俺だけステータス【なし】だったので家を追い出されたが、前世で【魔神】の記憶が蘇った俺はステータスを超越し人類最強となった
「退屈だ……」
誰に言うでもなく、俺はそう呟いた。
周りには誰もいない。
だから、これはただの独り言だった。
俺は戦いが好きだ。
特に生死を賭けた戦いが好きだ。
死ぬかもしれない。その、なんともいえない緊張感を抱きながら戦うのがたまらなく好きだ。
なのに、戦って、戦って、戦い続けていたら、気がついたときには、俺は誰よりも強くなっていた。
そのときには、もう俺に歯向かおうとするものは一切いなくなっていた。
退屈だ……。
この世界には、俺を楽しませくれる存在はもういないのかもしれない。
そう思うと、死んでもいいかもしれないと思えてくる。
「おぉ……これは賢者様」
大賢者。
それは、いつの間にかつけられた俺の呼称だ。
魔術を極め神の域へとたどり着いた俺につけられた名前だ。
「賢者様が、この婆やになんの御用ですか?」
目の前にいたのは背の低い婆さんではあった。
聞けば、この婆さんは占いができるらしい。だから、占ってもらうために俺はわざわざ遠くから訪ねてきたのだ。
「なぁ、俺を楽しませてくれる存在はどこにいけば会える?」
いくら退屈しているからって、こんな婆さんの占いを頼るなんてな。なんだが、自分に行ないが笑えてくる。
「そうですな……この世界に賢者様と相対できる存在はいないでしょう」
「やはり、そうだよな」
期待なんてしていなかったため、俺は特に落胆などしなかった。
「ですが、1万年後であれば、あるいは……」
「一万年後だと?」
占い師から出た単語に俺は目を開く。
「はい、1万年後。この世界が破滅の危機を迎えます。それなら、もしかすると、賢者様の期待に応えてくれるかもしれませぬ」
「それは信じてもいいのか?」
「さぁ? この婆やには一万年後を確認する術がありませんので」
そう言うと、占い師は口を閉じた。
これ以上語ることはないとばかりに。
「一万年後か……随分と遠いな」
だが、俺はすでに寿命を克服している。
一万年生きようと思えば、できなくもない。
だが、一万年も退屈な時を過ごすのは、流石にしんどい。
「転生をするか」
ふと、そんな考えが浮かぶ。
転生すれば、次目覚めたときには、すでに1万年後だ。
それなら、退屈な時を過ごす必要はない。
「礼を言おう」
占い師にそう言うと、俺は早速転生する準備を始めた。
もうこの時間にはなんの未練もない。
だから、転生するなら今すぐしてしまおう。
俺は転生に必要な魔法陣を作り出し、そして指を鳴らした。
そして、次の瞬間には、俺の体はその場から消え失せた。
◆
「……はっ」
意識が芽生える。
「おい、子供が生まれたぞ。元気な男の子だ!」
声が聞こえてくる。
どうやら無事、転生することができたようだ。
しかし、生まれたばかりなせいで、視界が真っ暗だ。
そうか、生まれたばかりの赤ん坊はまだ前を見ることができないんだった。
なにも見えないのは不便だから、透視の魔術を使う。
よし、これで前が見えるようになった。
「にしても、生まれたばかりだというのに泣かないな」
「きっと、お利口さんなのね」
視界には俺の両親と思わしき人物が映った。
どちらも俺の判断では、美形だと感じる。
「ん?」
ふと、俺は首を傾げた。
というのも、見たことないものが視界に映ったからだ。
◇◇◇◇◇◇
グレッド・クレーク
職業:剣士
ランク:C
スキル所持数:5
◇◇◇◇◇◇
なんだ、これ……?
1万年前には、世界にこんなものは存在しなかった。
だが、一万年という長い年月が経てば世界の根幹から変わっていてもおかしくもないか。
ではあれば、『グレッド・クレーク』というのが俺の名前だろうか?
