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ニューヤード平原制圧戦【6】~そして本郷は召喚者を見る~

 ニューヤード基地から撃ちあげられたその白い閃光は間違いなくコブスに渡した信号拳銃である。それは本郷以外の召喚者がここにいる、ということと、コブス達がまだ基地内で戦っているということだ。


「ノエル少佐! まだコブス達は生きています!」

「どうせ止めたところでお前は行きたいんだろう?」

「それが神様からの仕事ですからね……。痛いことや嫌なこと、損な事ばっかりですよ」


 本郷は苦笑しながら座っていた木箱から立ち上がる。


「ホンゴー。馬を持ってきました。今なら味方が押し返していますから敵が空けた穴を逆に使えば簡単に基地内部に入り込めると思います」

「ありがとう。それにしてもすごい味方の数だな……。どこから連れてきたんだ……」

「アウグスタとトルガ、それとニューヤード入り口で遊んでいた連中を尻を少佐が軽く蹴っただけです」

「軽く蹴った、ねぇ……」


 前線基地で威張っていた司令官やこちらを笑っていた兵士はどうなったのだろうと思うが、ノエルであれば最前線に放り込んでいそうな気がしなくもない。


「私も行きます。タイチさんの後ろに乗れば近づいてくる連中を片付けられますし」

「良いのか? 多分一番危ない場所に行こうとしてるんだぞ?」

「タイチさんが行くなら、そこが私の行く場所ですよ」


 これはダメと言っても着いてくるタイプだなと本郷は思った。こういう時のアイネの芯は太い。

 アイネとともにリリアの用意した馬に乗り込む。


「ここの事は私とリリアに任せておけ」

「ありがとうございます!」


 手綱を強くパシンッと叩くと、馬が徐々に動き駆け出す。


「あの、阿保の周りの敵を薙ぎ倒せ!」


 至る所で小競り合いは続いていたが、ノエルの指示で前にいた味方達が敵を押しのけるように道を開けていく。最初の本郷たちの砲撃が実際には思っていたより効果があったのだろう、援軍が既に基地にまで達していた。


