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ニューヤード平原制圧戦【7】~男は家族のために、男は帰るために~

 心臓がとても痛い。間違いなくダブラスの攻撃を心臓に受けたはずだ。ズシンとした痛みと吹き飛ばされて地面に落下した痛みもしっかりと分かる。そして自分の左胸から血がダラダラと垂れていることも。


 どうして死んでいないのかは分からなかった。それでも、ダブラスがこちらをありえないという顔で見ていた。早く攻撃しなければ、次は助からない。もっと強力な一撃でないと、どうすれば……?


「なんだそれは!?」

「うるさい! 痛みでそれ何処じゃないんだ!」


 ダブラスが見たのは何もない空間から取り出された細長い筒だった。やはり錬金術か魔術師の類であったかと思ったが、その筒を本郷が肩に担ぎ、筒の先がこちらを向いていることから瞬時に武器だろうと判断する。


 本郷はダブラスの動きを見逃さなかった。明らかに弱った魔法障壁を補強しようとしている。そんなこと擦れれば決定打に欠けてしまう。途切れそうな意識の中、ベルフェゴールからもらったチケットで手に入れた『SMAW』をアイテムボックスから取り出し、、トリガーを押し込んだ。


 ダブラスは悟った。筒から何かがこちらに飛んできて、そしてそれは間に合わないということも。

『ヘレン、ミリエラ、すまない。だが、今そっちに行くよ……』

『ドゴッ!』


 外にいたアイネたちが驚く。大きな音がし、部屋の中から本郷が大量の煙と同時に吹き飛んできたからだ。地面に落ちた本郷から血が床に流れていった。


「タイチさん!」「タイチ!?」「タイチちゃん!?」


 3人の声は同時だった。


「お嬢さん、私たちはいいからタイチを先に治癒させるんだ!」

「は、はい!」


 傷口の処置が終わったコブスが部屋の中を覗き込む。部屋の中は飛び散った本のページが舞うように落ちていき、人のいた跡が影の様に出来ていた。


「何をしたらこんなに部屋が吹き飛ぶのか……と言いたいがタイチの事だからな。もう驚くまい」


 ここで、本郷が何かをしでかしたということだけは分かった。


「タイチさん! しっかりしてください!」

「いてぇ……。なんで俺生きてんの……?」


 アイネのおかげで出血は止まっていた。ダブラスに吹き飛ばされたり、ロケットランチャーを撃った反動で吹き飛んだりで体中は痛いままだったが、自分が生きていることが不思議でならなかった。

 動く様になった身体で自分の服の中に手を入れて傷口を触ってみる。ズキンとした痛みはあるが、ちゃんと心臓は動いている。


「……?」


 服から手を出した際に、胸元にいれていたお守りが引っかかっていた。ベルフェゴールからもらった『無病息災』のお守りだ。真ん中に抉られた様に穴が開いている。そして、砂が零れるようにお守りが消えてしまった。


「無病息災ってそういうことか……。微妙に間違ってる気がするぞ……」


 どうやら、一度だけ身を護るような性能であったらしい。ダブラスの一撃が当たる瞬間に身代わりになったようである。それでも護り切れないほどの一撃だったのだろう。貫通して少しだけ身体に当たったため、出血を起こしていた様だ。


「コブス、あいつは……?」

「死んだよ。跡形もないからそうとしか思えないだけだがな」

「そっか……」


 自分の左手の紋章は間違いなく残っている。服を引っ張り自分の右肩を見てみると、ダブラスの肩で光っていた紋章が自分の身体にあった。


『間違いなく、死んではいるみたいだな……』


 はぁっと息をつく。これが終わりだったらどれだけ楽だろうかと思う。あと、2回同じようなことをしないといけないのだろうか。次も死なないといいなと本郷は思う。


「あら、ノエルにリリアじゃない。なんでこんなところにいるのよ」

「あの2人が援軍を連れてきてくれなかったら確実に全滅してたと思うよ」

「あれで男だったら最高にカッコいいんだけど、女なのが残念ねぇ」


 ジェリドが心の底から残念そうに2人を見つめていた。

 こうしてニューヤード平原での戦いは双方大きな打撃を受けつつも、ラカスラトの敗北。そして賢者の死という形で弱体の道を進むこととなる。


 そして、ラカスラトを制したガムルスが、今後一方的に攻める立場となっていく。しかし、ラカスラトの背後からスウェーバルも挟み込むような形で迫ってきていた。


 ガムルス内部ではもう1人の召喚者のも今回の成功を受け、次の計画に映ろうと動き出していた。


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