なら、俺の職業は剣士ということになる。
前世では、賢者と呼ばれるほど、魔術を極めたんだがな。
「ねぇ、この子の名前はなににする?」
「そうだな……」
と、両親が話ししていた。
すると、もう1つ、別の文字列が視界に入った。
◇◇◇◇◇◇
アルネラ・クレーク
職業:錬金術
ランク:D
スキル所持数:3
◇◇◇◇◇◇
どういうことだ? なぜ、2つもこんなのがあるんだ。
「よし、名前はアルドにしよう! 俺たちの名前を組み合わせてみた」
「ふふっ、いいと思うわ」
どうやら俺の名前はアルドに決まったらしい。
だが、そうなるとますます不可解になる。
目の前に見える2つの文字列の名前は、グレッドとアルネラ。どちらも俺の名前と一致しない。
ということは、2つの文字列は俺のものではないことになる。
と、考えを巡らせてすぐにたどり着く。
あぁ、この2つの文字列は両親それぞれのものなんだろう。
さっき父親は「俺たちの名前を組み合わせてみた」と言っていた。
父親の名前が『グレッド』で母親の名前は『アルネラ』。確かに、この2つの名前を組み合わせると『アルド』になる。
実に安直な名前の付け方だな、と思わないこともないが。
しかし、両親の文字列が当たり前に見えるのどういうことなんだろう?
俺は魔術を使って、世界の情報を集めることにした。
◆
あの文字列は『ステータス』と呼ばれる存在らしい。
生後一日経った俺はそう結論づけた。
両親の会話を一日中把握したおかげで、そのことがわかったのだ。
このステータスというのは、どんな人間でも他人のステータスを見ることができる。
逆に言い換えれば、自分のステータスを他人に隠すことはできない。
窓辺から道行く人を眺めると、どの人にもステータスが必ず表示される。
これは俺が特別なのではなく、どの人の目からもそう見えるとのことだった。
しかし、一万年経って、なぜこうも世界のシステムがガラリと変わったのだろうか?
いくら考えても、答えに至れる気はしない。
そして、俺本人にはまだ、ステータスがない。
それはステータスというのは15歳になってから神殿で女神から授かるものだかららしい。
だから、見るからに幼い子供にはステータスが表示されない。
逆にステータスが表示されたら、その人は15歳以上だってことがわかる。
ということは、この神と呼ばれる存在がステータスという概念を作ったのだろうか。
であれば、一度相対してみたいものだ。
女神と呼ばれるなら、賢者の俺とも引けをとらないはず。
しかし、暇だな……。
生まれてまだ一日しか経っていないが、退屈に思えてきた。
多くの世界ではそうだが、赤ん坊というのはできることが少ない。
早く、自由にこの世界を自分の目で見てみたいが。
いっそうのこと、体を成長させて大人になってしまおうか。
俺なら問題なくできるはずだ。
いや……やめておこう。
いきなり大人に成長したら、両親になんて説明すべきかわからないからな。
別に俺が一万年前から転生したきたことがバレてもいいとは思っているが、化け物の類だと勘違いされたら困る。
だが、まだ動くこともできない赤ん坊の姿のまま過ごすのは辛いな。
と、1つ名案が思いつく。
眠ってしまおうと思ったのだ。
眠るといっても、目を閉じて意識をなくすわけではない。
元いた世界の賢者としての意識のみを封印してしまうことを思いついたのだ。
一般的な赤ん坊になれば、この姿でも苦痛なく過ごせるに違いない。
そうと決まれば、早速実行だ。
だが、何年後に賢者としての意識が目覚めるように設定しようか。
5年後、10年後……いや、15年後でいいか。
15歳になったらステータスがもらえるからな。そのとき、記憶が戻るように設定しよう。
そして、次の瞬間には、元いた俺の意識はなくなり、ごく一般的な赤ん坊に戻っていた。
◆
「おい、なんだあのステータスは?」
「あんなの見たことねぇぞ」
15歳になった者が必ず行うステータスを貰える儀式。
その儀式が行われる神殿でざわめきが起こっていた。
◇◇◇◇◇◇
アルド・クレーク
職業:なし
ランク:なし
スキル:なし
◇◇◇◇◇◇
神殿にある石版に手をのせた瞬間、このようなステータスが表記されたのだ。
「ど、どうして……?」
僕は困惑していた。