「アイネ、行くぞ!」

「はい!」


 そのまま壊れた城門を通り抜け内部に侵入する。ここでも至る所で戦いが起きているが、反対側の門から逃げていく敵兵士の姿が見えた。これならば時間の問題だろうと思った。


「ホンゴーさん! こっちだ!」

「ベアーズ! 無事だったか」

「体中穴だらけですし、休んでいいなら休みたいものです」


 こちらを見たベアーズがはははと笑う。笑いが出るということは基地内部もだいぶ制圧しつつあるようだ。


「コブスやジェリドは?」

「目標に攻撃中です。逃げ出さないようにずっと攻撃を繰り返してるんです」

「すぐに案内してくれ!」


 ベアーズに連れられ、建物内部に侵入していく。階段を駆け上がり、最上階の3階に辿りつくとバリケードが木築あげられていた。


「よぉ、タイチ……」

「タイチちゃんにアイネちゃんも無事だったのね……」

「2人とも血が……! アイネすぐに治癒を!」

「はい!」


 バリケードの横に倒れるようにコブスとジェリドが座り、獣人達が部屋の中に発砲を続けている。


「中に賢者ってやつがいた……。だがな、銃弾が効かない。いくら撃っても貫けないんだ」

「あれって反則よね……。近づこうとするとスッゴイ威力の魔法が飛んでくるし……」

「分かった。後は俺の仕事だろうな……。これ借りてくよ」


 床に置かれていた散弾銃を手に取り、弾を込めるとアイテムボックスにしまう。そして、普通の銃を取り出した。


「発砲やめ!」


 本郷の指示と同時に味方の銃撃が止まる。そして本郷は中にいる者に声を掛ける。


「おい! そこにいるんだろう! 俺と同じ存在が!」


 しんとした静寂の中、答えが中から戻ってくる。


「お前がガムルスのやつか……」


 本郷はバリケードを乗り越え、部屋の中に入っていく。多くの書物が目に入る。まるで図書館のようだ。


「私はダブラス・コンスコン。魔法を極める賢者である」

「そうか。俺は本郷太一、サラリーマン。平社員だ」

「さらりーまん? 異世界には知らない言葉が多すぎるな」

「そう思うね」


 私の年寄りも半分、いやそれ以下だろうか。ダブラスはその姿見て自分が戦っていた召喚者を見ている。


「どんなやつが私の相手かと思ったが、私よりこんなに若いとは……。こんなに早く新しい武器を生み出してくるとはな。錬金術師の類か?」


 俺のじいちゃんより年上なんじゃないだろうか。白髪でハリウッドの魔法使い物のそれにそっくりだ。


「俺ももっと化け物みたいな人を想像していたよ。普通のイケメンじぃさんじゃないか。それに錬金術なんかじゃない。ただ知識を提供して自分を守ろうとしているだけだ」


 ゆっくりと一歩ずつ、銃を構えながら本郷は近づいていく。


『【俊敏性】を習得しますか ※確率7%』

『【俊敏性】を習得しました』


『【魔法感知】を習得しますか ※確率19%』

『【魔法感知】を習得しました』


『【賢者の殺し方】を習得しますか ※確率43%』

『【賢者の殺し方】を習得しました』


 全て即答であった。スキル習得に失敗すれば死ぬ、そして、スキルを取らなければ、目の前の賢者に確実に殺される。本郷の頭の中にはその考えしかなかった。


「知識を提供、まるで賢者のようだな。お前はなぜ戦う? 何が目的だ?」


 ダブラスは本郷に問う。ここまでして戦う理由が知りたかったのだ。


「目的って言われても、俺は自分のいた世界に帰りたいだけだ。痛いのも死ぬのも嫌だからな」

「それだけか……? それだけの理由で戦うというのか……!?」


 本郷は思う。自決システムのせいで逃げられないから戦い以外の道がなかっただけだと。

 ダブラス思う。家族を生き返らせたい。その思いで戦ってきたというのに、目の前の男はただ帰りたいだけだという。全く持って自分と思想が違い過ぎると。


「なぁダブラス。大人しく紋章だけ渡して投降してくれたりしないか?」

「ありえん! お前と違って私にはやらねばならぬことがあるのだ!」


 本郷と左手の甲の紋章と、ダブラスの右肩の紋章が光る。

 お互いの本心が理解できないまま、先に動いたのはダブラスだった。


 まるで火の塊のようなサイズの魔法を本郷に向かって放つ。そして咄嗟にしゃがみ込んだ本郷がダブラスの額目がけて引き金を引いた。しかし、見えない何かに遮られダブラスに当たる前に防がれ、落ちた。


「やっぱり障壁が堅いか……」

「そんなもので私が死ぬと本気で思ったか!」

「思うわけないだろバカヤロー!」


 本郷は走り出した。相手の手の動きを見て、どこで魔法が放たれるのか。

 そしてダブラスの手が止まったと同時に斜めに方向を変えると、本郷がいた場所が大きく燃え上がる。


『あっちぃ! あれが見えなかったらこんがり丸焼けだぞ……!』


「避けた!? なぜだ!?」

「こっちは死ぬ覚悟で何個もスキル取らされたんだ……!」


 ダブラスの至近距離まで近づくと、持っていた銃を放り投げ、アイテムボックスから散弾銃を取り出し、胴体目がけて撃ち放つ。


「これでもダメなのか!?」


 本郷が叫ぶ。当たった場所がひび割れたようにガラスの様にパラパラと崩れていたが障壁を打ち破るには威力が足りなかった。


「惜しいな。お前のような若者が味方だったらどれだけ楽だったか……」


 ダブラスは本郷に向かって雷の矢を放つ。その矢は確実に、的確に心臓の位置に突き刺さるのを見た。そして本郷の身体が体当たりを受けたかのように入り口まで吹き飛ばされた。


「これで後2人か。さっさとガムルスの力も早く手に入れないといかんな……」


 ダブラスは本郷から奪い去った紋章を眺めようとした。しかし、先程倒した男の紋章がなかった。

 吹き飛んだ男の方向を急ぎみる。真っ赤な血を大量に流しながらも男は立ち上がっていた。


「心臓を貫いたはずだ!? なぜ立てる!」

「あぁ……。超痛いんだけどこれ……。死にそう」


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