町の中心で愛を叫ぶオカマ【2】
森で1人、街中で5敵を倒すことに成功した。後は人質の近くにいるリーダー格の男と他の3人だ。
「いいかタイチ、ここから先は正直私にも上手くいくか分からん。お前さんの銃の腕次第だ」
「これが初めての実戦なんだけどな……」
スキルは習得してあるが、発砲の経験もなければ、ステータスもない状態の攻撃がどこまで相手に通用するのだろうか。
「使い方は分かるんだろ? 後は体のどこかに当たりさえすればいい」
「当たりさえって簡単に言ってくれるよな……」
本郷は短剣の血を相手の死体で拭き取った後をしまうと裏口に置いたままにしておいた銃をとりに戻った。ボルトアクションなんてお祭りの射的のおもちゃぐらいでしか触ったことはない。
それでも持った瞬間にどうすれば撃つことが出来るのかはハッキリと理解できる。
スキルの力で使い方や仕組みは自動的に理解できる。だが、理解が出来てもちゃんと使えるかは別の話である。
銃を取りに行ったあと、コブスの作戦の説明を受ける。
本郷はコブスの指示に従い、最初敵の人数を数えた繁みまで戻る。その間にコブスが本郷のいる地点から敵を挟んで反対側に回り込む。
それを本郷が確認したら、まずダブラスに銃を撃つ。1発で仕留められるが一番いいがまずは当てることを優先にするようにとの指示だった。
「敵は全員銃声に驚き、ダブラスに弾が当たれば他の3人も当然動揺しタイチの方向を見るはずだ」
その隙にコブスが一番近い敵を1人倒し、ジェリドの縄を切って開放する。その間にすぐに次の弾丸を装填しろと続けて指示を出した。
「ジェリドも私と同じであれでも元軍人だ。私が助ければ意図を汲み取ってすぐに戦うはずだ」
「そんな上手くいきますかねぇ……?」
「失敗すれば死んで終わるだけだ。死にたくないから手伝えといったのはそっちだろう? 最後までしっかり責任とれよ」
「分かってるよ。そいじゃ、行きますか」
コブスと分かれ町の中をぐるりと回り指示された繁みまで戻る。
本郷はもう一度、銃に弾が込められているか、予備の弾薬はすぐに取り出せるか確認を行った。
『大丈夫。一発で仕留めようと思うな。まずは当てればいい……!』
心の中で自分を鼓舞する。そしてフーッと一息ついて人質の方を見る。
物陰からコブスがちらりと顔を覗かせ、小さく頷いた。それが作戦行動の合図だった。
ゆっくりと銃を構え、備え付きの照準を覗くように方向をダブラスの体に合わる。
最初に頭を狙おうと思ったが外れた時のことを考え、体の中央に再度狙いをさだめて息を止める。
引き金を引くとパンッという軽い音が響いた。初めて銃を撃ったせいか本郷は一瞬目を閉じてしまった。急いで目を開いたときにはダブラスが馬から落ち、左足を抱えるようにして地面に倒れ込んでんでいたので、胴体ではなく足に当たったようだ。
「あいつ、やはり銃の腕前も素人か!」
鳴り響いた銃声とともに、コブスの予想通り全員が本郷の方向へ向いていた。
その隙に物陰から飛び出したコブスが自分から一番近い兵士に切りかかり、左肩から斜めに剣を振り下ろした。
ズシャっと肉が切られる音がして、その兵士が倒れるよりも先にジェリドの縄を切り自由を確保していた。ものの数秒の出来事であった。
「クソ! やっぱり知識だけじゃ上手くいかないのか……!」
本郷は次の弾丸を込めようとするが経験のなさがスキルに影響しているせいで、やり方分かっているのに弾丸が上手くチャンバーに入らなかった。
本郷の装填の遅さからコブスの強襲気が付いた残りの2人が態勢を整えてしまった。
作戦失敗、間に合わなかったのだ。
「ジェリド! やれ!」
本郷の装填が間に合わないのも計算に入れていたのだろう。