本来なら、なんらかの職業が手に入るはずなのに、僕のには『なし』と表記されている。
例えば、他の人なら、『見習い職人』や『見習い料理人』『見習い商人』といった非戦闘系の職業や、『見習い剣士』や『見習い魔術師』といった戦闘系の職業、他には治癒魔術ができるようになる『見習い神官』なんてものがある。
15歳になれば、『見習い』という単語が頭についた、なにかしらの職業を手にすることができる。
なのに、僕のステータスには『なし』としか書かれていない。
「おい、あいつ女神様に不敬をなしたんじゃないのか?」
「あぁ、だから、ステータスをもらえなかったんだ」
ステータスはこの世界の女神が人々に与える加護だ。
だから、そのステータスが手に入らない僕は、女神に不敬をなしたと思われても仕方がないのだろう。
実際には、そんなことはないのに。
「おい、人間の無能が! 恥ずかしくないのか!」
「今すぐ、野垂れ死ね!」
「この不敬が! 今すぐ、死んじまえよ!」
除々に僕に対する罵倒の声が届いていく。
そりゃそうだ。
なんの職業も得られなかった人なんて、人権もないも同然。罵倒されても仕方がない。
「おい、逃げたぞ」
だから、その場にいることが耐えられず、僕は神殿から逃げ出した。
早く家に帰ろう。
僕の両親なら、なんとかしてくれるはずだ。
◆
「この恥晒しが、今すぐこの家から出ていけ!」
家に帰って早々、僕のステータスを見た親父が顔を真っ赤にして叫んだ。
そして、母親は僕のステータスを見て、その場でうずくまって泣き始めた。
どうやら両親だからといって、僕のステータスを受け入れてくれるわけではなかった。
だけど、このまま家を追い出されても僕には生きる術がない。
「あの――ガハッ!」
なんとか家に住まわせてもらおうと口を開いた瞬間、腹に激痛が走った。
そのまま、僕の体は真後ろへと吹き飛ばされる。
「この愚弟が。家に泥を塗りやがって。今すぐ、ここから出ていけよ」
立っていたのは僕より2歳年上の兄。
◇◇◇◇◇◇
ノータス・クレーク
職業:見習い剣士
ランク:F
スキル所持数:3
◇◇◇◇◇◇
ふと、兄のステータスが目に入る。
兄は僕と違って、ちゃんとした職業を手にしていた。
その兄の手には剣があった。どうやら、剣の柄で僕は吹き飛ばされたらしい。
「せいぜい、どっかで野垂れ死ぬんだな」
そう言葉を吐き捨てて、強く玄関の扉を閉める。
僕は家から追い出されてしまったらしい。
◆
「おい、あいつか! 職業がないやつは」
「おい、衛兵はなにしている。あんなやつ、今すぐ投獄させてしまえよ」
「あんな不敬なものがこの世に存在しているなんて、おぞましいわ」
「おい、あんなやつ絶対に犯罪を犯すから、早いとこ処刑させたほうがいいだろ」
ステータスというのは隠すことができない。
だから、すれ違った人たちは僕のステータスを見るかぎり、罵詈雑言を並び立てる。
あぁ、そうか。
僕はこのまま処刑されてしまうのか。
どの職業にも就くことができない僕は、確かに生きる価値がない。だから、処刑されても当然なのかもしれない。
だけど、なんで、僕だけがこんな目に……っ。
ステータスが『なし』と書かれていた人なんて、これまで一人たりとも存在していなかった。
だから、僕が初めての事例なんだろう。
なにも悪いことをしていない僕がなんでこんな目に合わなくてはいけないんだろう。
「いたっ」
頭に衝撃が走り、思わずそう口にする。
見ると、子供が僕に対して石を投げていた。
「おい、この無能が! 今すぐ、どっかいっちまえよ!」
子供の罵倒が聴こえる。
だが、そんなことはどうでもよかった。
「……確かに、今は15年後だな」
そう俺は呟く。
というのも、石があたった瞬間、俺は前世での記憶をすべて思い出したからだ。
俺は生まれたばかりの頃、自分の記憶を封じ込め、15年後に再び記憶が蘇るように設定していた。
「おい、どっかいっちまえー」
「どっかいけー」
「この罰当たりがー!」
子供が発端となった俺に対する石を投げる行為が広まったらしく、大人たちまでもが俺に対して石を投げ始めていた。
だが、そんな些細のことはどうでもよかった。
なぜ、俺はステータスを手に入れることができなかったんだ?
