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ガムルスの腐敗、そして

 ニューヤードの戦いから数日間、本郷はずっと眠っていた。多量の出血と疲労感に押しつぶされたのだ。

 気が付いた時にはトルガに戻っていた。


「タイチさん、ここにいたんですか。これ、皆のお墓ですよね……」

「あぁ、本当は1つずつちゃんと作ってやりたい。お前らすまん。今はこれで勘弁してくれ」


 本郷とアイネの視線の先には小さな墓標が立っていた。しかし、そこに誰もいない。形だけの墓標だ。

 そっと本郷は合掌する。全員の死は決して忘れない、全て背負っていくと。

 それはこの計画を考えた時から考えていたことだ。自分が生き残るために大勢を利用し、戦い抜くと。


『まぁ、獣人を開放したいってのもちゃんと考えてるから化けて出ないでくれよ』


 本郷は墓標に向かって合掌を終えて目を開く、横にいたアイネも本郷の真似をしていたらしい。

 アイネから聞いた話ではノエルの指示で仲間たちの遺体は丁重に処理されたらしいが、詳しいことは話してくれなかったらしい。本郷たちの負担を軽減したいと考えた末の判断だったのだろう。


「コブスさんが教えてくれたんです。タイチさんの世界では死者を弔う時にこうするんだって……」

「色んな理由はあるんだけどな。尊敬と感謝を表すとかだったり、死んだ人を偲ぶ意味だったりもある」

「優しい世界なんですね」

「どうかな。全部が全部って優しいとは限らなかった。この世界で起きている何十倍も大きな戦争をしている世界だったからな。勉強や、映画なんかで知識はあったけど実際はすごい数で人が死んでる世界さ。むしろ俺にはこっちの世界の方が優しいと思ったぐらいだ」


 そう、今回の戦いもあちらの世界で観れば一週間程度ニュースで騒がれて、消えていくレベルの話なのだろうなと思った。


「ホンゴー。ノエル少佐がお呼びです」

「リリアか、まだすぐに出ろって話じゃないんですか?」

「いとにかく今すぐ呼べとのことなので。アイネさんもご一緒に。私はジェリドとコブスを呼んできます」


 リリアは訓練場のある道へと駆けて行った。


「てっきりこの間みたいなことをされるんじゃないかと思いました……」

「俺もまた首を絞められるのかなと思ったけど違うみたいだし、とりあえず向かおう」


 本郷とアイネは歩き出し、ノエルのいる元町長の屋敷に向かう。


「それにしてもトルガもアウグスタみたいになってきたな。お店がいっぱいだ。」

「そうですね、警察に医療関係もこれから始まりますが、トルガだけでも生きていけるんじゃないかなとは思いますね。人も集まりましたし、食流の余剰分も増えましたし」


 トルガでの開発はされに進み元の街のサイズが数十倍に膨れあがっていた。

 最近は首都から買い付けに来る客なんかもいるらしい。


 そうこうしているうちに執務室の前に辿りついた。


「失礼します」

「あぁ、入ってくれ」


 ノエルの顔は正直楽しそうではなかった。むしろ何かに悩んでいるような言葉だった。


「失礼します」

「これで全員か……」


 少し遅れて、リリアとコブスとジェリドが入ってくると、椅子に座っていたノエルが立ち、中央のテーブルに地図を広げた。


「さて諸君、『残念な話』と『残念な話』と『愉快な話」がある。どれから聞きたい?」

「残念なことが2つもあるんですか……じゃあそっちからでお願いします」

「ホンゴーなら後回しにするかと思ったが、良いだろう。まず1つ目の『残念な話』だが、ラカスラトの首都が落ちた。スウェーバル軍の仕業だ」


 そこにいた全員が黙る。やっと次はラカスラトを攻め込もうとしていたのにスウェーバルに奪われた形だ。


「ノエル少佐。やはり、タイチがダブラスを倒したのが原因なのか?」

「恐らくだがな、あれ以降強力な魔術を敵が使わなくなったからな。ダブラスが何かしらの魔術か呪術を掛けていた可能性が高いだろう」

「スウェーバルに関しては?」

「王都を落としてからは大人しくしているようだが、次を攻めるとしたらガムルスだろうな」


 本郷はどこかで戦闘になるとは感じた。スウェーバル軍は恐らくダブラスを狙っていた。次に狙うのは自分か、貴族派のどちらかだろうと。


「ノエル少佐、貴族派の件は?」

「それが、『残念な話』の2つ目だ。何を考えているのか貴族派を中心にモルモット隊を敵だとしてトルガに進行する動きがある。獣人達を操る魔王を討伐しろと。良かったなホンゴー、『魔王』扱いだぞ」

「嬉しくもなんともないんですけどね……。それで愉快な話とは?」

「来週、貴族たちが軍幹部と開くパーティがある。そこを襲撃しようと考えている」


 一同の目が丸くなる。パーティを襲撃?


「ちょっ、ちょっとそんな事すれば反逆罪じゃ済まないじゃない!」

「捕まれば全員処刑になるだろうな」

「笑いながら言うセリフじゃないわよ!」

「だがな、このパーティを止めなければならん。パーティとは言っているが、内容は次回の軍会議でのある議案の票を集めるための動きだ」


 嫌な予感しかしない。この人が楽しそうに悪いことを話すときは大抵自分が考えていることと一緒で最悪のパターンになるということを本郷は知っているかだ。


「それで、すごい嫌な予感しかしないんですけど、その議案っていうのは?」

「獣人族の奴隷の一斉排除だ」

「あぁ……やっぱりですか」

「そうだ。こうも獣人族が成果を上げたせいで、首都にいる奴隷たちの中にも反発意識が生まれてきてな。邪魔になるなら全員消そうって話だ」


 腐りきった貴族と、軍上層部はそんなことをすれば労働力として支えとなっている根幹を潰すということがどうなるかなどは考えていないらしい。


「だからホンゴー。いい案を出せ」

「えぇ……。俺なんですか?」

「お前が動かした計画だ。面白い話にしてくれよ」


 ノエルは不敵に笑いながら本郷を眺めていた。



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