大層驚いた様子だったので、どうしたんだ?落ち着け、と返すと、う、うん・・・と自分を落ち着かせるようにしている。
「もう熱は大丈夫なのか?」
みればめぐみは、ラフな恰好ではなく、随分とおしゃれな恰好をしていた。
流行りの色合いのワンピースに上着を羽織り、髪もきれいに整えられていた。
まるで、デートのコーディネートのように。
「う、うん・・・。少し、買い物に行ってきた、の。・・・今日はごめんね」
そういって俯き、上目遣いにこちらの様子を見てくる。
「・・・具合が悪かったんだろ?気にするなよ。それより熱がぶりかえしたりしたらダメだろ。何かもつものがあるなら家まで持っていくぞ?」
そう言って聞くが、めぐみは手ぶらだった。
「あ、えっと栄養ドリンクを買いに行ったんだけど、その場で飲んで、捨ててきたの。だから、今は手ぶらで、平気」
そういって、困ったように笑うめぐみ。
・・・なんだろう、その笑顔が、いつもと違うように感じた。
子供のころからずっと大好きだった、めぐみの笑顔なのに。
それは確かにいつも通りの表情なのに。
自分の中の何かが、違う、と声を上げていた。
自分でも、なんともいえない表情を浮かべているのを自覚したが、そんな様子に、めぐみは「も、もう家にかえるね」
そういって俺の横をパタパタと通り過ぎていくめぐみに、どう、声をかけようかと迷った。
「・・・風邪、引くなよ」
そういって声をかけ、めぐみに背を向けて歩いた。
後ろで足音が止まり、きっとめぐみが振り向いてこちらをみているのだろう、と気配を感じたけれど、もやもやした気持ちと、焦燥感に、振り返れなかった。
結局、その日はコンビニにもいかず、ぶらりと大回りして家に帰った。
その日は、めぐみからのメッセージはなかった。
次の日の朝、起きようとしたけれど昨日のことがもやもやして、起きれなかった。
暫くぼうっとした後で、そろそろ起きないとマズいな、という時間でようやく起き、着替えはしたが、どうしても学校に行く気分にはなれなかった。
母さんに「今日は休む」と言った。
俺の顔をみた母さんは、しばらくじっと俺の顔を見た後、「何があったか知らないけど、何かあったなら母さんが聞くからね」と返してくれた。学校には母さんから連絡しておくから、という言葉に、母親というものの優しさとありがたさを感じて、なぜだか涙が出そうになった。
そういえばズル休みなんてはじめてじゃないだろうか。
あぁ、皆勤賞とれなくなったんだなぁ、なんてことをぼんやりと考えつつ、その日はうとうとと寝て過ごした。
ピンポン、というチャイムの音に目を覚ますと、時刻は学校が終わって少し経ったくらいだ。誰だろう、と玄関にいったところで制服をきたまま寝ていたことに気づき、理由もなく笑ってしまった。
「あーあ、何やってんだろな、俺」
そんな事を呟きながら玄関を開けると、そこにいたのは俺を心配した彼女の仁田めぐみ、------------
ではなく豊口藤吉、その人だった。ただ、いつものどこかおちゃらけた雰囲気ではなく、珍しく真面目な顔をしていた。
「巧、大丈夫か?」そういって真剣に心配してくる藤吉の様子がどこかおかしくて、でもありがたくて、ぽろり、と涙が零れた。「・・・なんだよ、ハハッ。柄にもねー真顔してさ」涙を流した俺の表情に驚いた後、しかし俺の軽口に「・・・心配かけやがって」とそっぽを向きながら坊主頭をポリポリとかく藤吉。
「明日は大雪かな、お前が俺の心配かよ」
そういってケラケラと笑う。
それは空元気ではあったけれど、今はこの古い友人の心遣いが元気をくれてありがたかった。
「サンキュな。あ、そういえば今日は喫茶店に行く約束してたんだっけ」
そういって用事を思い出した俺に、おう、と返事を返す藤吉。
丁度制服を着ていたので、そのまま俺は藤吉に連れられて喫茶店へと移動することになった。