アデン決戦【2】
日がすっかり昇り、身体にも日の光が当たり温かさすら感じている。
遠くで鳴く鳥たちの囀りさえもハッキリ聞こえるほどの静寂さ。
ガムルス軍とスウェーバル軍の睨み合いが続いていた。
しかし、前方に地雷を設置しているため、本郷たちは絶対にこちらから動かないと決定していたのだ。
いつ始まるか誰にも分からない戦闘だったが、罠が仕掛けてあるということから、ガムルス軍は暴走して突撃をするような者はいなかったのである。
それでも、数百体は超えているであろう魔獣の列に兵士たちは恐れおののいていた
そして、痺れを切らしたスウェーバル軍から轟くような雄叫びが響く。
『グォォォォ!!』
待ちきれなかった魔獣の一体が進みだし、それに追随するように軍全体が一斉に動き始めたのであった。
「まだだ! まだ動くな!」
一気に高まった緊張感を抑えつけるようにノエルが大声で指示を出している。
乾いた地面を蹴るように進む魔獣と兵士達が大きな土煙を上げながらこちらに突き進む。
ズシンズシンと微弱に伝わる振動に誰もが恐怖した。
アレがこちらに到達しまったら絶対に助からないと本能的に理解できるからだ。
本郷も兵士たちと同じような感覚だった。
小さくて手のひらサイズみたいだった魔獣が、まるで画面をズームするかのように少しずつ、そして確実に大きい生き物だということを無理やり教えられる。
スウェーバル軍が、こちらとの距離を半分ほど詰めてきた。
物見台にいたノエルの目がカッと見開き、声を発した。
「今だ! 発破しろ!」
その声を聞いた塹壕の兵士達が地面に埋められたケーブルに繋がるように設置された小さな箱型発破装置のTの字に作られたスイッチを一斉に押し込んだ。
『ズドドドドドド……!』
地面が大きく揺れてまるで地震が起きたような感覚だった。
一斉に発破された地雷が、地面を大きくえぐる様に爆発し、まるで目の前に土と煙の壁を作り出したようだった。
その衝撃と揺れに、ガムルス兵士達もこの光景に手が止まる。
「止まるな! 砲撃始め!」「撃ちまくるのよ! 止まるんじゃねぇぞ!」
しかし。これだけの爆発にも関わらずコブスとジェリドは間髪入れずに指示を出していた。
我に返った兵士達が一斉に徹甲榴弾を土煙と黒煙が立ち込め、姿が見えない的に向かって砲撃を始める。
その一発が四足歩行の大型の右足に魔獣に突き刺さる。
『ガァ!』とくぐもった声を魔獣が発するが、この砲弾の威力は貫通力だけではない。
着弾と同時に遅延信管が作動する仕組み。
突き刺さってから数秒後、刺さっていた砲弾が爆発し、魔獣の右足を吹き飛ばした。
体のバランスを崩した魔獣は周りにいた兵士を身体で潰しながら倒れ込んでいく。
そして徹甲榴弾以外の榴弾、焼夷弾を次々と打ち込んでいく。
相手は魔獣だけではない。周りにも無数の兵士がいるのだ。
次々と上がる爆炎と黒煙の間から、当たらなかったかダメージが軽微な魔獣と兵士が咆哮をあげながら突破しようとしていた。
「次だ! 撃ち方始めぇ!」
その姿をリリアは見逃していなかった。即座に大砲の前方に設置されていた機関銃部隊と、通常の射撃部隊へ指示を送る。
『ガガガガガガガガ!』
『パパパパパパ!』
機関銃の重厚な音と、兵士が撃つ銃の軽い音が交じりながら弾丸を飛び出させていく。
目に見えない速度で飛び交う弾丸が突き進むスウェーバル軍を飲み込んでいった。
兵士はその場に倒れ、魔獣も前のめりに倒れ込んでいく。
ベルト式の弾薬が次々と機関銃へと吸い込まれる様に消耗している。
そして次の弾薬を急いでセットしようとガムルス軍も焦りがでて、弾幕が薄まってくると後ろに続く部隊が少しずつ全身を再開していた。
「急ぎ過ぎるな! 確実にセットしろ!」
ノエルが物見台から動きの鈍い兵士へ活を入れている。
その後方、数台の物見櫓に配置されていたアイネが率いる狙撃部隊が攻撃を開始する。
「狙いは敵の魔獣と敵の将兵だけで構いません! それ以外は他の部隊に任せます! 特に魔獣は頭を狙うように! 撃てぇ!」
全員がスコープ越しに拡大された魔獣の額や、他の兵士と比べて違う服を着ている兵士を将校と判断し、的確に撃ち抜いていった。
「このまま押し切れるか!?」
味方に交じり射撃を続ける本郷は次々と掃射を続けていた。
これまでの戦いを決定的に返る戦いとなった。
敵味方入り混じりながら消耗を繰り返す戦いから離れた距離で強力な力を用いて制圧する近代的な戦い方を今のガムルスは行っていたのだ。
国同士の戦争は数時間で片付いてしまうほどだった。
こちらの被害は飛んできた破片で怪我をした者か飛び散った薬莢で軽い火傷をした程度。
一方、こちらを滅ぼさんと向かってきていたスウェーバル軍は、殆どが原型を留めないほどの形の何かと、抉れた地面に溜まった大量の血で出来た水溜りと化していた。
そして本郷は足を前に踏み出す。
アデン砦にいるであろう最後の召喚者と対峙するために。




