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勝負の決算月!(3)

 格好つけて二宮に大見得切ってしまった。ドラマの見すぎかな、と早々に後悔をし始める自分がいた。

 とは言え、何か対策しないとノルマ達成はもはや不可能だ。向こうと同じ手段は使えないし、やりたいとも思わない。

 ただあの腹立つ顔したおっさんにはなんとしてでも一泡吹かせてやりたい。ここでやり返しておかないと調子に乗って今後も同じことを繰り返すだろう。


 手段は選んでいられない状況だ。この際多少の犠牲は仕方がない。

 あと2年は楽できると思っていたんだけどな……


 一応勝ち筋のプランは決まったが、このままじゃ絵に描いた餅だ。時間もないし早速行動に取り掛からないといけない。


 とりあえず今日はやることが、明日から通常業務は滞るのが間違いないため、済ませられる用事は済ませておこう。



 ◇


 用事を済ませようといつものようにA病院医局前に向かう。するとそこにいたのは我が女神一ノ瀬さんであった。

 実はお盆中一緒に出かけて以来なので、久しぶりに一ノ瀬さんの姿を見かけたことで、荒んだ心が癒されるようだった。

 こちらの姿を見つけると、太陽のような笑顔で話しかけてくる。


「六本木さん、お久しぶりです。先日はお世話になりました」


「こちらこそ楽しかった。また年末タイミング合えば、期待してる。しっかし相変わらず暑いなー仕事する気なくすよ」


 いろんな意味で仕事のやる気をなくし、今奮い立っているところだが彼女に聞かせるような話でもないので触れないでおく。


「そうですね、本当に早く涼しくなってほしいですね。ところでこの前新聞屋さんにこんなものをもらってしまいまして……」


 そう言って彼女が差し出してきたのは動物園のチケットだった。よっぽど獰猛な動物でない限り園内にほぼ放し飼いにされているということで最近話題になっているところだ。


「あれこれ新しく出来たところかな。気前いいな」


「そうなんですよ、サービスしてもらっちゃいました」


 おどけるように話す彼女。美人だけどどこか愛嬌がありいろんな一面を見せてくれる彼女は本当に魅力的な女性だと思った。しかし新聞なんてとるんだな、俺も勤め始めたばかりのころはインテリぶって日経新聞取っていたが、ほとんど読まずに宅急便の梱包に使うくらいしか使い道がなかったのですぐやめた。まさかとは思うが……


「そういえば一ノ瀬さん新聞なんてとるんだ。真面目だね。俺ろくすっぽ読まないからとるのやめちゃったよ」


「実は勧誘の方がどうしてもというので……」


 そのパターンがあったか。一ノ瀬さん人がいいからなあ頼まれたら断れないんだろう。


「何部契約したの?」


「あ……いや……実は二部ほど」


 道理でちょっと高額な動物園のチケットを2枚もらえるわけだ。彼女押しに結構弱いのかな。俺も押したらいけるか?

 いやいや待て新聞と付き合う人は違うだろ!都合よく考えすぎだ。


「ははは……私頼まれると断れなくて。私一緒に行くような友達もいないので。もしよかったらどうですか?六本木さんには何かお返ししたいと思っていて」


「いいの?ちょっと気になってはいたんだよね。それでいつ行く?今月忙しいから来月にしようか?」


「え?」


 驚いたような表情をする一ノ瀬さん。俺なにかおかしいこと言った?



「あの、その、二枚とも差し上げますよ、という意味だったんですが……」



 ちょっと恥ずかしそうにする一ノ瀬さん。俺も恥ずかしい。てっきり誘われていると思ってしまった。自意識過剰だろ。穴があったら入りたい。


「そうだったの、動物園嫌い?」


 何事もなかったかのように返事をする俺。えらいぞ。


「いや嫌いじゃないんですけど、誰かと行くかな、と思って」


「特に一緒に行きたい相手もいないなー、もしよかったら付き合ってもらってもいい?俺も興味あったんだ」


 誘われているのが一転して誘ってみた。嫌いじゃないということだし不自然じゃないだろう。


「そういうことでしたら是非。私も興味あったんですよー」


 無事交渉成立。その後はお互い好きな動物の話などして盛り上がった。めちゃくちゃ意外だったのが一ノ瀬さんは爬虫類が結構好きで、ちっちゃいトカゲみたいなやつとかヘビとかの魅力を語ってくれた。


 この時間が永遠に続けばいいのに。彼女と話しているといつもそう思う。今日は久しぶり話したのもあって、モヤモヤしていた気分がいっぺんに吹き飛んだ気がした。


 しかし幸せ気分はいつまでも続かない。一気に俺を不快にさせる人物が登場した。


 二宮とその上司だ。なぜか俺の近くに来る。不愉快極まりない表情で馴れ馴れしく話しかけてくる


「島村さんですか、いつもうちの二宮がお世話になってます」


 どうも、と不機嫌そうな態度を隠さず答えたところ。


「うちもこのエリアは大分苦戦してましてな。まあ一番の競合がこんな優秀な方じゃあしょうがない。これからも誠実にがんばりますので一緒にこの地域に貢献していきたいと思っていますので、ひとつお手柔らかに」


 よくもまあこんなことが言えたもんだ。適当に返事をしたらアポイントがあるとのことですぐその場を去って言った。普段きっつい目つきでいつもいる二宮もこの時ばかりは少しこちらに申し訳なさそうにしていたのが印象的だった。


「なんか感じ悪かったですね」


「そうだね、まあ会社同士の関係性考えれば仕方ないかもね」


 向こうは一矢むくいたとでも思っているんだろう。


 見てろよ、俺を怒らせたこと絶対後悔させてやるから。


 そうケツイした。明日からは忙しくなるぞ。

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