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ニューヤード平原制圧戦【3】

前半が本郷側、後半がダブラス側です。

『ドン! ドドン!』


 敵のニューヤード基地の左右から手榴弾が何度も爆発する音が聞こえる。コブスとジェリドが陽動をしている音だった。そして本郷は敵にばれないように匍匐前進を繰り返していた。


『この世界に照明って技術がないのはありがたいな。いや、ガムルスでは作った方がいいかも……』


 そんなことを考えながら、移動してはアイテムボックスから馬房柵を出し、また移動しては馬房柵を設置する作業を繰り返している。


『そろそろアイネたちが壁と物見櫓の設置を終えた頃だろうか?』


 うねうねと蛇のように蛇行しながら引き続き柵を設置していく。こういう時だけアイテムボックスがあるのは良かったなと思う。スキルに関しては全く役に立たないし、アイテムボックスは基本雑用専用。


『主人公としては全くと言っていいほど目立たないけど、これしかやるしかないのが社畜の辛いとこだな』


 更にモゾモゾと草をかき分けて進む。


『何か音が聞こえなかったか?』

『気のせいじゃないか?』


 マズイ! と思いその場に地面に溶け込むように伏せる。しばらくしてこちらに向けられたかがり火が遠のいていった。心臓に悪い。さっさと設置して戻りたいと思っていた。


 本郷は設置を終えると、いそいそと相手に気が付かれないように自陣へと戻る。


「タイチさん、お帰りなさい」

「ただいま。こっちの感じはどうだ?」

「壁と物見櫓の設置は完了です。大砲の準備も整えてます」

「よし、全員角度を合わせろ! 砲弾の種類と銃と予備弾倉の準備も怠るなよ!」


 夜明けになれば開戦だ。本郷は身震いをする。出来る事であればこの戦いは避けたい。アイネも、コブスもジェリドも無事に帰すことができるだろうか……?いや、自分も生き残れるだろうか……?


()()()()()()

「するとしても今じゃねーよ。全部終わらせてからにさせてくれ」


 本郷は表示された画面に対して笑いながら答えた。

 もう少しすれば遠くの山から日が昇る。そうなれば攻撃開始だ。

 時間の流れがとても長く、止まるんじゃないかという感覚だった。


 ◇   ◇   ◇


 ダルシオ・コンスコンはニューヤードの指令室で爆発音と、かすかな振動を感じていた。


「失礼します、賢者様! 今の爆発ですが、また敵の挑発ですのでご安心ください」


 兵士がそう報告していくと、すぐに部屋を出ていった。これが報告書に合った爆発かと思った。


『これが挑発だと……? 本当にそう思っているのか? 明らかにこちらの戦意を削ぎに来ているではないか、ここの兵士は何も感じていないのか……』


 相手の行動に関して、何も感じていない兵士に違和感を感じている。これまで一方的に攻めていたせいで、ここの兵士の殆どはガムルスが多少反抗してきた程度の感覚なのだろう。


『確かにここの兵力であれば向こうの戦力に落とされることはないだろう。落とされるわけはないが、なんなのだこの嫌な感じは……!』


 ダルシオは心のどこかで、忍び寄ってくる何か歪なものを感じ取っていた。それは賢者としての経験か、才覚なのか。とにかくこのままでは良くないということを自分が言っている。


「誰か! 誰かいないか!」

「失礼します! お呼びでしょうか?」

「すぐに司令官を連れてきてくれ。大至急だ!」


 ダルシオは外にいた兵士に命令し、ニューヤード基地の司令官を呼びつけた。


「おぉ! これは賢者様、このようなお時間に何の御用ですかな?」

「すべての兵士に何時でも出撃できるように準備をさせろ。ガムルスは必ず来る……!」

「ガムルスが? はっは、賢者様もご冗談が過ぎますな。ここは鉄壁のニューヤード基地ですぞ? 高い城壁に囲まれ、奴らを見下ろしているのです。奴らが近づいてアリの様に一匹ずつ潰すまで! それに王都から来る援軍を待ってから一気にアリ共を滅ぼしてしまえばいいのですよ」


 兵士が兵士なら司令官もこの様か。頭が痛い。こうなるのであれば軍全体を掌握しておくべきだった。ある程度の自由は効かせた方がいい、と考えての行動だったが完全なる誤りだった。


「司令官、私は『何時でも出撃できるよう』と言ったのだ。分かるな?」


 ダブラスはトーンを下げ、相手を睨み付ける様に見た。


「わ、分かりました! 一応兵共には伝えておきましょう……」


 逃げ去る様に司令官は立ち去った。誰もいなくなった部屋でダブラスは窓に近寄って外を見る。


『この戦いにガムルスの召喚者が必ずいる。そして、私のところに来るだろう。それでも私は負けるわけにはいかん。私を選んだ神は、勝利の暁には私の家族を、妻を、娘を生き返らせると約束した! だから私はどんな手を使おうと、どれだけ人を殺そうと、負けるわけにはいかんのだ……!』


 ダブラスは、自身を選んだ神との約束を心で噛みしめ、迫りくる召喚者に対峙しようとしていた。

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