少し、考えて答えにたどり着く。
そうか、俺は女神と同等の存在だからか。
前世で俺は賢者と呼ばれていた。そう、まさに神とつくほど、俺の存在は頂きにあった。
ゆえに、この世界でもステータスの加護を与える女神と俺は同等だ。
自分と同等の存在に加護を与えることができるはずがない。
少し考えればわかることだが、今まで気がつかなかったのが恥ずかしいな。
「この悪魔がぁあああ! 死んじまぇええええ!」
「今すぐ、どっかいけぇえええ」
「この無能がぁあああああ」
「死ねや、ごらぁあああああ」
さっきから罵倒と共に石が飛んでくる。
すでに、たくさんの石が体に投げ込まられているが別に平気だ。
魔力で肉体を纏ってしまえば、どんな攻撃でも防ぐことができる。投石なんて、俺からすれば、赤子の拳も同然だ
とはいえ、流石に目障りではあるな。
今や、老若男女関係なく何人もの人たちが俺に石を投げてきている。
いい加減、なんとかしたい。
だから、俺は指を鳴らしながら、こう口にした。
「〈反転〉」
瞬間、投げられた石が逆方向へと向きを変える。当然、投げた本人へと石がぶつけられた。
「ぐはっ」
「うげぇ」
「がはっ」
石があたった人たちはその場にうずくまり始める。
突然の怪奇現象。
ここにいる人たちは、そう思ったに違いない。だから、全員が石を投げるのをやめ、ただ困惑していた。
その隙に、俺はその場から立ち去ることにした。
◆
俺が真っ先に向かったのは自分の実家だ。
さきほど、追い出されたばかりだが、今の俺なら、説得することは可能だろう。
別に、このまま追い出されたままでも、自分の力があれば生活はできるが、両親とこのままお別れなのは俺としても寂しいと思ったからだ。
別に、俺は自分を家から追い出した両親と兄を恨んではいない。
この世界なら、ステータスがない者に対して、ああいった反応をするのは至極当然だからだ。
それほど、この世界において、ステータスというのは大事なものとなっている。
とはいえ、このステータスという概念が奇怪なことは変わりないがな。
なにゆえ、女神はこんなものを人々に与えているのやら。
道で通り過ぎるすべての人にステータスが表示されている。
だから、ひと目見てしまえば、その人がどんな職業なのかわかってしまう。
「おい、なんだ。あれ?」
「あれって、もしかして噂の……」
同時に、俺のステータスは通り過ぎた全員に見られてしまう。
だから、さっきから、ひっきりなしに噂声が聞こえてくる。
この世界には、職業選択の自由がない。
ステータスで職業が決められてしまうため、職業を選択することができないからだ。
そう考えると、ひどいシステムだと思うが、ステータスで職業を決められるメリットだって少なからずあるのかもしれない。
誰がどの職業に向いているかは、中々わからないからな。こうやって、決められたほうが、人間にとって楽な面もあるかもな。
あと、こうしてステータスが表示されるおかげで、相手がどんな人なのか、すぐにわかるので、便利ではある。
例えば、この世界では喧嘩が起きにくい。というのも、戦う前にステータスを見てしまえば、相手の実力が概ねわかってしまうからな。
と、そんなことを考えていたら、実家に着いていた。
扉の取っ手に手をかけると、当然鍵がかかっていた。
だから、俺はひっぱって扉ごと壊した。
「やぁ、父上に母上。それに、兄上も。もう一度、話をするために戻ってきたぞ」
扉を開けると、3人がいたので、俺はそう挨拶をした。
「おい、どうやって、入ってきた!?」
「別に、普通にあけて入ってきただけだが」
父親の質問にそう答える。
「おい、アルド! てめぇ、まだ懲りないのか! いいか、てめぇは、この世で価値のない人間なんだよ! だから、今すぐ出ていけよ」
いきり立った様子の兄、ノータスが剣を向けながらそう叫ぶ。
「断る」
出ていけ、と言われた兄に対して、俺はにべもなく、そういう。
