ニューヤード平原制圧戦【4】
少しずつ、薄暗い世界が明るく染まり、山の向こうからは太陽が顔を出そうとしている。
「全員、日が出たと同時に攻撃開始だ。射角を間違えるなよ、まずは外壁に当たりさえすればいい! 装填手は、すぐに次が撃てるようにして準備! 間髪入れずに叩き込むぞ!」
前衛の人数は約170人、大砲15門にそれぞれ3人、残りは向かってくる敵へ各個対応。アイネは物見櫓で敵の確認と狙撃、本郷が各大砲への指示と銃での応戦である。
「徹甲弾、発射用意!」
前線にいた全員が身構えた。次の言葉が出れば開戦になると分かっているからだ。本郷は日が出るであろう山の方角を見る。例えるなら山の山頂から数ミリほどの太陽の先が見えるぐらいだった。
「てぇーーー!!!」
『ドッドドドドドッドドドドドッドン! ……ボンボボボボボン……』
まるで火薬庫に気が付いて、弾薬が一斉に爆発したようだった。城壁に向けられていた15門の大砲から一斉に砲弾が発射され、遠くに見える城塞から爆発が起き、煙が見え始める。全弾が当たったかは分からないが、ボロボロと城砦が崩れているのが肉眼でも見えるほどの威力だった。
「相手に時間を与えるな! どんどん撃て!」
本郷の指示で大砲が次々と火を噴いては城砦に当たり、煙の量が増えていく。
「タイチさん! 敵です! 出てきました!」
「分かった! 1番から3番、13番から15番は引き続き城門への撃ち続けろ!弾が無くなり次第榴弾に変更! それ以外はすぐに角度を変えて、榴弾を装填しろ!」
本郷の指示された大砲に付いていた獣人達が急いで大砲の角度を上にあげている。そして、ニューヤード基地からはまるで溢れ出るように敵兵がこちらに向かってきていた。
真っすぐにこちらへ突っ込んでいた騎兵たちの馬が止まり、中には暴れた馬から転げ落ちているものも見えた。仕掛けていた馬防柵に足止めをされているようだった。
「突っ込んでくるぞ! 撃て!」
相手の騎兵や歩兵の間に落ちるように砲弾が落ちては破裂し、人や馬が吹き飛んだ。それでも敵の進行は予想通り止まらない。止めることなく榴弾の雨を敵に向けて振らせていく。
「アイネどうだ!?」
上を向いた本郷がアイネに叫んだが、大砲の発射音に掻き消され、届いていない。それでも表情で察したのだろう。アイネが首を大きく横に振った。こちらの大砲の届く位置よりも内側に敵が来ていることを示していた。
「歩兵構え!」
本郷は周りにしっかりと見えるよう片手をあげてグルグルと回す。声は聞こえずとも砲兵以外の全員が銃を持ち、壁に開いた穴から方針と顔だけを覗かせて何時でも撃てるよう構える。
土煙に交じって馬防柵を突破した兵士達が向かってきていた。本郷は上げた片手を前へ振り下ろす。
「撃て!」
『パパパパパパパパパパッ!』
一斉に発射された弾丸はまるで機関銃が音を立てて撃ちだされているようだった。弾丸雨注とはこのことだ。その通り、敵に雨が降る様に弾丸が飛んでいく。そして戦闘を走る兵士達が次々と倒れていった。
『『うぉぉぉーー!!』』
それでもラカスラトの兵は止まることはなかった。そして、銃や魔法による攻撃がこちらに向かってくる。
本郷たちが用意していた壁が1つ、また1つと敵の攻撃により破壊されていく。
『ぎゃ!』
『うぐっ……』
こじ開けられた防御に攻撃が集中し、そこにいた味方から悲鳴が聞こえ、崩れるように倒れていく。
「隊長! これ以上は無理だ!」
本郷の近くにいた獣人がこちらを向いてそういうと、パスンという音が聞こえ、頭から血を流して倒れていった。開けていた穴から敵の弾が入ってきたのだ。
「まだだ……! まだ引き付けないと……!!」
それでも本郷の指示は変わらなかった。向かってくる敵に照準を向けては引き金を引く、この作業の繰り返しだった。
『……ガラガラガラ!』
背後で突然何かが崩れるような音がして本郷は銃を構えたまま振り返る。
後ろに立っていたはずの物見櫓が燃えて崩れていた。
「アイネ! どこだアイネ!」
「……ここです、大丈夫です……」
倒れる際に咄嗟に飛んだのだろう。燃える櫓の横から這い出るようにアイネの顔が見えた。それに安堵するとともに本郷は決心する。
「砲手! 焼夷弾だ! 焼夷弾を撃て!」
次々とモルモット隊の獣人達が倒れていく、そして本郷の指示を受け準備を整えた大砲から砲弾が撃ち込まれていく。榴弾と同じように落下するが、爆発と同時に勢いよく辺りを燃やし、燃え移った馬防柵がぼうぼうと燃える。
そして、傍にいたであろうラカスラトの兵たちに火が燃え移り、もがき苦しむように動いている。これを見た他の兵たちにも動揺が広がっていく。
銃も徹甲弾も人を殺すなら人道もクソもないに等しいが、燃えて死ぬのは更に苦痛を伴う。そして、それを見た者の精神にも大きなダメージとなる。それを知っていたからこそ最後まで使うのをためらっていた。それでも、生き残るためには使うしか選択肢が残されていなかった。
「タイチさん! 敵の勢いが弱まってきています!」
戦線に復帰したアイネが敵に向かって、銃を撃ちながら伝えてきた。一瞬、何かを深く考えてしまった本郷はハッと我に返る。
「……よし!」
本郷は胸元から出した信号銃を高々と上げて空に打ち上げる。真っすぐに飛んでいく信号弾がまるで宇宙に向かうロケットの様に見えた。




