アデン、最後の地にて
アデン砦を何とも言えない表情でコブスとジェリドが眺めていた。
「不思議な感覚だな。まさかこんな形でここに戻ってくるとは思わなかった」
「そうね。二度と来たくないと思っていた場所なのに、今はやる気でいっぱいよ♪」
「これも全部タイチのせいだな。私たちは悪くない」
「そういうことにしておきましょ」
「いやいや、俺は途中で抜けてもいいって間違いなく言ったからな!!」
せっせとアイテムボックスから荷物を取り出しながら本郷は文句を言った。
「あーもう、次はどれ出せばいいんだっけ。大砲か? 機関銃か?」
指示されたアイテムを取り出しては運んでもらい、取り出しては運んでもらいを繰り返す。
「タイチさん。食料の箱を出してもらえますか」
「えっと、これだっけ?」
野菜や肉の詰まった箱を取り出した。
アイネがそれを周りに指示して運ばせていくと、ゆっくりと耳打ちをしてきた。
「3人の予定ですから……。頑張りましょうね」
「ちょ、おい待て!」
こちらの制止も聞かずにご機嫌に鼻歌を交えながら歩いていった。
『最近ノエルとリリアに似てきたんじゃないか……。あんなのが続いたら身が持たん……』
作業する手を止めることなく頭の中で思考を続けてみたが、魔法が防げない時点で勝算がないという結論に辿りついて、それ以上考えるのを止めることにした。
着々と作業は進み、アイテムボックスに詰め込んだ銃や弾薬を取り出し終わるころには日が傾きかけて、辺りが薄暗くなってきていた。
「作業は終わりましたか?」
「なんだリリアか。予定通り終わったよ。何か問題でも?」
「これから各隊長クラスを集めて作戦会議です」
「人使いが荒い国だよな。休憩がないと労働基準法で怒られるぞ」
「この国ではまだその法律はありませんから。少佐のために干からびるまで働いてください」
働き方や雇用などと一緒に法律関係に関してもアドバイスしておくべきだったなと感じる。
それでも文句が出ないで動こうとしてしまうのは『社畜』のスキルが育っているからだろうか。
休むことなく働かされる悲しさと、それを辛いと感じない嬉しさが悶々としていたが、大人しくリリアに着いていき、指令室として設置された家屋に入る。
アイネやコブス、ジェリドだけでなくベアーズにマウシー。それ以外にも数多くの人間と獣人の各部隊の隊長として任命されたであろう人たちが集まっていた。
中央に設置された大きなテーブルには、この辺りを拡大した地図と、駒が設置されている。
「どうだホンゴー。これがお前が計画して全員で作り上げた軍隊だぞ」
「そうですけど、殆どまとめあげたのはノエル少佐じゃないですか。鍛えたのもコブスやジェリドだし、俺は運搬ぐらいしか出来てないんですけどね……」
「それでも、お前が言わなかったら実現しなかったのも事実だ」
その場にいる誰もがノエルの言葉に納得していた。
生き残ろうと、必死に足掻いた結果だった。
「さて、スウェーバルの件だが恐らく総力戦だ。偵察部隊の話ではほぼ全ての部隊が集まっているそうだ。数はこちら程多くないが、魔獣の力を考えれば戦力は相手が上だろう」
本郷は唾をごくりと飲んだ。
魔獣は小型から大型まで存在している。そして魔術師であれば数十人で対応するものだという話はラカスラトの捕虜から得ていたが、ガムルスは魔獣との戦いを経験したことがない国だった。
「まずは大砲による砲撃で敵を誘き出す。魔獣とはいえ魔術師の様に魔法の攻撃は出来ん。必ずこちらに向かってくるはずだ」
ノエルが地図に置かれた駒を移動していく、そして駒を動かした先には楕円形の〇が書かれている。
「ここが地雷原だ。今は暗闇に乗じて味方が設置作業を行っている。そして奴らをギリギリまで引き付け発破する。同時に全軍で砲撃と銃弾の雨を降らせろ」
楕円に置かれた駒を人差し指と親指で弾くように転がした。
「もし一体でも抜かれれば此方の陣形が崩れると思え。至近距離での攻撃は向こうの方が上だ」
「散弾銃じゃダメなのかしら?」
ジェリドが持っていた散弾銃を見てそう尋ねた。
「頭を一撃で吹き飛ばせる自信があるなら問題ないだろうが、そんな連中が大勢いるのであれば今頃簡単につぶせているところだ」
確かにとっさの判断でそんなことができる兵士はコブスやジェリド、それ以外に数えても少ないだろうと思う。
「敵の全軍が来ている。アデン砦に必ず敵の大将もいるはずだ。相手の戦力を出来る限り削る。ホンゴー、後はお前の出番だ。分かっているな?」
「はい。大丈夫です!」
ここまでやっとたどり着いたのだ。今更迷うこともない。
最後の召喚者を倒して帰るだけだ。
『死んだら終わりだけど、勝ったらすぐに帰ることになるんだろうか? 皆に挨拶もしないといけないし、アイネは絶対に泣くだろうなぁ……。まぁ死ななければだけど』
もうすぐ終わる変な神様の出世競争が、少し名残惜しいような気もしていた。




