七話 49日
変なところ沢山あるかもしれません。
「高貴起きたんなら、早く準備しなさい。もう出るわよ」
階段の下で母の声がして意識をドアに向ける。。
「わかった。すぐに下に行く」
一度返事を返し由紀に向き合った。由紀はすでに立っておりスカートを直していた。
「とりあえず、一回戻るね」
由紀はドアの前でこちらを向いていた。
「あのさ、これからどっちの名前で呼べばいいかな....」
鳩尾がぐるぐると周り食堂に胃液が昇ってきそうなのが分かり気持ち悪い。由紀は一度手が震えドアノブから手を離した。
「皆がいる前では由紀の方がいいかも。私は皆の前では由紀を演じるようにするつもりだったし」
美紀は少し低い声になりドアを捻り階段を下りて行った。
夏休みが終わり一週間以上たったのにハンガーから一度も外されていない学ランを羽織ドアを出た。微かに香る焼香の匂いが付いた学ランはあの日を思い出させる。俺は一度部屋に戻り消臭スプレーを振りかけた。人工的な匂いが部屋に広まり心が少しだけ軽くなる気がした。
階段を降りすぐの玄関に着きまだ固いローファーを履き外に出た。まだ、夏休みは終わっても日差しは強く太陽に当てられクラっとくる。
車には父がすでに運転席に待機しており後部座席のドアを開け体を滑り込ませる。車内はクーラーの風が充満しており汗がひんやりと体を冷ます。母がドアに鍵をかけ助手席に座った。
言葉は特に交わさずお寺に着き、母はいち早く田島夫妻に顔を見せに行った。父は車を止めてくるといい俺を下ろし走り出した。
お寺はさほど大きくなく隣には一軒家が数件ばかしある。中に入ると独特な匂いが鼻に入り気分が落ち着く。
49日は小規模で執り行うためパイプ椅子の数が少ない。由紀は葬儀で使われた写真を手に持ち複雑そうな顔でこちらを見ていた。
予定していた人数が集まり、お坊さんがお焼香の手順を軽く説明し、椅子に座りお経を唱え始める。
頭は次第にぼーっとし始めお経が頭の中で反響する。何も考えたくないのか現実を見たくないのか、頭に浮かぶことはどうでもいいことばかりだった。
お経を唱え終わり、お坊さんが皆の前にふわっと立った。
「お葬式の時にも一度話をさせてもらいましたが、一言だけ時間をください」
お坊さんは辺りを一度見回した。目と目が交差をする。お坊さんは自愛の目をしており心が落ち着くのが分かる。
「死ぬことは不思議なことではありません」
お坊さんは優し気な声を響かせもう一度辺りを見回した。その一言を言いお坊さんは振り返り手を合わせた。
その後食事も滞りなく終わり、由紀とは一度も会話せず49日が過ぎていく。
美紀は閻魔様に合えたのだろうか.....
眠りに着こうとしたタイミングでスマホが音を鳴らした。
『明日学校一緒に行かない?』
由紀からメッセージが送信され絵文字で了解の意思を伝えた。美紀はメッセージをするとき絵文字を使わない。由紀から送られてきたメッセージは絵文字付けず送信されたところを見ると、ボロを出すつもりはないらしい。
俺は何を願っているのだろうか。由紀にボロが出てほしいのか、それとも美紀のままでいてほしいのか.......
暗い感じをどう変えれば......