帰るべき世界のために
本郷はその強さに正直怖いという感情を抱いた。
さっきから自決システムが何度も発動しては消える動作を繰り返している。
「私が行きます! 接近戦でないのなら……!」
銃を構え相手の頭を撃ち抜くように引いた。
飛び出した弾丸は目に見えない速度で飛翔する。
しかし、それもロイザーに当たることはなかった。
「うそっ……!? なんで……!?」
「簡単な答えだ。当たらないのは切ったまで」
ロイザーに弾丸が当たる前に銃弾を見えない速度で斬っただけであった。
「お前も召喚者との戦いには邪魔だ……!」
ブンッと剣を振るうと、アイネの身体が衝撃波で吹き飛ばされ、廊下の壁にぶつかる様にして落ちていった。
「さて、いささか物足りなさはあるが、君が一番弱そうだ」
「こんなにも勝てないなって感じたのも初めてだよ……」
「そう困ることもない。私が強すぎて、君が弱すぎただけだ。恨むなら選んだ神を恨むんだな」
もうすでにベルフェゴールには恨んでいるんだよなと、心の中で思っていた。
「せめてさ、殺すなら心臓を一撃で頼みたいんだけど……」
「なんだ? 潔く死を選ぶのかお前は……?
「戦って勝てるか分かんないし、それに痛いのは嫌なんでね」
「良いだろう。一撃で貴様を殺してやろう」
今の自分では正直勝ち目がないと思う。それでも、本郷には一つだけ心当たりがあった。
(もしあの時に取ったスキルがベルフェゴールの適当なスキルなら……)
ロイザーが剣を真っすぐに構えた。
こちらの心臓を射抜こうとしているのが分かる。
そして、こちらに向かって突進してくる。目にも止まらない速さだった。
それでも、相手を止めることができるなら、勝てるかもしれない。本郷はそう考えていた。
「はぁぁぁぁ!」
ロイザーは間違いなく、確実に本郷の心臓を貫いた、はずだった。
しかし、剣は体に突き刺さったまま貫通にしない。
「なぜだ!?」
「うちの神様は俺の力を適当に作ったもんでね!!」
可能性があるわけではなかった。
それでも【鋼の心臓】のスキルをベルフェゴールなら取り違えているのではないか? と考えていた。そして思った通り、剣は鋼の硬さに負け、突き立っただけで貫通するまでに至らなかった。
そして、アイテムボックスから本郷は太刀を取り出して、驚いて動きの鈍っていたロイザーの胸にその切っ先を突き刺した。
ロイザーの身体が本郷から離れる。
「心臓は貫いてないけどやっぱり刺されると超痛い……」
血が流れる左胸の痛みに耐えながら、銃をアイテムボックスから取り出した。
心臓を突き刺したはずのロイザーが、未だ立ったままであったからだ。
「悪いけど、これで終わりだ!」
装填されていたが射出され、ロイザーの身体を貫いていく。
当たった衝撃で身体を右に左に振られながらも倒れない。
執念から来るものだったのだろう。
口元は笑ったままだった。
「まだだ! この程度では死なんぞ!」
「マジかよ……」
全弾撃ちこんだのに未だ立ったままのロイザーに驚いた。
そして予備のマガジンを装填し、更にロイザーの身体を撃ち貫いていく。
「私は……」
最後にそう言ったロイザーの身体が力が抜けたように倒れていった。
「なんで勇者がこんな魔王になったのかなんて考えたくもないな。あぁクソ! 刺さったところが超痛い! 死ぬんじゃないかこれ!?」
血が止まらない左胸を抑えながら本郷は膝をついた。そして傷口を確認しようとしたときに、お腹と左ももになかったはずの紋章が入っていることに気が付いた。
ロイザーが持っていたものと、奪って持っていた紋章であろう。
「終わった……んだよな?」
「タイチさん……大丈夫ですか……」
「痛いけど、大丈夫。アイネも問題ないか」
「はい、私のケガはあまり、コブスさんにジェリーさんも血がすごいですけど生きてますよ」
遠くで親指を立てている二人の姿を見た。
「良かった。全員生きてるな」
その姿を見てほっとした。
「タイチさん! 身体が!?」
「うぉ!?」
本郷の身体が光に包まれ、少しずつ透けてきていた。
「ごめんアイネ。多分神様の所に戻されるっぽいわ」
「そんな! まだ3人の子供の予定だって残ってるんですよ!!」
「それ、マジだったのか……。まぁいいか、ノエル少佐とリリアにもよろしく伝えておいてほしい。まだガムルスも全部終わったわけじゃないし、大変なのはこれからだろうから」
「嫌です! こんな形でお別れなんて!」
アイネの瞳から大粒の涙がポロポロと溢れだしていた。
「俺もこんな形で戻されるとは思ってなかったからなぁ……。せめてお別れの時間ぐらいくれてもいいもんだと思うんだけどね……」
ギュッとアイネを抱き寄せた。
「こんなにモテたのは生まれて初めてかもしれないな。ありがとう。俺も好きだ」
それが、本郷の最後の言葉だった。
光が少しづつ濃くなり、塵のように崩れ去って、消えた。




