ベルフェゴールの欠陥システム
次に目が覚めた時、知らないベッドで寝かされていた。
「知らない天井だ……」
狙って言ったわけではなく、自然とその言葉が出てきていた。何度もアニメを見返したせいだろう。
ゆっくりと上半身を起こして辺りを見渡す。どこかの家の一室だろうか。テーブルの上の蝋燭に明かりが灯っており、窓から見える外の景色は真っ暗で夜になっているようだった。
「俺、なんでこんなところで寝てるんだっけ? ダブラスを倒してそれから……」
ダブラスを倒した後、緊張の糸が解け、疲労感から意識が飛んでいたことを思い出した。
「人を……殺したんだよな」
人を斬った感触、銃を人に向けて撃った感覚がじんわりと覚えている。
その時、ポケットに入れていた携帯が震えた。
「……はい、本郷ですけど」
「良かったわね、ちゃんと生き残ったみたいじゃない」
「知ってたんですか? それにしても、この力デメリットが大きすぎませんかね。確率で死ぬのに手に入れてもすごい強くなるわけじゃないんですけど……」
「アンタはあくまでも普通の人なのよ? いきなりそんなに強くなれるならアンタ以外の人間だって戦えちゃうでしょ。ステータスの画面、見られるわよね?」
ベルフェゴールに言われた通りステータスと表示されていた画面を出す。
そういえばこの世界に来てから急に爆発を目撃し、戦闘に巻き込まれてから何も確認をしていなかった。
ステータス画面には【知識】【度胸】【技量】【才能】【魅力】の5つに分かれており、知識だけメーターが振り切っていた。そして知識以外に関してはほぼ0に近い。
某野球育成ゲームでいえば知識がSランクでそれ以外はGランクのようなものだった。
「初期値のパラメーターを全部知識に振り分けた縛りゲーみたいなんですけど……」
「それが今のアンタの実力ってこと。知識だけあっても度胸も才能もない人間が本来の力を出せるはずがないってわけよ。それでもさっきの戦闘で少しは成長したのよ。最初は知識以外は0だったからね」
「ちなみに何をやったらステータスは上がるんですか?」
「さぁ? 練習したらあがるんじゃない? それでも最初に説明した通り毛が生えた程度にしか成長しないはずよ」
恐らく、勇者や賢者がオールSかオールAぐらいになるのだとしたら、Dランク位までしか成長しない、ということなのだろう。それでも、練習して経験を積めばステータスも上がり、多少なりスキルも強化される。
「町を救うって人道的なこともしたし、私から特別報酬も入れておいたから確認するのよ」
「ちょっと! 逃げ出さなくても自決が勝手に働くのは止めてもらえないですかね!」
「必要がなければ発動するはずないわ。システムが動くってことはアンタにとって通らなければいけない事柄ってことなんでしょうね」
「強制戦闘の連続なんて、たまったもんじゃないんですが……」
「それでも、アンタは生き残った。これからも精進しなさい」
ブツッと一方的に電話が切られた。
相変わらずの適当な説明に本郷は大きなため息をついた。
スキルは死が伴うギャンブルだし、習得しても本来の力は出ない。そのために自分を成長させたとしても凡人からちょっと強くなるぐらいまでにしかならない。
とんでもなく欠陥のシステムであった。
そして、逃げ出したい場面において逃げてはいけない場合には自決システムが発動する。メリットよりもデメリットの方がはるかに大きい。
どこぞの生存本能に反応する戦闘システムが自分に戦いを強要しているんじゃなかろうかと思う。
課題だけが増していったが、今はとにかく休みたいと体が願っていた。
本郷は考えるのを止め、もう一度ベッドに横になるとすぐに眠気がやってきた。
「あ、この感じ。会社で徹夜明けに仮眠室で寝るときの感覚だ……」
上司に振り回される部下は辛い。現実も神の世界もそれは変わらないようである。
本郷は恨み言の様に文句を垂れながら眠りについた。