サイス・デミトリー
サイスとその取り巻きは捕まらなかった。
本郷たちが迎賓館を取り巻こうとする少し前、飯田達を囮にして先にアウグスタを脱出したのである。
各地を転々として隠れつつ、、ラカスラトを落としたスウェーバルに接触しようとしていたのだった。
アデン砦に到着した彼らは、一室に通されていた。
「サイス殿、奴らは保護してくれるでしょうか」
「財産も技術も、持てるだけすべて持ってきたのだ。我々さえ生き残ればどうなっても構わん。それにあんな国すぐにスウェーバルに滅ぼされるだろう? だったら先に取り入ってしまえばこちらの勝ちだ」
内密な話をしていたところで、扉がギギッと開かれ、数人の男が入ってくる。
ひときわ目立ったのは金色の髪に青い瞳の男だった。それ以外は砦の兵士であろう。
「私はロイザー・ブラッドマン。スウェーバルの代表を務めている。お前たちがガムルスから来た亡命者の貴族か?」
「これはロイザー様、お会いできて光栄です」
サイスが如何にも相手を持ち上げようと技とらしく大振りで振る舞っていた。
「お前たちが持ってきた技術書類は面白かった。あれがガムルスの標準装備とはな」
「さすがの魔獣でも苦戦しますかな?」
「数発撃たれた程度で魔獣たちは倒れたりしない。だが、これだけの勢いのある開発を誰が指示している?」
「ノエルという少佐が指揮を執っております」
「そいつは召喚者か?」
召喚者という聞きなれない言葉にサイスは少し戸惑っていた。
「いえ、私の知る限りイイーダという召喚者はおりましたが、我々の側に付いておりましたからな……」
それを聞いたロイザーはすぐに理解していた。
『ならば最後の1人はノエルという人物の下にいる。恐らくガムルスの武器技術を上げているのもそいつだろうな。だとすればこいつらはただの負け犬か……』
もう一度サイス達を見てみたが、明らかに戦う気はない。どうやって媚び諂うかを考えているだけである。
「諸君らの持ってきた財と技術には感謝しよう」
「それでは私たちをスウェーバルに加えていただけると!?」
「そうだな……ある意味加えてやろう」
ロイザーが指をパチンと鳴らすと、近くにいた兵士だけでなく、扉の向こうから大勢の兵士達が入ってきてサイス達を取り囲んだ。
「ロイザー様これは!?」
「私の国に裏切者はいらん。本当であれば全員首を刎ねてやろうと思ったが、そんなにスウェーバルに加わりたいのであれば、魔獣のエサとなって我々と戦え」
「ロイザー! 貴様!!」
「さようならサイス・デミトリー。国を簡単に売った奴を私は信用しない人間でね」
サイス達は声にならない叫びをあげながら、兵士達に連行されていった。
呆気ない最後である。
部屋に残ったロイザーはアデン平野、そしてその奥のニューヤード基地を眺めていた。
「もう少し、もう少しで俺の願いが叶う……。何としてもあちらの世界に戻って俺を裏切った奴を根絶やしにしてやる……!!」
冷ややかな表情は変わらなかったが、自分たちを裏切った別の世界の人間たちを思い出していた。
「おい! 誰かいるか!」
ロイザーの問いに対して、扉の向こうから兵士が敬礼しながら入ってきた。
「お呼びでしょうか?」
「ラカスラトの魔獣たちの移動は順調か?」
「はい。ご指示通りすべての魔物をこちらに移動中であります!」
「分かった。下がっていい」
呼ばれた男が再度敬礼して扉の向こうへ消えていった。
「例えスウェーバルが滅ぼうとも、ガムルスの召喚者させ殺してしまえば私の勝ちだ……!」
ロイザーにはスウェーバルの勝利など眼中になかった。
苦戦を強いられそうだったラカスラトをガムルスが予想外に打倒したことをむしろ喜んでいた。
「ガムルスの召喚者よ! 早く私のところに来い! 楽に殺してやろう!」
大きな部屋で起きた高笑いが室内で反響していた。
◇ ◇ ◇
そのころ、本郷たちもニューヤードへと進行を開始していたが、全員軽装であった。
「いやー、タイチのアイテムボックスは便利でいいな」
「そうよね。重たい荷物がないから負担も軽減されていい感じね♪」
「俺は運搬係かよ……」
大量の銃や大砲、それに機関銃も運ぶには時間がかかるので、本郷が全てアイテムボックスに入れて運んでいたのである。
「数カ月はかかる移動がお前のおかげで数日で済んだのだ。戦闘は雑魚だが、いい働きだぞホンゴー」
「少佐。こんな弱い男でも役に立つことの一つぐらいはあるものですよ」
「ノエル少佐もリリア大尉も言い過ぎですよ! タイチさんは確かにちょっと弱いですけど、ちゃんと皆のために働いているんですよ!」
「皆で雑魚とか弱いとか言わないでよ……。泣いちゃうぞ……」
毛が生えた程度のステータスなのは自覚しているが、ずっと戦ってきた仲間たちからの精神的ダメージは大きかった。
『敵にやられる前に、味方の精神攻撃で死んじまうよ……』
『自決しますか』
『お前久しぶりに出てきたな……。自決しねぇよ!』
誰にも知られないところで、自決システムに文句を言いながら歩き続けた本郷だった。