コブスの声に素早く反応したジェリドは近くの兵士の顔を片手で鷲掴みにするとそのまま持ち上げる。持ち上げられた兵士も、もがきながらもなんとか反撃しようと剣を振り回していた。
空いているもう片方の腕をジェリドが掴むと、人体の角度から考えられないほうへ曲げられ、剣が兵士の手から滑り落ちていった。
「クソ、このオカマ野郎がぁぁ!!」
「言ったなこのクソ野郎が!」
その言葉がいけなかったのだろう。激高したジェリドは兵士の顔面を鷲掴みにしたまま、思い切り地面へと叩きつけると男は動かなくなった。
最後の1人になった男は仲間2人を目の前で倒され、興奮と錯乱から地面に敵を叩きつけている状態のジェリドに向かって剣を振り上げたまま突撃を仕掛けた。
「戦場で、前しか見てないやつは死ぬもんだぞ」
突撃を仕掛けていた男の手首から先が無くなった。男の動きに合わせ、剣がジェリドに当たるよりも早くコブスが切り落としたのだ。
「あれ……俺の腕……!」
腕を切り落とされた男が見た最後は空の光景だった。コブスは腕を切るために振り下ろされた剣の軌道を変え、男の首も斬り飛ばしていた。
「悪く思うな、先にやったのはあんたらだ」
「やだもぅコーちゃん格好いい! 濡れちゃうわ!」
本郷は戸惑いと驚きを同時に感じていた。
2人の異常な攻撃の速さもあるが、やはり彼、いや、彼女の男を片手で持ち上げ、地面に叩きつけるその腕力。あれは敵にしてはいけないタイプだと感じた。
2人の動きには無駄がなかった。それと比べ銃はまともに当たらず、装填まで時間がかかり何の役にも立たず足を引っ張ってばかりだったことに正直に悔しいと感じ、何とかなると思っていたこの力もほとんど役に立っていないことに後ろ髪をひかれる思いだった。
「タイチ、よけろ!」
突然、コブスが本郷に向かって大声で叫んだ。その言葉に一瞬何があったのか分からなかったが、コブス達がいた方向から馬がこちらに向かって猛スピードで迫っていた。
撃たれて倒れていたはずのダブラスがいつの間にか乗り込んでいたのだ。
「クソ! 当たれぇっ!」
とっさに銃を構え引き金を引く。
「お前だけでも死ねぇぇぇ!」
本郷とダブラス、2人の声が重なっていた。
馬が駆ける音と1発の銃声が響いたのちに、辺りが静けさを取り戻すしていく。
こちらに真っすぐと駆けていた馬は途端にゆっくりと歩くようなスピードになり、銃を構えたまま硬直している本郷の横を通り過ぎていき、最後には止まった。
「おいタイチ、大丈夫か!?」
コブスが駆け寄ってきて目の前で手を上下に振り、本郷の意識がハッキリしているか確認した。
ハッと我に返った本郷は額から汗が噴き出るように垂れていたので、それを袖で拭うと今度は返り血で顔が赤く染まっていた。
「あいつは……! ダブラスはどうなった!」
本郷はコブスにどうなったのか状況を聞き出そうとした。コブスはゆっくりと止まった馬の上に座ったまま動かないダブラスの顔を覗き込む。その顔は片目が無くなっており、頭から血が流れだしていた。
「よくもあの状況で当たったもんだ。運はお前さんを見放していなかったな」
こちらに顔を向け、コブスが二カッと笑う。本郷もその表情にやっと終わったのだと理解し、その場で腰を抜かして尻もちをついた。
「うぉ――! 生き残った! 生き残ったぞー!!」
空を見上げて大声で叫ぶ。町の方ではジェリドが掴まっていた人たちを開放し、歓喜の声が上がっていた。服を剥がれた少女も周りから布を渡されて安心したのか泣いていたようであった。
『愛の勝利よー!うぉぉぉー!!』
『『おぉー!!』』
歓喜の声の中に一際野太い声が混じっている。
「ヤバい、なんかドッと疲れたのか意識が……」
緊張の糸が切れたのか急に体中の力が抜けていき、意識が朦朧としてきた。
「タイチ!」
コブスが声を掛けたことは分かったが、視界がブラックアウトしていた。