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かみあわないふたり(1)

 10月最初の週の金曜日、今日は会社の歓迎会だった。転勤して来た人や研修が終わった新入社員、まだまだ見慣れない顔ぶれと親交を深めることができたら。


「センパイ、ラーメン食べましょうよ、ラーメン。塩が美味しいところあるんですよ」


 1次会が終わり各々が次の行き先を考えている中、後輩の三本松から声を掛けられた。

この子は無類のラーメン好きで、3食のうちかなりの確率でラーメンを食べている。特にこういった飲み会の後は確実にラーメン屋に行きたがる

 俺は毎回そんなこいつの嗜好の道連れになっていた。……中年にはラーメンは健康に響くんだ。

 とは言え俺も嫌いではないし、手早く食べて帰ることができるので断ることはしない。


「仕方ない。付き合ってやろう」


「なんか偉そうですねー。本当は行きたいくせに。あそこらへんは結構なお金を払って若いお姉ちゃんと飲むんですよ、それに比べてセンパイはリーズナブルにかわいらしい女の子と食事ができるんですよ。幸せを噛み締めた方がよいのでは?」


 そう行って彼女はこっそりと一団を指さした。俺は苦笑した。

毎度のことなのでまともに相手にしても疲れるだけだ。こいつはすぐ調子に乗るんだ。


「ニンニック、ヤサイ、アッブラマシマシー♪」


 謎の歌を口ずさみながら軽やかに歩く後輩。

……それ塩じゃないだろ。どこに行くかは分からないので後をついていく。


「先輩、遅いー。早く行かないと裏メニューのティラミスが売切れてしまう」


 そういって彼女は俺の腕をひっぱった。ついでに抱えて歩き出した。

振りほどこうにもがっちりとホールドされてしまい、まったく動かない。この小柄な体でどうやってこんな馬鹿力が生み出せるのか。俺の知ってる物理法則と違う原理が働いているんだろう。


 手を引かれるがまま歩いていると、前から見知った顔がこちらへ近づいてくる。こちらに気づくと目を丸くしてこちらに声をかけてくる。


「六本木さん?」


一ノ瀬さんだった。実は遠くからでも気づいていた。薄暗い中街灯に美しい顔が照らされるのに見惚れてしまう。


「こんばんは。もしかしてそっちも会社の歓迎会とかかな。……おいっお前いい加減にしろ」


 注意すると、さほど抵抗もなく手を離してくれる三本松。

ぶすっとした表情でこちらをにらんでいる。

万が一にでも一ノ瀬さんに誤解されたら困る。恐らく本当に1万分の1くらいの確率なのが悲しいところだが。

 面白そうにこちらを眺めた彼女は俺の質問に答える。


「ええ、そうなんですよ。私はもう帰ろうと思ってるんですけど、酔い覚ましに少し歩いてからにしようかなって」


「そっか、ちなみに俺たち今からラーメン食べるんだけどよかったら一緒にどう?」


 一瞬考えたかのような間があった後に、彼女は優しい口調でこう言った。


「同じ会社の方同士お話もあるでしょうし、私はご遠慮させていただきますね。でも、お誘いはありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきます」


 それでは、と言って足早にこの場を去っていく彼女。逆に気を使わせてしまったな。

ふと振り返るとすごい形相をした後輩の顔があった。


「お前どうしたんだ、面白い顔になってるぞ」


「別に……ティラミスなくなったら先輩のせいですからね」



 ◇



「瓶ビール1本、あグラスは二つね。あとメンマと餃子下さい。ラーメンはちょっと考えます」


「私ゆずしおー。麺固めで」


「んじゃ俺も同じのにしようかな、お願いします」


 ラーメン屋についた俺たちはとりあえず注文を済ませ、グラスにビールを注ぎ乾杯する。幸いにも店内はあまり混んでなかった。


「……先輩、さっきの人のこと好きでしょ」


 飲みかけたビールが気管に入ってむせてしまった。ちょっと唾がとんだのか嫌そうな顔をされた。


「ただの友達だよ」


 とぼける。例え態度で丸分かりだったとしてもこいつにだけは本当のことを明かすわけにはいかない。バレたら最後しばらくはからかわれるだろう。


「ふーん、ま、どっちでもいいですけどね。私には関係ないし」


 思い当たることはないが何か怒らせるようなことしたのだろうか、それからは不機嫌になり口数が少なくなってしまった後輩と淡々とラーメンを食べた。機嫌の浮き沈みが激しいやつなのでそれほど気にはならなかったが。


 ちなみにラーメンは結構うまかった。あと裏メニューのティラミスは一口だけもらったがかなり絶品だった。


帰る頃にはすっかり後輩の機嫌も直っていた。

腹減ってたのかな?


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