「だったら、今、ここで今、殺してやってもいいんだぜ」
「や、やめて! 流石に、殺すのは……」
剣先を向ける兄に対し、母親がそう叫ぶ。
「いや、兄上の言う通りだ。戦うのが一番わかりやすい」
そうすれば、俺の力も見せることができるしな。
「おい、本気で言ってんのか! ステータスがないお前が俺と戦ったから、簡単に死ぬぞ!」
「それは勘違いだな。俺と兄上が戦った場合、勝つのは俺だ。ステータスなど、俺の前では無意味なのだからな」
「おい、今のステータスに対する侮辱か? ステータスの侮辱は女神の侮辱と同義だとわかっているんだよな!」
と、父さんが口を挟んできた。
確かに、この世界ではステータスは神聖視されている。だから、ステータスを侮辱したら、それは女神への不敬となり、下手すれば投獄される。
「事実をいったまでなんだがな」
「おい、外にでろ! わからないってなら、その体に直接教えてやる。ステータスがいかに絶対だってことをな」
そう言って、剣を持って兄さんは外にでた。
それに俺も続くことにした。
◆
「今なら、前言撤回ということで許してやるぜ」
俺と対面した、兄上は剣を片手にそう口にした。
「悪いが、撤回するつもりはない」
「そうか。なら、やるしかないようだな」
覚悟を決めた様子で、兄上はそう口にする。
「アルド。これを使え」
見届けていた父上はそう言って、俺に鞘に入った剣を渡してきた。せめてもの、情けのつもりだろうか。
ちなみに、母上は兄弟で戦うなんて見てられないということで、部屋にこもってしまった。
「悪いが、必要ない」
俺は父親から手渡された剣を拒否する。
剣なんて使わなくても、勝てるからな。
「てめぇ、ふざけやがって!」
だけど、舐められていると思ったのか、兄はよりいきり立つ。
「ノータス。殺さない程度にやれよ」
ふと、父さんが兄さんにそう忠告する。
「ふっ、俺としては殺すつもりでかかってこないと張り合いがなくてつまらないんだがな」
「てめぇ……ッ!」
「アルド。それ以上、舐めたことを言うな。ステータスがないお前が兄に勝てるわけないだろ!」
父さんの叫び声を受け流す。
早く自分の力を見せて、いかに俺のほうが格上かを教えやらねばな。
「いつでも、かかってきていいぞ」
クイクイッ、と俺は兄に対して手招きする。
「じぁ、早速見せてやるよ、お前にないスキルというやつを! 〈筋力強化Lv2〉!〈耐久強化Lv1〉!〈敏捷強化Lv1〉!」
そう言って、口頭でスキルの名を口にする。
傍からみると、兄のステータスは、
◇◇◇◇◇◇
ノータス・クレーク
職業:見習い剣士
ランク:E
スキル所持数:3
◇◇◇◇◇◇
と、なっている。
所持しているスキルは3つとなっているが、その3つは〈筋力強化Lv2〉〈耐久強化Lv1〉〈敏捷強化Lv1〉となっているらしい。
地面を蹴り上げた兄は剣先を俺に突き立てるようにして、むかってくる。
わずかに急所から外れているな。
一応、父親の「殺すな」といった言いつけを守るつもりはあるようだ。
「遅いな」
ひょい、と体を横にそらして、剣をかわす。
「なっ――」
兄は、一瞬、俺がよけたことに驚愕の表情をする。
だが、すぐに歯を食いしばり、
「偶然、よけられたぐらいで調子にのるんじゃねぇ!」
と、再び剣を俺に対し、ふるっていた。
ガシッ、とかち合う音が鳴る。
「この程度の剣を受け止めるぐらいなら、小指の爪で十分だな」
そう、俺は小指の爪を突き出し、兄の剣を受け止めていたのだ。
俺の体の中は、魔力で充満している。ゆえに、この程度の剣で俺を傷つけることはできない。
「おい、ノータス! なにをやっている!」
いつまでたっても動かない兄に、父さんが叫んだ。
「な、なにがどうなってやがる……」
さっきから、ノータスは剣を突き刺そうと押していた。だが、全く微動だにしない。
「こんなのものなのか? お前らのいうステータスという存在は」
「ふ、ふざけんじゃねぇ!」
