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かみあわないふたり(2)

 10月は人事異動や決算の直後ということもあり、大量の会議と資料作成で慌しく過ごした。そんな日々もあっという間に過ぎ去り、ようやく一段落というところだった。


 気持ちに余裕が生まれてくると、考えるのは当然仕事のことではなく楽しみにしていることだ。

 以前一ノ瀬さんと約束した動物園は来週末に迫っていたある日、浮き足だった気持ちに冷や水をあびせるかのような電話がかかってきた。


「六本木さん、ごめんなさい来週の動物園なんですが日程変更できませんか?」


 電話口で申し訳なさそうに話す彼女。

 残念ではあるが彼女にも事情があるだろうしチャンスが失われたわけではない。少しがっかりしたがそんなことを諭されないよう俺は答えた。


「全然かまわないよ、また日程相談しようか」


「本当にごめんなさい、実は以前九州に勤めていた時の後輩がこちらに遊びに来るというので……」


 納得できる事情だった。友人との付き合いはとても大切だ。特に職場が離れても付き合いたいと思ってくれるような人は結構貴重だ。


「そっか、そりゃしょうがないよ。俺とはいつでも行けるから気にしないでそっち優先してよ」


「そういってもらえると助かります」


 大人ぶって言ってみたものの、自分で思っている以上に落胆していた。



 ◇



 そして迎えた翌週末。

 元々一ノ瀬さんと出かける予定にしていたため、スケジュールに出来た空白に手持ち無沙汰になってしまっ。

 実際は何もする気も起きなかったが、何かしていないと落ち着かないので、買い物でも済ますかと無理やりに体を動かして俺は外に出る。

 10月とは言えまだまだ暑い日があるが、少しづつ朝晩は涼しく感じる日が増えてきた。そろそろ衣替えをしないといけない時期になってきたため、いつものテーラーで言われるがまま秋冬物の背広を仕立ててもらった。

 店長は生地マニアで色々特徴を紹介してくれたりお勧めしてもらう。服には基本的に無頓着であまり関心のあるほうでない俺に対しても、まくしたてるような口調で延々と語ってくれる彼のことは結構気に入っていた。

 職人気質で善人っぽさがにじみ出ている彼はあまり利益とか考えてそうなタイプだろう。

 営業やっているとどうにも相手の魂胆が見透けてしまって、営業されるのは苦手なのだった。



 用事を手早く済ませた俺は駅に向かった。そこで見た光景に俺は愕然としてしまった。


 どんなに距離があろうと俺は彼女のことを見間違えたりはしない、そこには一ノ瀬さんともう一人若い男性の姿があった。


「後輩って男だったのか……」


 向こうはこちらには気づいていないようなのだった。何の後ろめたいこともないが何故か気まずくなってしまった俺は見つからないように身を隠した。

 明らかに不自然な行動をとった俺を行きかう人々には不審げに見てくるものもいた。

 気づかれないように細心の注意を払って、相手の男を観察した。


 若い、まず思ったのがそれだ。後輩だから当然か。そしてイケメンだ。雰囲気とか塩顔とかじゃない。テレビで見かける男性アイドルグループみたいな顔だ。

 小顔で身長も高く手足もスラリと長い。

 くたびれた中年にさしかかった自分と比べると雲泥の差だ。ろくすっぽ自分磨きをしてこなかった自分をぶん殴ってやりたい。


 さらに俺を落胆させたのは一緒にいる彼女の様子だった。

 見たことがない表情で笑い、時折ふざけたようにじゃれる彼女を見てこれが彼女の本来の姿なのかと思った。

 やっぱり俺といるときは気を使われていたのかな。


 俺はそれ以上二人の姿を見ていることは出来ず。情けなく家へと帰った。


 ◇


 その晩は彼女からメールがあって改めて動物園に行く日程を何日か提示された。俺は空いている日を返信して。2週間後に決まった。


 義理堅く優しい彼女の気持ちが今は辛かった。


 これはどう考えても負け戦だ。それでもどうしても彼女に未練を捨て切れない俺がいた。

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