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やられる前にやってやる。倍返しだ!

「それじゃ、その話をさらに拡張して噂を流しましょうか。効果あるか分からないですけど」

「良いだろう、どんな話だ?」


集まる一同の前で本郷はノエルに提案を続ける。


「奴隷を排除するってだけなら街の一般市民にダメージがないですからね。関わったもの、奴隷を働かせたことがある者も重課税を課すっていうだけです。軍内部からのリークだって噂すればそれっぽいんじゃないかなと」

「民衆の不安を煽るというわけか」

「そうです。うちには首都から逃げ出してきた人たちもいますからね。何人かは掴まって殺されたかもって話も付け加えれば信ぴょう性も増すんじゃなないでしょうか。アウグスタの街も人や食料やら徴収されて元から疑心暗鬼になっていますから……」

「よし、ならば軍内部でも私側に付く連中を集めておこう」


作戦としてはかなりレベルの低いものだったが、そっちがそう来るならこっちも乗っかるしかない。


『一向一揆しつつ、ただのクーデターしようぜって話なだけなんだけど……』


納得する一同に本郷は続けて話す。


「計画は1週間後で。ジェリドとコブスは味方の兵士たちとアウグスタで噂を広めまわってほしい。くれぐれも見つからないようにこっそりで頼む」

「分かった」「了解よん♪」

「アイネはミランダさんとミケットさんに頼んで、村で協力してくれそうな人たちを一斉に移動させられるよう準備してほしい。あ、もちろん最低限でいいからな。ここががら空きになるのはまずいから。

「分かりました! 馬車もありったけ用意しますね!」


早くも次の召喚者と出会うのは近いようである。


◇   ◇   ◇


アウグスタの酒場ではある話題で盛り上がっていた。


「おい、お前も聞いたかあの話」

「あれだろ、獣人だけじゃなくて関わった奴や雇った奴まで軍のやつらは消したいらしいぞ」

「それなら軍人以外は殆ど殺されちまうじゃねぇか!」


酒場の至るとこで同じような会話をしている者たちで溢れていた。


「その場凌ぎの急な案だったが、タイチの言う通りだったな」

「そうね。こうもあっさり皆が信じてくれるとは思わなかったわ」

「イッコーイッキとかいうのをやるらしいな。民衆と軍の反対派を集めて更に国を乗っ取ろうっていうんだからな。発想がとんでもないなうちの『魔王様』とやらは」


酒場の隅、ローブで顔を隠したまま、ほくそ笑むコブスとジェリドであった。


◇   ◇   ◇


「ノエル中佐。その話が事実だとして本気で考えているのか……?」

「そうですよリック中佐。貴殿も今の軍上層部の腐敗具合はご存知でしょう? せっかくラカスラトを追い返したというのに、このままでは国を食いつぶしてガムルスは自滅する。その前に我々も『国のため』、『民のため』に立ち上がらなくてはなりません」

「確かにその通りだが……。いや、分かった。私も心当たりがある人間に話しておこう」


そういうとリック中佐は部屋から立ち去っていった。


「リリア、首尾はどうだ?」

「はい、開発局・武器管理局・食料局、その他各局も次々と賛同しています。ここは労働として獣人を働かせているところが多いですから、ホンゴーの話が効いているのではないかと」

「上の豚どもはここまで火が点いているのに、未だに戯言だと思っているらしい。思った以上に面白くなりそうじゃないか!」


ノエルの高笑いが部屋に響き渡る。


◇   ◇   ◇

「こっちをこれに積んで……。アイネ! この箱はこれでいいのか?」

「はい大丈夫です! それにしても街の殆どの人が参加するとは思いませんでしたね……」

「治安もかなり良くなったし、首都に比べればかなり自由に暮らしていけるだろうからなぁ。ノエル少佐が色々手回ししてくれたみたいだし」


トルガに集まっていた、獣人、人。それも兵士だけに限らず、医者や商人まで参加するほどに協力者は増えていた。


「まぁこれも俺にとっちゃ軍隊ってなるのかな。いや、どちらかと言えば非武装のゲリラか……」


集まる人たちを馬車の荷台から眺めながら本郷はつぶやいた。


「タイチさん! 全員の準備が整いました!」

「よし、じゃあアウグスタに行くか! くれぐれもこっちから攻撃しないこと、人にけがをさせないことを皆に徹底させておいてくれよ」

「大丈夫です! みなさん優しいですから」


クスリとアイネが笑った。最初に出会った時や初めて人を撃った時の少女がまるで嘘みたいに明るくなっていたのは本郷にとっても嬉しいことだった。


『妹が出来たらこんな感覚なのかもしれないなー……』

『今度こそ、タイチさんと3人の子供と囲まれて幸せな生活を……!』


お互いの気持ちが一致しない2人だった。

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