ニューヤード平原制圧戦【5】
「アイネ! コブスとジェリド達が入ってからどれぐらい経った!?」
「多分3時間は経過したんじゃないかと……」
本郷は焦っていた。準備されていたかのように次々と向かってくる兵士、とても急に出てきたというよりは、まるで出番を待っていましたと言わんばかりに装備がしっかりしていた。
『コブス、ジェリド! まだか……!』
基地から上がる煙を見たが、信号はない。今眼前の敵に集中するしかないようである。
「隊長! 砲弾が無くなりました!」
「こっちもです!」
「十分にダメージは当てたはずだ。銃に切り替えて応戦だ!」
正直、十分にダメージを当てたかなんてわからなかった。土煙、燃え上がる馬房と人、恐らく人だったであろう破片。色んな情報が目の前にある。そして理解できるのは『敵は止まっていない』ということだ。
『魔法! 撃てー!』
その声が聞こえた瞬間、炎の矢が大量に本郷たちに降り注いのだ。アイネは本郷を引っ張り、近くに倒れていた壁の下に引き込んだ。
「タイチさん! 大丈夫ですか! 血が……」
「え? あぁ、いつ怪我したんだろう」
「すぐ止血します!」
「いや、俺は良いからまだ生きてる連中を後ろに下げてくれ」
瓦礫の下から体を乗り出して敵を見る。まだこんなにいるのか。辺り一面に広がるラカスラト兵が無尽蔵に湧いているように見えた。無双ゲーか何かかなと一瞬思う。
『自決しますか?』
「まだ負けてないだろ」
『自決しますか?』
「俺はまだ戦える……」
『自決しますか?』
「まだ……!」
『自決しますか?』
「クソ! ここまでなのか!? せっかくここまで来たんだぞ……!」
本郷は倒れ込むようにガクッと両の手を地面に付いた。出来る限り損耗を減らす作戦、可能な限りの武器、それに過去の歴史を使っての圧倒的有利、全て順調だと思っていた。いや、思い込んでいただけなのかもしれない。自分の過信や躊躇がこの状態を招いたのではないか……?
『ベルフェ様、俺ここで終わるっぽいです。すんません……』
本郷は再度、倒れた、そして今倒れていく兵士を目で追いかけていた。
「アイネ! 生きてる連中を連れて全員後退だ! 今すぐやれ!」
「タイチさん何を!?」
「いいから今すぐやるんだ!!」
気迫に驚かされたのか、アイネはそれ以上何も言わなかった。むしろ表情が覚悟が決まったという感じであった。
「全員下がります! 動ける人は周りの人を助けてあげてください!」
アイネが動けるもの負傷兵を連れて後退していく
「タイチさんも下がっください!」
「最後に残っている奴がいないか確認してからいくよ!」
もちろん、嘘であった。手榴弾が詰まった箱にドカッと座る。
「はぁぁ……短い人生だった……」
『自決しますか?』
「それもいいけど、出来る限り味方を逃がしてにするわ」
近くに落ちていた手榴弾を拾い上げ、ピンを抜こうとする。後はここに敵が突っ込んで来たらレバーを放せばいい。こんな時にとんでもないスキルを持つ主人公が羨ましいな。
「なんだホンゴー、手榴弾を抱えて死ぬつもりか? つまらん奴だ」
「全くです少佐。首を絞める価値もありません」
「……!? ノエル少佐!リリア!」
死を覚悟した本郷の横に、ノエルとリリアが立っていた。じっくりしてレバーを放してしまい、慌てて敵目がけて投げつけた。
『ドカン!』
2人を巻き添えにして死ぬところだった。
「なんだリリア、ホンゴーに呼び捨てを許可したのか? んー?」
「別に……意味はありません! そっちの方がホンゴーが呼びやすいと思っただけです」
「ほー、そーかそーか。じゃあ私もノエルと呼んでももらうかな。ベッドでもな……?」
「少佐!? 何を言ってるんです!」
ははっ、と本郷は笑った。死のうとしていたことがバカみたいな光景だった。
「ホンゴー。よく耐えた。少し休んでいろ」
「全軍、突撃ー!!」
本郷の上を獣人が、そして正規兵たちが通り過ぎていく。どうやら正規兵までこの人たちは手玉にとって動かしてしまったらしい。恐ろしい人たちだ。
「こんな事して、上から怒られませんか……?」
「勝てばいい。勝てばいくらでもいい訳なんぞ出来る」
「際ですか……」
あれだけ劣勢だった状況がどんどん変わっていく。こちらへ向かっていた連中の後ろ姿が見える。あぁ、これで何とかなるかもしれない。本郷が安藤した時だった。
煙の上がる基地から白い閃光が打ち上げられた。




