表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/52

勝負の決算月!(2)

 異変は9月に入ってから訪れた。


 月曜日の朝会社で事務処理をしていたところ電話がかかって来た。


「月曜の朝から珍しいな、ああ卸さんからか」


『六本木さん、大変。A病院のガンマグロブリン全部返品来とるで。100万以上あるわ。なんかあったんか?』


一瞬言葉を失ってしまった。


「マジすか、定期の人に何かあったのかな。至急確認しますけど何か追加で情報聞けたら教えてください」


 用件のみ手短に済ませて電話を切る。予定ではその数量は来週あたりには使われるはずだったものだ。正直かなり嫌な予感がした。いくつかの可能性が考えられるが仮説に過ぎない。なんとなく俺の勘では多分最悪の事態に近いのではないだろうか。

 考えをめぐらせていたところで所長に声をかけられる。


「六本木君、調子どう、今期もいけそう?結構きつかったけど目処たってきたんじゃない。頼むよー」


 あまりにも気楽な様子に若干の苛立ちを覚えつつ、どうせ報告しないといけないし、すぐにでも会社を出たい。端的に事実だけを伝える。


「すんません、今やばくなりました。A病院のガンマグロブリン多分飛んでます。在庫分全て返品されました。すぐ確認行ってきますので、また連絡します」


 それを聞いて唖然とした表情になった所長を放置してすぐを出てA病院に向かった。


 ◇


 A病院に向かった俺は薬剤部長室へと向かった。先客がいるのか中から話声が少し聞こえる。少し待って出てきたのは二宮と上司らしき男性であった。去り際に大きくお礼をしている姿が見られた。二宮は少し沈んだ表情でこちらに会釈してきた。どこか違和感を感じたのは一緒にいた上司は機嫌がよさそうだったからか。

 すぐに部屋のドアをノックして返事を待って入室し、挨拶もそこそこに本題を切り出す。


「先生、弊社のガンマグロブリンが返品されておりましたが何か不具合でもありましたか?」


「あーごめん、聞かれると思った。申し訳ないんだけど他のやつに切り替えることになったから、もう六本木さんのやつは使わないので返品させてもらいました」


 回答があったのは想定される最も最悪でかつ可能性は高いだろうと読んでいたものだった。一応最低限状況だけは確認したいので続けた尋ねた。


「差し支えなければ理由を伺ってもよろしいですか。僕も会社には一応報告しないといけないもんで……」


「他の製品の方が使い勝手良さそうなんでね。前からそういう意見もあって、切り替えで決まってしまいました。すまないね」


 少し歯切れ悪くそう話された。

 その後電話をしようと病院を出たところで卸さんから電話が掛かってきた。


『六本木さん、もう聞いとるかもしれんけどガンマグロブリンは切り替えな。見積もり来てたわ』


「みたいですね。今聞きました。とりあえずうちのと価格合わせて見積もり出せます?」


『一応それで出すつもりやけど、多分落ちんやろうなあ』


 手に届くところまで来ていた、上半期の達成終了が絶望的になった瞬間だった。



 ◇


 さっさと会社に帰って対策を立てたい。だがそんな中今一番会いたくないやつを見つけてしまった。


 二宮だ。……なんですぐ帰んないんだよ。こちらの存在に気づいた彼女からの強い視線を感じる。明らかに何か言いたさそうな顔をしているが、あまり相手をする気分じゃない。

 そばを通り過ぎようとしたときに、殴りつけるような口調が聞こえた。


「……なんでそんなヘラヘラしていられるんですか。言ったらいいじゃないですか、汚い真似するなって!」


「いや……まあ仕事だし。よくあることだろ。別に犯罪じゃないし。一見悪徳に見えてただ仕事してるだけってやつじゃないか」


「ふざけないでください」


「悪い」


 なんで俺謝ってるの?俺どちらかというと被害者だよね……この子怖い。

 こいつもこいつで納得してないんだろう。何年かこいつの仕事見ているがこういう品のない仕事の仕方は嫌っていた感じがした。根は真面目なんだろう。

 ……大方あの上司の指示だろうな。


「そういやお前抗がん剤って担当?」


 不思議そうな表情を浮かべる彼女。しかし躊躇することもなくはっきりと答えた。


「うちに抗がん剤なんてまともに取り扱いないですよ。大昔の製品は営業所評価だけなんで私には関係ないです」


「そっか、ありがとな。んじゃお疲れさん」


 立ちすくむ彼女に一言付け加えた。


「一応言っておく、俺は汚い商売は嫌いだ。ただ俺はお前のせいだとは思っていない、上司に言っておけ、覚悟しとけよ、ってな」


 そう言い残し俺はその場を立ち去った。


 やられたらやり返す、倍返しだ。

 ―――妹よ、俺の方に先にチャンスが巡ってきたみたいだな


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