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一ノ瀬さんとお出かけ(1)

 7月ももう終わりに差し掛かったある日の夜、俺は会社の同期入社である木村と夕食を取っていた。


「六本木―、お前最近楽しそうだな?」


 木村は入社後の研修ではそれほど親しくはなかったが、こっちに転勤してきたタイミングが同じでそれからつるむようになった。

 もっとも俺は独身でこいつは子供も二人いるので生活は全然違うけどな。


「そうか? 特に変わらないけどな」


「一ノ瀬さん、だっけ?この前ちょっと話したけど、お前にすごいお世話になってるって言ってたぞ。

 仲いいのか」


「まあそれなりには」


 一ノ瀬さんはクリニックにも営業する俺たちと違って大きい病院しか行かず担当範囲としては結構ひろいので、木村の担当先でも接点あるみたいだ。


「彼女美人だもんなー、独身だったら絶対アプローチしてたな」


「……嫁さんが聞いたら泣くぞ」


「まあ冗談はさておいて、真剣にお前もそろそろ結婚したほうがいいんじゃないか?


 いい歳なんだし。この前三本松に六本木さんってゲイなんですか?って聞かれたぞ」


「あいつは……後で締めとく」



 ◇



 今日もいつものように病院医局前で一ノ瀬さんと隣で並んで立っていた。たまたまターゲットの動線的にベストポジションが同じってだけだろうけど。


 会ったばかりのときと比べると彼女は少し髪が伸びた。暑さのためか後ろでちょこんと結んでるのも色っぽい。平然を装っているが少しドキドキしている。俺は童貞か……


「そろそろお盆休みですね、今年は並びが良かったから10日は休めそうですね」


「そうだなー、こう暑いと仕事する気も起きないからちょうどいいな。一ノ瀬さんはどっか旅行でもいくの?」


「私はいつもお盆は実家に帰るだけですねー」


「意外だね、海外旅行とか好きかと思った」


「お盆と年末年始は日本にいたいんですよね。GWくらいは考えたりしますけど」


 お盆と年末年始か、親戚の集まりでもあるのかな。真面目そうだもんな。


「六本木さんはいつも連休はどうしてるんですか?」


「んー、最近は実家には滅多に帰らないし、基本的には家で映画見たりのんびりしてるな」


 実家に帰ると親が早く結婚しろとうるさく言われてしまうため、最近は寄り付かなくなってしまった。

 ちなみにうちの実家は千葉だが、こっちは関西圏なので少し遠いというのもある。


「あれ、ところで実家どこだっけ?」


「あ、うちは東京ですよ、といっても江戸川区なんでそんなに都会ではないんですが」


「そうなんだ結構近いな。うちは千葉だけど市川だし隣じゃないか」


「奇遇ですね、タイミング会ったらどこか一緒に出かけられたらいいですね」


 驚くほど近くだった。一ノ瀬さんとお出かけしたい・・・でもこれ社交辞令だよな。

 ま、まあ俺もたまには東京観光したいしな、お互いの行きたいところがたまたま一緒だったとかいうスポットでもあればありだよね?

 自分に言い聞かせてから勇気を振り絞って言ってみる。


「・・・実家も随分帰ってないしたまには顔見せに帰るかなー、お互い都合あったらどっか行くか」


「そうですよー、ご両親も心配してますよ! 私行きたいところあるんですよねー、付き合ってもらってもいいですか?」


 是非お付き合いしたいです。はい。


「喜んでお付き合いいたしましょう、お嬢様」


「よきにはからえ」


 悪乗りにも適当に合わせてくれるのが彼女の優しいところだ。


「そういえば六本木さんは帰省するとしたらどうしてます? 私前まで九州いたので飛行機でしか帰ってなかったんですよね。 こっちからだと飛行機と新幹線ってどっちがいいんでしょう?」


「あー、俺は帰るとしても車だな、時間かかるけどサービスエリアよりながら帰るの好きだし……なにより母親が三重県で赤福を買ってこないと怒る、あんなんどこで買っても一緒だろ」


「車ですか!?その考えはなかったですね。でも混みません?」


「それがまったくと言っていいほど混まない、反対方向はひどい渋滞だけどな午前中に出発すれば夕方くらいには着けるはず」


 関西方面から東京方面へは帰省ラッシュに巻き込まれることはない、

 昔は三ケ日ジャンクションが結構混んだ気もするが、新東名が延長されてからはほとんどそんなことはなくなった。


「そうなんですね~知らなかったです。

 あー……もし良かったら一緒に乗せて行ってもらえません?

 私荷物多くて……新幹線はちょっときついなー、って。

 もちろんガソリン代と高速代は折半で!運転も変わりますんで!」


 結構食い気味に来る彼女に驚きながらも、内心では歓喜している自分がいる。

 彼女にとっては都合がいいというだけで、別に俺と一緒に帰りたいというわけではないだろうが、渡りに船だ。このせっかくの機会を活かさない手はないだろう。


「あー、俺も長時間運転は眠くなるから一緒に来てくれると助かる。こちらこそお願いするよ」



 こうして、普段はただ過ごすだけの盆休みが一大イベントに早変わりしたわけだ。


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