道化師は踊る
「なんだこれは!? どうなってるんだ!」
迎賓館で高級なお酒と多種多様な料理に舌鼓をしていたころ、1人の貴族が建物を囲むように群がった松明の灯りに驚いていた。
「奴隷どもと市民、軍人までいるではないか! 幹部連中は何をしていたんだ!」
「何もしていない貴族共が偉そうに言うな! お前たちが圧政など考えたのが悪いのだろう!?」
会場では誰が悪いかの醜い罪の擦り付け合いが始まっていた。
その光景を遠巻きに見ていた男が笑いながら口を出す。
「そんなことより、外の連中を全員殺してしまえばいいんですよ。貴族と軍に歯向かう奴なんて、軍人が混ざっていたとしても全員反乱分子じゃないですか!」
男の声に会場が静まり返り、1人、また1人と、「そうだ」「あいつらは反乱分子だ」「殺してしまおう」という声が上がり始める。
「向こうから来てくれるなんて好都合! すぐにでもきれいさっぱり片付けて、我々の楽園を作ろうではないですか!」
「さすがはイイーダ殿、考えることが違いますなぁ」
「何でもポジティブに考えているだけですよ。所詮足元で叫ぶことしかできない連中に。私たちが怯える必要もないでしょう? 後で金をばら撒いて邪魔な連中を引き込んでしまえばいい」
その場にいた誰もがイイーダの意見に賛同していく。
『こんなにもバカな連中で助かるよな。俺が手を汚さなくても勝手にやってくれるし、神様には悪いけど俺はこの世界で好き勝手暮らさせてもらうぜ』
会場内が一致団結する中、イイーダは自分のためにまわりを利用することしか考えていない。
金さえあればこの世界では自由だ。少し助言をするだけで勝手に動いてくれて金も入る。食べ物も女も好きな時に金さえ払えば好きなだけで手に入る楽園だった。
『あとは、面倒だけど召喚者さえ殺すだけ……。ここの連中が死んでも、俺さえ生きていればなんとでもなるさ』
「さっさと殺しちゃえよ。いい加減飽きたし帰って女でも抱きたいしさ」
近くにいた人間たちに手をひらひらとさせながら指示を出す
「おい、外の連中を撃ち殺せ! 待機中の連中も全員動かせ!」
胸に沢山の勲章をぶら下げた男が、入り口で警備をしている兵士に命令を下す。
しかし、誰一人として動こうとしなかった。
「聞こえなかったのか! 外の連中を殺せ! 今すぐだ!」
「うるさい豚がピーピー鳴くな。格下にしか見えないだろうが」
締まっていた入り口の扉が開いていき、ノエルが姿を現した。
「ノエル少佐!? 貴様がなぜここにいる!」
「黙れ豚野郎」
ノエルが片手を上げると、扉の奥から一斉に兵士が続々と部屋に入り、貴族と軍高官に銃を向ける。
「なんの真似だ! 今すぐやめさせろ!」
「おいおい、私たちが何度も弁解しても聞きもしなかった連中が今更何を」
「そうよそうよ! あの時の借りはしっかり返させてもらうわ」
「コブス……! ジェリド……! 悪魔どもがっ!」
男達がコブスとジェリドを憎らしそうに睨み付けていた。
「私が命令すれば体中が穴だらけになるぞ。動くことも喋ることも許さん」
「バカを言うな誰が……」
『パンッ』
ノエルの言葉に異を唱えようと男が声を発した時だった。男の方を指差したとたん、体中から血しぶきが上がり、その場に倒れ込んでいく。銃が一斉に放たれたのだ。
「言っただろう? 動くことも喋ることも許さんと」
静かな一言だった。しかし、今起きた光景とその言葉にはとても重みがあり、誰も動けない。
外で待機していた本郷とアイネも銃声の音に驚いて室内に入った。
そして、その姿を驚いた人物が1人だけいた。
「本郷!? お前もしかして本郷か!?」
その声に本郷も驚き、声がする方を見る。確かに聞き覚えのある声だった。
「俺だよ俺! 飯田だよ!」
「飯田先輩……?」
「そうだよ! 俺だ!」
間違いなかった。本郷のいた世界で、自分の面倒ごとを本郷に押し付けた結果、こちらの世界へ飛ばされた原因を作った男だ。
「ホンゴー。知り合いか?」
「はい。俺の世界の知人です。そうか、イイーダって何か引っかかると思ったら飯田ってことか……」
「どうする? 殺すか?」
「いや、あの人は俺が何とかします」
こんなにも嬉しくない再開というものもあるのだなと本郷は感じていた。それと同時に、知り合いということが、自分の気持ちを少なくとも揺さぶっていた。
「おい、そこのお前、こっちにこい。他の連中は全員牢獄に連れていけ! 途中で変な動きをしたら射殺して構わん!」
ノエルの指示で会場内にいた全員が連行されていく。
解放された飯田が本郷のところへ駆け寄っていく。
「いやー助かった! 実はさ、あの連中に逆らったら殺すって言われてよ。神様とやらにこの世界に飛ばされたと思ったらいきなり捕まっちまってさ」
飯田は連れていかれる貴族や高官を踏ん反り返って見て、自分の身の潔白を証明しようとしていた。
「俺に仕事押し付けたくせに」
「悪かったって。本当に忙しかったんだよ! ちょっと一服しようかと思って事務所を出たらこうなっちまってさ。本当だぜ?」
「そんな余裕は俺にはなかったんですけどね……」
「まぁお互い生きてるからラッキーじゃん? とりあえず再開を祝って飲もうぜ。他の部屋に良い酒が置いてあったんだ!」
本郷の肩をぐっと掴むと飯田は他の部屋に連れて行こうとする。
「タイチさんっ!」
アイネがこちらを呼び止める。その顔は不安な表情だった。
本郷はアイネに近寄って静かに声を掛けた。
「大丈夫。ここからは俺の戦いだからさ」
そういうと飯田とともに奥の部屋へと消えていく。
その姿を見送るしかないアイネは、どうしようもない気持ちを必死に抑えつけるしかなかった。




