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依存する二人は醜い  作者: 白色真
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第二話 抜け殻

誤字あったらごめんなさい。

姉が亡くなった。

連絡を受けたのは私がソフトテニスをしている時だった。名前もわからない先生が血相を変え私の名前を呼びながら走ってきた。私は首を左右に激しく振りながら走る先生にランニングで近づき声を掛けた。


「あの、田島由紀です。何かありましたか?」


先生は驚き2、3歩後ろに下がったがすぐさま私に紙を渡した。


『美紀・事故・危篤』


殴り書きで書かれたメモの単語が浮かびあがり頭の中で何かが弾けた。先生に強引に手を引かれ校門で待機してあるタクシーに押し込まれ車が走り始めた。心地よい風が体を満たしているはずだが、私は極寒にいるような感覚に襲われる。タクシーが止まり前の座席に軽く頭を打ち付ける。ドアが勝手に開き隣に座っていた先生が叫んだ。


「病室は301号室。番号だけ言えばすぐ案内されるから早く行って!!」


彼女の高い声を聴きそこで先生が女性だということに気が付いた。足が自分のものでは無いように感じるが脳は足を止める支持を出さない。もう、どれほど走っただろう、心臓が強く脈打つリズムをやめない。自動ドアが開き私の表情に気が付いたのだろうか、制服で気が付いたのだろうか、どのように判断したかはわからないが、大人の女性に手を引かれエレベーターに連れ込まれる。先ほどから自分が人形の様に扱われているように感じる。女性が扉を強く開き中に入ると体を何かで覆われた。


「由紀、ゆき.....」


鼓膜が溶けそうな声で名前を呼ばれ母に抱きしめられた。母の肩の上に私の頭が乗り目の前の光景を見た瞬間、私は泣いていることに気が付いた。


姉がベッドで寝ていた。


夕方は学生が活発に行動をする時間帯、しかし姉は数人の大人に見守られ寝ていた。母が抱き締める手を緩め背中を摩りその後軽く前へ押した。


何故だろういつも口角を上げ朗らかに笑う彼女の顔が動かない。


いつも綺麗にしている顔には紫の絵の具が付いている。


私の手はその絵の具をぬぐうように頬に触れるが一向に私の手に紫の絵の具は付かない。滲んだ絵の具は油性で乾いてしまったのだろうか。だが、姉の顔には似合わなかった。

手を離した時部屋が優しく開いた。白衣の男性が入り一礼し美紀に近づく。目を確認し軽く体を落ち着かせた。


「只今、心臓の信号もなくなりました」


病室の窓側で見守っていた父の頬に涙が垂れた。


「ありがとうございます」


父は確認をとった医師に一礼した。医師はこの瞬間が職務の中で一番息苦しいものかもしれない。


「由紀が間に合ってよかった。まだ微弱だけど電気信号はあったんだ。ほんとにまにあってよかった」


彼は寡黙でいつも黙々と仕事をしている人だと思っていた。背中で語るという言葉が似あう父だった。そんな父の弱いところを初めて見えた気がした。

看護師と美紀の最後の確認をおこなった医師は静かに部屋を出ていった。


「葬儀の準備をしましょう。由紀、少しだけ美紀と一緒にいてあげて。パパ行くよ」


誰かが頭を切り替えないといけないのだろう。母も切り替えられたわけではないと思う。ただ行動を起こし忘れたいのだろう。しかし、病室を出る父はしっかりとした足取りで次に向かおうとしていた。

向かう方向が良い道であるといいが。


私は一人の病室で何をしたらいいのだろう。考えもなく私は再度姉の顔を覗き込む。私は姉の仕草に目を奪はれ眼球を動かすことすら困難だった。


「美紀、死ぬ時の所作、どこで習ったんだよ。覚えるの早いよ」



姉の抜け殻は私が今まで見てきた抜け殻で一番美しかった。


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