一ノ瀬さんとお出かけ(5)
スカイツリー展望デッキを充分堪能したあとは、意外と時間に余裕があったので、せっかくだからと下の階にある水族館によってみた。
規模がそれほど大きくなかったので時間つぶしには最適だった。一ノ瀬さんはクラゲがきれいだとはしゃいでいたな。
その後は約束どおり銀座に移動して寿司屋へ
職人さんにおまかせで握ってもらうようにお願いする。嫌いなものがないか尋ねられていたがお互い好き嫌いも特になかった
カウンターで握る様子を眺めながら色々話をした。せっかくなので少し気になっていたこと聞く。
「そういえば、毎年帰っているみたいだけど、前は九州だったんでしょ?大変じゃなかった」
「そうですねー、飛行機代は結構痛かったですね!少し近くなったので少なくとも飛行機は乗らなくてよさそうなので助かりました」
「俺なんて全然帰ったりしないからさ、やっぱり親戚の集まりとか?」
「あ、ははは……そんなところです……」
なぜか気まずそうに視線をそらす彼女。あんまりプライベートなことを詮索しないほうが良かったかな……迂闊だった。
「ごめんね、立ち入ったこと聞いちゃって。そういえば一ノ瀬さんは兄弟とかはいるの?うちは妹いるんだけど、テンション高くてさ」
「私は一人っ子なんですよ、妹いいなあ私も欲しかったな……お兄ちゃんも欲しかったですね。子供のころは母親になんで私には兄弟がいないのって駄々こねてたみたいです……」
少なくとも俺と結婚すると妹はついてくるよ、と勢いに任せて言ってしまいたく気持ちをぐっと堪える。
「だから結婚するなら妹がいる人がいいなあって思ったりもするんですよ」
少し頬を赤らめて話す彼女。笑顔がまぶしい。
え?
さきほど思い浮かんだ妙な考えが現実になってしまったかのような光景に、リアルな幻覚だな、と思ってしまった。
何か言わないと、この間はまずい。沈黙を作ってはいけない。
「結婚するとそういうのあるからいいよね。うちの妹も姉が良かったって言ってるよ、男で悪かったなって思う」
つい反射的に逸らしてしまった。なんかチャンス逃した気がするぞ……
いや、まさかな。別に俺と結婚したいって言われたわけじゃないぞ、思い上がるな。落ち着け。冷静になれ、戦場では熱くなったやつから死んでいくんだ。
「やっぱり姉妹って便利じゃないですか?服の貸し借りとかできますし」
明るい表情のまま、そう答える彼女。
その後も楽しい雰囲気のまま会話をしつつ、食事が終わった。
時間はまだ9時前であり、結構早く終わったな。彼女一人っ子って言ってたしいくら大人とは言え一人娘の帰りが遅くなると両親も心配するだろう。
「じゃあ帰ろうか、あんまり遅くなってもあれだしね」
「え?あ、そうですね。帰りましょうか」
一瞬意外そうな表情をした彼女。あそうか支払いか。さっきトイレ行ったときに済ませちゃったんだよね。
「ここ俺出しといたから。割るのも面倒だし。また今度おごってよ」
「えー、悪いですよー。じゃあお言葉に甘えて、次は絶対私払いますんで!」
「期待しておくよー」
歩くのが大変だからタクシー呼んで一緒に帰ろうか?と提案してみたが、彼女は電車で帰るし、親が迎えに来てくれるから大丈夫だと言う。
その後は地下鉄には一緒に乗って、俺はJRに乗り換えるのでそこで解散した。
今日一日で彼女との関係もさらに親密になったと手ごたえを感じながら家路につくのであった。
◇
「あ、お母さん、お父さんに駅まで迎えに来てもらうようにお願いしてもらえる?」
「あんた今日遅くなるって言ってなかったっけ?ずいぶん早いみたいだけど」
「ちょっと予定が変わってね・・・」
電話を終えると彼女は少し落胆したかのような表情で一人つぶやく
「私魅力ないのかなあ……」