兄上はそう言って、剣を何度も振り回しはじめる。
それを俺は小指の爪で全て受け止める。
それから、何度も兄上の斬撃を爪で受け止めていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
疲れたのか立ち止まって肩で息をしている兄上がそこにいた。
「あまりにも弱すぎて興が乗らんな。そうだ。父上もかかってこい。二人相手なら、もっと楽しめるかもしれない」
「このやろう……っ。ステータスがないやつが調子にのりやがって……」
そう言って、父上も剣を手にした。
それから俺は父上と兄上を二人同時に相手にし始めた。
兄上のランクがEなのに対し、父上はCランクだ。だから、少しは期待したのだが、俺からすれば、二人に差があるようには思えなかった。
「一万年も経てば、少しは強いやつもいると思ったが、意外とそうでもないのかもな」
ふと、落胆した思いを口にする。
「意味わからねぇことを言いやがって!! いいか、ステータスは絶対なんだよ! 俺がお前に負けるわけがねぇんだ」
「あぁ、そうだ。ノータスの言う通りだ!」
これだけ実力の差があるのに、二人はまだ俺に勝てる気があるようだ。
「ふっ」
思わず俺は破顔した。
前世では、こんな風に俺に歯向かおうとするものは一人としていなかった。だから、俺はこうして戦えて嬉しいという感情が沸き起こったのだ。
「そうか! だったら、ステータスが絶対であるということを証明してみたまえ!」
俺はそう言って、右手を伸ばす。
すると、土塊が手先に集まり、一本の剣となった。
「今から、俺は魔力を絞り力をお前らと同等にする。その上で、俺に勝てたら、ステータスが絶対であることと認めてやろう」
「な、舐めたことをしやがって」
「いくら息子であろうと、ステータスへの侮辱は許さないぞ」
さて、第二ラウンドといこうか。
◆
――1万年前、ある剣士と出会った。
その剣士は体格は平均的な剣士よりも劣っていた。だが、彼は並みいる剣士よりも強かった。
それは俺の域にも届くほどに。
だから、俺は聞いた。
「なぜ、そなたはそれほど強いのだ?」と。
そうしたら、その剣士はこう答えた。
「相手が人間であれば、思考を読むことができます。思考が読めれば、私の剣技で翻弄することできますゆえに」
そのとき、俺は初めて剣技というものが力を圧倒するだけの潜在能力を秘めていることを知った。
その剣士には遠く及ばないが、俺にも剣技の心得が多少なりともある。
だから、父上と兄上の剣撃がスキル一辺倒で、非常に単調で杜撰なものだということが見てわかった。
相手が知恵のない魔物相手なら、それでもいいのだろう。
だが、相手が人間ならば、その戦い方ではダメだ。
「しねぇええええええ!!」
兄上が一直線に剣を突き刺そうと向かってくる。
これでは、避けてくれと言っているようなものだ。
だから、俺は軸足を中心に体を動かし、華麗に攻撃をかわす。そのまま、足をひっかけ、よろめかす。
それで俺の攻撃を終わらない。
さらに追撃するため、剣を兄上に振りかざす。
とっさに攻撃を受けまいと、兄上は剣を身を守るように前に突き出した。
「馬鹿め。これはフェイントだぞ」
そう、剣での攻撃はただのフェイント。
真の目的は蹴りを加えることだ。
「ぐわっ!」
蹴り上げられた兄上はうめき声をあげながら、そのまま後方に転がっていった。
「父上もかかってこい。二人同時に、剣技というのもがどういうものか体に直接教えてやる」
「ふざけんな! そんな小賢しいもの、ステータスの前には必要ないわ」
「そうか。なら、戦ってどちらが重要か確かめようではないか」
それから俺は二人を相手に剣技を使って、翻弄した。
「これでもまだ、認めぬか」
数分後、目の前には地面に突っ伏した二人の姿が。
まだ、闘志は消えてないようで、睨みつけられていた。
「こうなったら、最終奥義を出してやる!」
そう言って、父上は起き上がる。
