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アデン決戦【3】

 前線から本郷たちは少しずつ移動を開始していた。

 まだ動いている敵や、逃走を始めた敵も残っているため、確認しつつ移動する必要があった。


 砲撃を行っていた兵士なども通常の武器に持ち変えて前進を開始している。


「動いている奴がいるかもしれない! 十分に注意しろ!」


 後ろでノエルが号令を出していた。

 本郷たちも周囲を警戒しながら進んでいく。


「それにしても酷いぐらいの威力だな……」

「やだ、腕だけ踏んじゃったわ……」


 本郷たちの背後を歩くコブスとジェリドもその状況の悲惨さに戸惑いがあるようだった。

 それぐらいガムルスは一方的な攻撃を行ったということだった。


「タイチさんは大丈夫ですか?」

「あぁ、直視しないようにはしてるよ。臭いだけでも結構きついからアイネも気をつけろよ」


 状況もさることながら臭いも強烈だった。人と魔獣が焼ける匂いが充満していた。


 戦闘を進む部隊が時折左右に発砲を行っている。

 息がある者が残っているのだろう。あまり想像もしたくない。


「逃げるやつは放っておけよ! 弾の無駄だ!」


 戦闘部隊に声を掛けると返事はなかったが手をあげて返事をしていた。

 普通の兵士もこの状況に多少なり恐怖していたのだろう。


 そんな戦場を眺めながら一行はアデン砦に到着した。

 ゆっくりと突入する部隊の一人が報告をあげてくる。


「変です。誰もいません」

「全員逃げ出したってことか?」

「かもしれません」

「数人ずつに分かれて各部屋の捜索に当たってくれ」


 本郷が指示を出すと、部隊が2~3人に分かれて各通路へ散らばっていった。


「タイチ、俺たちは上の階、指令室を目指そう。恐らくまだいるのであればそこだ」

「もう逃げてたりってことはないのかな?」

「それはないんじゃないかしら。ここに入ってから上の方からビンビン殺気を感じるのよね」

「マジかぁ。絶対強いだろうなぁ……」


 本郷の足取りも重く、一歩ずつ階段を登っていく。

 二階を後続の部隊に任せ三階へ向かう。


「待て」


 コブスが手で行く手を遮るように指示を出す。


「何があったか分からんが血の匂いだ。それも一人二人って数じゃないな」


 歩調を更に落としながら三階を進んでいく。

 そして、ある一室の前に辿りついた。


「ここだ。間違いない」

「久しぶりに超ヤバいって身体が感じるわね……」


 こんなにも不安そうな顔をしている二人を見るのは初めてかもしれなかった。


『そんなところに立っていないで入ってこい』


 中から急に言葉が飛んできて一同は驚き後ろずさる。

 しかし、攻撃は飛んでこない。

 恐る恐る扉を開けると、男が一人窓の外を眺めたまま背を向けている。

 そして部屋の中には、沢山の死体がおびただしい血を流しながら倒れていた。


「うっ……」


 その光景の酷さにアイネが嗚咽している。

 バラバラで、身体の中身が飛び出した死体など、直視できないのだろう。


「なんだ、私を倒しに来たのはたった四人か。まぁいい。私もかつては四人パーティだったからな」

「俺は本郷、本郷太一だ。アンタがスウェーバルの召喚者か!」

「ロイザー・ブラッドマン。かつては勇者と呼ばれたものだよ。今では君と同じで魔王なんて呼ばれるぐらいには恐ろしい男だと思われているみたいだけどね」


 ロイザーは笑いながら本郷の方を向いた。


「おや、もっと屈強な人間だと思っていたが案外普通な奴なんだな」

「そりゃどうも、こっちは勇者でも賢者でもなくサラリーマンだったものでね」

「サラリーマン……。私とは違う世界から呼ばれたものか」

「そうなるな。俺の世界には勇者なんか存在しないからな」


 再度、ロイザーは窓の外を見る。


「あの攻撃はお前の世界の兵器か?」

「そうだよ。多少の違いはあるだろうけど、俺が発案してガムルスが作ったものだ」

「素晴らしい威力だな。これさえあれば私も楽に戦えただろうに……」


 元いた世界での魔王との戦いを振り返っているようだった。


「さて、それでも私は自分の夢を叶えるために戦わないといけないんだ。君には申し訳ないけど、大人しく紋章を渡す気はないか?

「ないね……。俺も自分のいた世界に帰りたいんで」

「そうか。では殺し合おう。そうでしか解決の道はない!」


 急な威圧感が本郷たちに襲い掛かる。

 コブスとも、ノエルとも違う。もっと重みを感じるものだった。


「こりゃ不味いな。久しぶりに勝てる気がしないぞ」

「コーちゃんも思う? こんな感じ、本当に久しぶりよね」

「あぁ。でもやるしかない……。行くぞ!」


 コブスとジェリドが走り出し、一斉に攻撃を仕掛けた。

 確実に相手を一撃で殺すべく渾身の剣と、確実に破壊するための拳を繰り出していた。


「「!?」」


 そして二人は驚いた。間違いなく殺そうとしていた攻撃をこちらを見ることなく持っていた剣と、拳で防がれている。


「そこそこ強いな。それでも、もっと殺そうという気持ちが足りない」


 ロイザーはそういうと、二人を吹き飛ばすと同時に剣戟を繰り出した。

 血しぶきをあげながら壁まで吹き飛ばされ激突し、倒れ込んでいく。


「簡単に殺しはしない。もっと俺を楽しませてくれないと……」


 不敵に笑うロイザーが剣を本郷に向けていた。








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