五話 嘘をつき依存する
よろしくお願いします。
彼女のネジが止まり動かなくなった。雫は重力に逆らえずカーペットに落ちるが本当に力尽きたように脱力している。
俺は何故だかわからないが、彼女の頭の上に手を置いた。彼女が美紀の確証があったら抱きしめていたかもしれないが、由紀の顔と体が目に入り体が動かなかったんだろう。
しかし、自分とは反対に彼女の体は油が刺さったように滑らかに動き始めた。
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私は嘘をついた。
美紀の49日前夜私は深く眠ることができなかった。目を瞑り眠りに着こうとするが脳が休まってくれない。急な尿意を感じ暗い部屋の中部屋の電気をつけトイレに向かった。用を足し洗面所で手を洗っている時、リビングからひどく荒れた声がした。リビングに響き渡る怒声は両親が喧嘩をしている声だった。両親は美紀が亡くなった後、いい両親ではなくなった。外では悲しい素振りを見せたり、吹っ切れたような雰囲気を出すが、家の中ではひどく荒れた。挙句の果てには「美紀が死ななければ」と母が漏らし私は耐えられずリビングの花瓶を地面に叩きつけた。父はその言葉には何も反応を示さず喉元が酸っぱくなった。
49日が終われば一周忌まで間隔があく。両親からは早く終わりたい雰囲気が消えず家に充満していった。
私は布団を頭まで上げ音を遮断した。
「どうすればいい....」
今まで頼ってきた姉はいない。何とかこの状況を乗り切りたかった。頭はさらに睡眠を欲せず回転数を高める。
窓から日差しが昇ってきた時、私はあることを思いついた。
「私が美紀になれば」
私が美紀になれば体は由紀で心は美紀、両親はそれで納得するのではないか。両親の亀裂を埋める理由になるのではないか。しかし、数分後には馬鹿な考えだと思った。でも、私は姉にすがりたかった。心に開いた穴を姉に埋めてほしかった。姉がいる感覚が欲しかった。
「あ、私、美紀に依存しているのか」
言葉をポツリと漏らしたが、部屋には響き渡らなかった。
私は何かに囚われたようにベッドを出た。頭は睡眠を取らなかったせいでぼーっとしている。部屋を出て隣のドアノブを捻り開けていた。美紀の部屋は死んだあと、誰も触っておらず綺麗であったが埃が少し溜まっていた。
私は中に入りドアを閉めハンガーラックに掛かっている制服に着替えた。
「美紀の匂いがする」
自分の体が美紀に包まれていく安心感に心が溶けていく。
「私さ美紀になれるかな。ずっと私の憧れの女性になれるかな」
部屋を見渡し何かを決めたように微笑んだ。
「私今日から美紀になるよ。私が大好きな人になるよ」
私は自信の腕で抱き締めた。
「高貴バレないようにしなくちゃね。美紀、高貴の事大好きだったから彼に好かれないと」
「心の支えになって、美紀」
私はドアノブを捻り洗面所に足を向けた。
私は姉に依存し嘘をつく。