「ほう、最終奥義か。それは実に楽しみだな」
「これを使えば、流石に殺してしまうと思ったからな。だが、もう出し惜しみはしねぇ」
「そうか。なら、全力で受け止めようではないか!」
父上のステータスは合計で5つ。
そのうち4つは、筋力強化Lv10、耐久強化Lv2、敏捷強化Lv5、体力強化Lv4だと、これまでの戦いで判明している。
残りもう1つのスキルが父上のいう最終奥義なのだろう。
「〈突撃斬〉ッッッ!!!」
そう口にした瞬間、体が加速し、俺のところまで一直線に勢いよく突撃してきた。
なるほど、これが父上の最終奥義か。
「な、なんだと……?」
見ると、そこには驚愕した姿の父上の姿が。
「あっぱれだな。思わず、小指でなく薬指の爪で受け止めてしまった」
恐らく小指の爪で受け止めていたら、完全に受け止めきれることはできなかっただろう。まぁ、少し爪にヒビが入るだけで済むとは思うが。
「そ、そんな馬鹿な……ッ」
だが、最終奥義を受け止められたことに父上は愕然とした様子をしていた。
「油断したなぁッ!!」
見ると、背後から襲いかかってくる兄上の姿が。
完全に不意をつく形だ。
だが、卑怯とは思わない。戦いというのは常にこういうものだ。
さきほど、俺は剣技を使って、不意をつくような剣撃を何度も食らわした。
もしかしたら、兄上に剣技というのが伝わった証拠なのかもしれない。
「だが、遅すぎる」
俺に攻撃を当てるには、あと、何1000倍も速くならないとな。
人差し指で俺は兄上の剣を受け止めた。
しかし、ただ受け止めただけではない。
「な――ッ!」
驚愕する兄上の表情が見える。
というのも、俺が指で触れた瞬間、バリバリバリッッ!! と音を立てて剣が砕け散ったのだ。
そろそろ、この戦いにも決着をつけようと思った次第だ。
「ん?」
砕け散ったのは剣だけではなかった。
剣に与えた衝撃がそのまま柄を持っていた兄上にも伝わってしまい、ビチビチビチッ! と、音を立てながら兄上の体が破裂した。
目の前には、肉塊へとなった兄上の死体が。
なるほど、やりすぎてしまったようだ。
「の、ノータス!?」
死体となった兄上を見て、父上が大声をあげる。
それから体から飛び出した臓器を見て、確かに死んだことを認識したようだ。
「匕、ヒィ……ッ、俺が悪かった! す、すまない、許してくれ……ぇ!!」
なぜか、親父は勢いよく土下座をしてきた。
「おい、なんで謝っているんだ?」
「お、お前の言う通りステータスに意味がないことがわかった。だ、だから、や、やめてくれ……ッ!」
親父の顔面は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。それに恐怖なのか、ガクガクと震えている。これで自分の父上だと思うと少し虚しいな。
「おい、だから、なにに怯えているんだ?」
「お、俺に対して、怒っているんだろ……?」
「別に、怒っていないが?」
「だ、だが、ノータスを殺しただろ……?」
そう言われて初めて気がつく。
1万年前は、殺しても復活してくるやつらとばかり戦ってきたからな。
だから、殺しても生き返ってくるのだと思っていた。
目の前のこいつらは、一度死んでしまえば後戻り出来ないのか。
「今から、生き返らせる。だから、安心して、そこで見ておけ」
そう言って、俺はミンチになったノータスの肉体を一瞥する。
さて、生き返らせるとしても様々な方法がある。
時間逆行や肉体の再構築、魂を天界から降霊させるなどなど。どれが楽か考え、俺は時間を逆行させることを選ぶ。
時間を逆行させるといっても、世界全ての時間を巻き戻すわけではない。
あくまでも、ノータスの体のみの時間を逆行させるだけだ。
よし、これで術式は完成だな。
術式ができるのを確認すると、俺は指を鳴らす。
次の瞬間、ミンチとなった肉塊が一箇所に集まっていき、元の体へと戻っていく。
「な、なにが起きたんだ……?」
困惑した様子の兄上がそこには立っていた。
「悪いな兄上。間違えて殺してしまったから、生き返らせておいたぞ」
「な、なにを言っているんだ……?」
俺の言葉が理解できなかったようで、ノータスはただ困惑していた。
「うぉおおおおお、ノータスぅうううう!!」
ただ一人、事の成り行きを見守っていた親父だけは泣きながらノータスに抱きついていた。
「お、親父。どうして、抱きつくんだよ!?」
と、ノータスは困惑した様子で抱きつく親父を見ていた。
ふむ、親子の絆は見ていて中々悪くないものだな。
◆
「俺には賢者と呼ばれた前世の記憶がある」
両親と兄上を前にして、俺はそのことを告白していた。
「ステータスがこのように『なし』と書かれているのは、ステータスを与える女神と俺の存在が同格だからだろうな」
「だが、今までそんな素振りは一度も……」
「あぁ、それは意図的に前世の記憶を消していたからな。ついさっき、思い出したばかりだ」
父上の疑問に俺はそう答えた。
「そうなのか……」
俺の前世の記憶があることに全員納得したようだった。
まぁ、俺の力を見せつけられたら信じる他ないのだろう。母上だけは、俺の力は見ていないが、さっき父上がなにがあったか説明したので、理解しているのだろう。
「ねぇ、アルド。さっきから、なにをやっているの?」
そう聞いたのは母上だった。
「あぁ、このステータスを改変できないかイジっていたのだ」
そう、さっきから俺は自分ステータスを指で触れて、仕組みを解明しようとしていた。
俺のステータスは『職業なし』だ。
この世界で、このステータスのままなのは不便だから、できればなにかしらの職業を入れたいところだが。
「そ、そんなことができるの?」
「いや、想像以上にステータスを改変するのは難しいな。前世では万能だったが、そのときはステータスなんてもの存在していなかった。だから、ステータスを書き換えるのは難しそうだ」
「そうなのね……」
と、母親は頷く。
恐らく、俺の言葉を正確には理解できていないだろう。
「なぉ、アルド。お前はこれからどうするんだ?」
ふと、父親にそんな言葉をふられる。
「そうだな……」
ふと、俺は顎に手をそえて考えた。
この世界において、通常、ステータスで選ばれた職業通りの道に歩むのが一般的だ。
だが、俺の場合、職業なしだからな。
このままだと、なんの職業にもつくことができない。
だが、それは俺の本意ではないな。
「ひとまず、魔術学校に行くかな。確か、王立魔術学院があったよな」
俺が賢者といわれる所以は、魔術を極めたからだ。ならば、魔術学院行くのが最も合理的だろう。
「あのね、アルド。魔術学院に行くのは、最低限ステータスが魔術師と記載されていないと無理なのよ……」
と、母親が心配そうに言う。
「だが、俺は魔術が使えるからな」
その証明すべく、俺は手から炎の塊を作り出す。
「だけど、王立魔術学院は魔術師のエリートが通う学院よ。受験を受けさせてもらえるとは思えないわ」
「それは交渉してなんとかするしかないだろう」
うん、実際に魔術が使えることを見せれば、認められるはすだ。
「そうだな、アルドなら恐らく問題ない。それに、アルドのステータスが『なし』なのは覆ようがない事実だ。どんな道に進むにも、ある程度の障害はあるだろう」
父親は俺の選択に同意してくれた。
「でも、私が錬金術だからわかるけど、魔術師はエリート志向が強い人達が多いわ。アルドがどんな差別を受けるか……」
錬金術師は魔術師の格下の職業だと思われがちだ。だからこそ、母親はその点を懸念しているのだろう。
「そのときには、俺の魔術で真っ向から踏み潰せばいい」
この世界の魔術師が束になっても、負ける気がしないしな。
「ほどほどにしておけよ……」
俺の魔術を全て見た父親だけはげっそりした様子でそう告げていた。
そんな具合で、俺は王立魔術学院に通うことが決まった。
受験日は間近にあるらしく、タイミングもちょうどよい。